作品タイトル不明
462話 すっかり忘れていた
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺がオリハルコンを持っているって、どういうことだ? そんなものを手に入れた記憶なんて、まるでないんだけど……」
「持っているぞ?」
「そうですね、持っていますね」
ルナだけではなくて、ソラまでそんなことを言う。
しかし、いくら記憶を掘り返してみても、オリハルコンなんて手に入れた覚えはない。
「それ、本当なん? レインの旦那は、なにも知らんみたいやけど」
「ルナさんだけならば勘違いという可能性もありますが、ソラさんも同じことを言っているとなると、確かなことなのかもしれませんわね」
「ちょっと待つのだ、なんか我に対する信頼が低くないか?」
「ふふっ、気の所為ですわ」
うーん?
ルナだけならば……
と、イリスと同じ、少し失礼なことを考えてしまう。
ただ、ソラも同じことを言っているため、俺は本当にオリハルコンを持っているのだろう。
でも、やはり記憶にない。
「真紅の涙、なのだ」
「え?」
「だから、レインはまだ真紅の涙を持っているだろう? あれ、オリハルコンなのだ」
「……」
真紅の涙?
そのアイテムの名前は、どこかで聞いた覚えが……
「もしかして、わたくしを封印するために用意したという、例のアレでしょうか?」
「あっ!?」
思い出した。
かなり前のこと……
イリスを封印すると決めた時に、精霊族から借りたアイテムだ。
封印の媒介とするために借りたのだけど……
結局、封印を行うことはなかった。
そのせいか、返却することを忘れて、そのまま。
未だに手元にあったりする。
「しまった……本当にやらかした……未だに返却していないなんて、これじゃあ、盗んだも同然じゃないか。なにをしているんだ、俺は……ああもう本当に、なんてことを」
「え、えと、事情はよくわかりませんけど、げ、元気だしてください! よ、よしよし?」
フィーニアが慰めてくれるのだけど、今は、その優しさが辛い。
「ちなみに、我は真紅の涙のこと、気づいていたぞ。いつ返すのだろうなー、忘れているのだろうなー……なんて思いつつ、そっと見守っていたのだ!」
「早く言いなさい!!!」
「ふぎゃん!?」
ソラのげんこつが落ちて、ルナがぐるぐると目を回した。
「レイン、駄妹がすみません……いえ、ソラも知りつつ黙っていたので同罪ではあるのですが、なにか考えがあるのではないかと思い、つい」
「いや、うん。基本的に、忘れていた俺が全部悪いから、そんなに謝る必要はないよ」
言い訳になってしまうのだけど……
あの時はイリスが死んでしまったと思い、その後のことをまるで考えられなかった。
だから、真紅の涙の返却のことも忘れてしまい、そのまま。
って、どうしようもない言い訳だな。
精霊族は俺を信じて真紅の涙を貸してくれたのに、それをずっと返さないままでいたなんて……
やばい、罪悪感がすごい。
「まあまあ、レインよ。そう落ち込むな。ちょうどいいと考えればいいのではないか?」
「ちょうどいい?」
「我らはオリハルコンが必要。そして、ちょうどいい具合に真紅の涙がある。ならば、これを活用しない手はなかろう!」
「いや、それはちょっと……」
無理を言って真紅の涙を借りたのに、それを勝手に武器に改造しました、なんて話をしたら、絶対に怒る。
俺のせいで、人と精霊族の溝がさらに深まってしまうかもしれない。
というか、それ以前に、借りたものを許可なくどうこうしてしまうことは、人としてダメだ。
常識がなっていない。
「まあまあ、気にするな。精霊族の我が許可するぞ。そのまま真紅の涙を利用してもよいとふぎゃん!?」
「ルナは少し黙っていましょうね」
再びげんこつが落ちて、ルナは今度こそ、目を回して気絶した。
いったい、どれほどの威力なのだろうか……?
少しソラのことが怖くなる。
「とにかく、真紅の涙の返却をしないと」
「ルナではありませんが、いっそのこと、そのままもらいうけても構わないか相談してみてはどうでしょう?」
「ソラまでそんなことを……」
「オリハルコンについては、他にアテがないのでしょう? ならば、小さな可能性でも賭けてみるべきかと思います」
「うーん……私も賛成かな? ずっと借りてたことは悪いことだけど、でもでも、案外、アルさんなら快く承諾してくれるかも?」
カナデが賛成すると、タニア、リファもそれに続く。
「というか、精霊族にとって真紅の涙って、そんなに重要なものじゃないんじゃない? 重要なものだったら、そろそろ返してくれ、とかそういう催促が来るでしょ」
「ボク、人間と接する中で、こんな言葉を覚えたよ。お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」
「いや、それは……」
タニアの言うことはともかく、リファの言うことは、なにか決定的におかしい。
よくわからないのだけど、おかしい。
「にゃー……レイン、どうするの?」
「とにかく、真紅の涙は返却する」
「もったいなくない? せっかく、オリハルコンが見つかったのに」
「タニアの言うこともわからないでもないけど、でも、そもそもの話として、これは借りているものなんだ。まずは、きちんと返さないと」
返却が大幅に遅れてしまったのだけど……
それでも、このままというわけにはいかない。
「その上で……すごく厚かましいことなんだけど、どうにかできないか、相談してみようと思う」
返却をずっと忘れていた上に、そのまま利用してもいいですか? なんて、とんでもない話だ。
普通に考えて、断られて当然。
だから、真紅の涙については、あまり期待していない。
怒られることを覚悟で、返却をしに行く。
「それともう一つ」
「にゃん?」
「ちょうどいい機会だから、長に聞いておきたいことがあるんだ」
「聞いておきたいこと? どんなこと?」
「色々と……かな」
ごまかしているわけでも、もったいぶっているわけでもない。
本当に色々なことがあるため、一言で説明することができないのだ。
ヴァイスのこと、カグネの事件、リーンのこと……
ここ最近、本当に色々なことが起きた。
そして、その分、謎が増えた。知らないことが増えた。
裏でなにか大きなことが起きているような気がして……
俺は、もっともっとたくさんのことを知らないといけない。
そう考えるようになったのだ。
「なるほど、それで長に話を……はい、それは正解だと思います。長は色々な話を知っていますし、あと、母さんも深い知識を持っていますから」
「長生き、だから……?」
「それは正解なのですが……ニーナ、それを母さんの前で言ってはいけませんよ。時と場合によっては、おしおきされます」
「ぶるぶる」
ニーナが恐ろしげに震えていた。
「それじゃあ、明日は精霊族の里に向かうということで」
「「「異議なーし!」」」