作品タイトル不明
470話 それは確かに、母と娘の再会
「あ……う……」
ニーナはぽろぽろと涙をこぼした。
手の甲で拭うけれど、次から次にあふれて止まらない。
体を震わせて、一歩、前に出て……
「ママっ!!!」
ニーナは今までにないほど大きな声で叫び、ノキアさんの胸に飛び込んだ。
「ママっ、ママッ、ママっ!!!」
何度も何度も叫ぶ。
もう二度と離してたまるものかと言うかのように、強く強くノキアさんに抱きついていて……
それだけで、ノキアさんがニーナの母親であることは間違いないと確信した。
ただ、肝心のノキアさんは……
「あ……えっと、その……」
どう接していいかわからない様子で、あたふたとしていた。
ニーナを抱きしめようとして、でも、伸ばした手を途中で止めて……
感動の再会というわけではなくて、とても戸惑っている。
ダメか。
ニーナを見れば、もしかしたら記憶が……
なんていう期待を抱いたのだけど、そうそううまく事が進むわけではないらしい。
ただ、確信したこともある。
ノキアさんは、間違いなくニーナの母親だ。
こうして一緒に並ぶことで、強くそう思うようになった。
顔がそっくりということもあるが……
親子ならではの雰囲気というものがあり、他人になんて見えない。
「どう、したの……? わたし、ニーナ……だよ?」
「そ、その……」
「ママ……?」
「……ごめんなさい。私は今、なにも覚えてなくて……」
「え?」
ノキアさんは、とても申しわけなさそうに言う。
なにかを感じているみたいだけど、でも、思い出すことができない。
そのことをとてももどかしく思っている様子で、大きく顔を歪めていた。
一方のニーナは、とても不安そうだ。
狐耳が垂れ下がり、尻尾もしゅんとなってしまっている。
「あー……よくわからへんけど、とりあえず、立ち話もなんやし、みんな家の中へどーぞ?」
ふわふわと漂うティナが、笑顔でひょいひょいと手招きをした。
――――――――――
俺とカナデとニーナとティナ、ノキアさんとフォンさん。
それと、話を聞いてソラとルナがリビングに集まる。
他のみんなは、外出中らしい。
まずは、ティナとソラとルナが自己紹介を。
その後、改めてノキアさんについての説明をした。
「ママ……わたしのこと、覚えていない……の?」
「……ごめんなさい」
「うぅ……」
ニーナの瞳が潤む。
せっかく母親と再会できたのに、でも、母親は自分のことを覚えてなくて……
こんな辛い現実はあるだろうか?
もしもこれが運命だとしたら、俺は、神さまを嫌いになってしまいそうだ。
「ニーナ、悲しむことはないんやで」
「ティナ……?」
「おかんが自分のことを覚えてなかったことは、悲しいことや。辛いな。でも、こうしてちゃんと再会できた。生きて、顔を合わせることができた。なら、なんとかなる!」
「うんうんっ、ティナの言う通りだよ! 記憶喪失だとしても、ずっと戻らないって決まったわけじゃないからね。絶対に方法はあると思うな」
ティナとカナデに励まされて、ニーナはコクリと頷いた。
手の甲で目元を拭い、力強い表情を見せる。
「ママの記憶……絶対に、取り戻して……みせる、ね!」
強くなったな、と感動する。
出会った頃は、とても儚げだったのだけど……
今では、その面影は残っていない。
力だけではなくて、心も成長している。
「よしよし」
「ふぁ」
どうしても褒めてあげたい気持ちになり、ニーナの頭を撫でた。
びくん、と最初は驚くものの、すぐに体の力を抜いてリラックスする。
「ん……気持ちいい」
「落ち着いたか?」
「うん……後で、尻尾のブラッシングも……してほしい、な?」
「了解だ。丁寧にしっかりとするからな」
「うん♪」
よかった、ニーナに笑顔が戻った。
やっぱり、小さい子は悲しみよりも、笑っている方が何倍もいいからな。
「でも、ソラとルナがいたのはよかった」
「む? 我らか? なぜだ?」
「ルナ……あなたの頭の中は空洞なのですか? もうちょっと考えてください」
「考えたぞ! しかし、わからぬ!」
「胸を張っていうことですか……」
「にゃー、だから駄妹って言われるんだよね」
「カナデにまで言われた!?」
ルナがガーンとショックを受ける中、ソラがノキアさんに微笑みかける。
「安心してください、ノキアさん。ソラ達は、見ての通り精霊族です。魔力に長けていて、ありとあらゆる魔法を使うことができます。その中には、相手の記憶を覗くという魔法もあります」
「あっ……」
「では、その魔法を使えば?」
ノキアさんとフォンさんが明るい顔になる。
そんな二人の期待に応えるかのように、ソラはしっかりと頷いてみせた。
「記憶の操作をすることはできないので、記憶喪失の回復は難しいですが……しかし、その手がかりを得ることはできるでしょう。期待してください」
「どうか、よろしくお願いします……!」
ノキアさんが頭を下げた。
こちらが驚いてしまうほど、深く深く頭を下げる。
「私、記憶がなくて……今までとても不安でした。でも、ニーナさんに……この子を見た時、すごく胸が温かくなって、同時に締め付けられるような思いもして……どんなことをしても記憶を取り戻さないといけないって、そう思うようになったんです。だから、どうか、この子との思い出を……取り戻させてください、お願いします」
そう言いながら、ノキアさんはニーナの頭をそっと撫でた。
その様子、その顔は、紛れもなく母のものだった。