作品タイトル不明
468話 思わぬ出会い
「らんにゃにゃー♪」
とある日の昼下がり。
暖かい陽の光を浴びて、カナデはごきげんな様子で鼻歌を歌っていた。
彼女が楽しそうなところを見ていると、俺も自然と笑顔になる。
自分だけではなくて、周囲も笑顔にする。
ある意味で、カナデの才能なのかもしれないな。
「ところでレイン、今日のお買い物はなにを買うの?」
「えっ、聞いていなかったのか?」
「にゃはは……レインとお出かけできると思うとうれしくて、うきうきしちゃって、つい」
「聞いていなかった、というわけか」
やれやれと思うものの、別に怒るようなことじゃない。
むしろ、カナデらしくて微笑ましい。
それに……
彼女の気持ちを知る今となっては、あまり強いことは言えない。
俺と一緒にいられるだけでうれしいなんてことを言われたら、男としてはうれしいのだけど、でも、どう反応していいやら。
ふう。
この問題も、あまり長引くことなく解決したいのだけど……
今のところ、どんな答えを出せばいいかさっぱりわからない。
「今日は夕飯の買い物だよ。あと、配送サービスの契約も」
「配送サービス?」
「一定期間ごとに特定の商品を店が配達してくれるサービスだよ。ウチもかなり人数が増えてきたから、一回一回の買い物が大変だろう? だから、試しに利用してみようかな、って」
「おー、なるほど。でも私は、ぜんぜんへっちゃらだけどね」
「いくらカナデでも、大量の荷物となると大変だろう? バランスを崩して、荷物を落としてしまうかもしれないし」
「むー、それもそうかも。なら、さっそく配達サービスを利用しようか!」
「最初は試しだけどな」
基本的に、ホライズンを拠点にしているものの……
先の事件のように、なにかあれば長期間、外に出ることがある。
そんな時、臨機応変に対応してくれる店でないと、配達サービスの契約を結ぶことはできない。
なので、試しなのだ。
ただ、結果からすると無用な心配だった。
店を訪ねて配達サービスを利用したい旨を告げると、快諾してくれた。
長期間、家を空ける時は、事前に言ってくれればサービスを停止するなど、臨機応変に対応してくれることも約束してくれた。
良い店だ。
問題ないので、さっそく契約。
今日の買い物もすぐに配達してもらうことになり、俺達は満足して店を後にする。
「いやー、よかったよかった。かなり理想的な契約を結ぶことができた」
「他のお店とも協力して品物を集めて、それをまとめて配送する……あのお店、けっこうすごいことを考えるよね。そんなサービス、聞いたことないよ」
「ああ、そうだな。ひょっとしたら、国で一番の商人になるかも」
他の店と提携することで、自分だけが得をするのではなくて、グループ全体が得をする。
それに提携の幅を広げることで、どんな商品も用意することができる。
このシステムを考えた人は、かなりのやり手だろう。
物流システムに革命が起きるかもしれない。
「時間余っちゃったね、すぐに帰る? それとも……えっとね、レインさえよかったら、少し散歩したいなあ、なんて」
「ああ、いいぞ」
「ホント!?」
「そんなに喜ぶようなことか?」
「もちろん! レインとお散歩お散歩ー♪」
カナデはさらに上機嫌に。
そんな彼女が微笑ましい。
「じゃあ、のんびり街を散歩するか。久しぶりだからな」
「うん!」
長い間離れていたから、ただの散歩でも新鮮な気持ちになることができる。
色々なところを旅してきたけれど……
やっぱり、ホライズンがホームグラウンドなんだなあ、と思うことができた。
「にゃん?」
ふと、隣を歩くカナデが足を止めた。
怪訝そうな顔をして、猫耳をぴょこぴょこさせている。
「どうしたんだ?」
「んー……なんていうか、変な気配? 私の仲間が近くにいるような、そんな感じ?」
「え? もしかして、またスズさんが?」
あの人だったら、唐突に現れても不思議じゃない。
「お母さんじゃないと思う。でも、それに近いような感覚が……うーん?」
カナデもハッキリとしたことはわからないらしく、不思議そうに小首を傾げていた。
スズさんと似た気配。
たぶん、最強種なのだろう。
騒ぎが起きている様子はないから、事件というわけではないと思うが……
気になる。
「ちょっと探してみるか」
「らにゃー!」
カナデの感覚を頼りに、不思議な雰囲気の主を探す。
そうして、街中を三十分ほど歩いたところで、一つの商店にたどり着いた。
パンを販売しているところで、店先に香ばしい匂いが漂っている。
「にゃあ……おいしそうな匂い」
「あっ、カナデ!?」
トラップに引っかかる魔物のような感じで、カナデがふらふらと店の中へ吸い込まれていく。
慌てて俺も扉をくぐる。
「いらっしゃいませー!」
元気な店員の笑顔に迎えられた。
カナデは……いた。
店員にあれこれと質問をして、真剣な顔でパンを吟味している。
今日のおやつは、この店のパンになりそうだ。
苦笑しつつ、店内を見回した。
そして……俺は、衝撃的な光景を目にする。
「それでは、契約成立ということで。これから良きパートナーとして、共にがんばりましょう」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
店の奥で、なにやら商談が行われていた。
二十代後半くらいの男が、店の店主らしき人と笑顔で握手をしている。
ただ、その光景に衝撃的な要素はない。
俺が驚いているのは、男の隣にいる人についてだ。
「最強種!?」
男の隣に、綺麗な女性が控えていた。
見た目は二十代半ばくらいだろうか?
カグネで見た、着物という服に似たものを着ている。
なによりも特徴的なのは、金色の髪の合間から、ぴょこんと飛び出した長い狐耳。
それと、着物の隙間からこぼれている、九本の狐の尻尾。
「ニーナ?」
思わずそうつぶやいてしまうほど、彼女は覚醒したニーナにそっくりだった。