作品タイトル不明
特別話 お正月
「あけまして……」
「「「おめでとうございます!」」」
正月。
みんなで迎えた新年の朝。
窓の外に見える空は青一色で、今年が良い年であることを示しているかのようだった。
「にゃあ、温かい♪」
カナデはこたつが気に入ったらしく、尻尾がゆらゆらと揺れていた。
東大陸……カグネで使われている暖房器具らしいけど、確かに気持ちいい。
温かいだけじゃなくて心地よさも感じることができて、ともすれば寝てしまいそうだ。
「あら? これ、誰の足かしら?」
「む? ということは、これはタニアの足か?」
「なんだ、ルナなのね。小さい足ね」
「ふふんっ、我はタニアと違い、スマートでスリムだからな!」
「へぇ……」
「がくがく」
「ぶるぶる」
「タニア、愚妹の言うことなので無視してください。あと、殺気を放たないでください。ニーナとフィーニアが怯えていますよ」
こたつで温まっているはずなのだけど、ニーナとフィーニアの顔は青色だ。
タニアにギロリと睨まれているせいだろう。
女の子の足の太さは禁則事項。
触れてはいけないことなのだろう。
俺も注意しよう。
「はふぅ……キミは、ぬくぬく。もふもふ」
「最高ですわ」
「おふぅ……」
サクラを左右からリファとイリスが挟み込んでいた。
もふもふの毛皮に上半身を埋めて、下はこたつの中へ。
上も下も温かいという、極上空間だ。
サクラはちょっと迷惑そうにしていたが……
なんだかんだで面倒見がいいらしく、じっとしたまま動かない。
二人の忠犬みたいだ。
「ふぅ……」
こたつに入り、正月からのんびりと過ごす。
最高の贅沢だな。
「みんな、おまたせやでー」
ティナがふわふわ浮いて、こちらにやってきた。
その周りには、キッチンで調理したものが。
それぞれ、みんなの前に並べられる。
「これは……?」
器は丼に似ているけれど、しかし、サイズはやや小さい。
綺麗な艶のある黒に、金色の細工が施されている。
とても丁寧に作られている器だ。
その器の中に、たくさんの野菜と鶏肉が。
黄金色のスープで煮られていて、良い香りが漂う。
そして、中央に見慣れない白い物体が。
ちょんと箸でつついてみると、みょーんと伸びた。
「にゃー……うにゃんっ!」
「ちょっと、カナデ。なに狩猟本能を刺激されているのよ」
「だってだって、このみょーんって伸びる感じ、見ているとウズウズするんだもん」
「不思議、だね……でも、楽しい」
「これ、餅?」
「おっ、リファは餅を知ってるん?」
「米をこねて作った食べ物で、主にカグネで流通している。正解?」
「正解やでー。ほい、飴ちゃん」
最近、ティナが近所のおばちゃん化しているような気がした。
「そういえば、クリオスは東大陸にありましたね。カグネに近いから、色々な物や情報も入ってくるのでしょう」
「熱々だけど、はふはふっ……うまいのだ!」
みょーんと伸びる餅を、ソラ達は、はふはふしながら食べていた。
俺も一口、食べてみる。
米の甘味と旨味が凝縮されたような感じで……
それでいて、食感も楽しい。
「へぇ、こんな食べ物があったんだな」
「野菜や鶏肉と一緒に煮込んだのが、お雑煮、っていうらしいで。この前、東大陸からやってきた商人から教えてもらったんや。どや、おいしい?」
「ああ、うまいよ」
「熱々ですけど、そ、それもまたいいです。って、サクラちゃん、大丈夫?」
「キューン……」
サクラにもお雑煮が振る舞われたのだけど、熱いのは苦手だったらしく、ちょっと辛そうだ。
「俺が冷ますよ。ふーっ、ふーっ……ほら」
「オンッ!」
冷ました鶏肉と餅を小さく切り、サクラに差し出してやる。
サクラはうれしそうにかじりついた。
今度は大丈夫だったらしく、ゴクンと飲み込んで……
「オンッ! オンオンウォンッ!」
もっともっと、とおねだりするかのように、尻尾を振りつつ甘えてくる。
正直、かわいい。
今度は野菜をメインに……
「って……フィーニア。サクラって、食べたらまずいものとかあるか? ほら、ネコが柑橘類がダメなように、そんな感じで」
「ふぇ? え、えと……と、特にないと思います。サクラちゃんは犬っぽいですが、でもでも、最強種なので……」
「あぁ、それもそうか。なら、問題ないか」
安心したところで、野菜を差し出す。
サクラは好き嫌いすることなく、野菜もうれしそうにしつつ食べた。
「……なあなあ、レインの旦那。ウチも、サクラにあーん、ってやってもええ?」
「いいけど、どうしたんだ?」
「だって、ウチが作った料理をこんなにもおいしそうに食べてくれるんやで? めっちゃかわいいやん」
「そういうことなら、わたくしもあーんをしたいですわ。わたくし、猫よりも犬派ですの」
「よし、よし」
「クゥーン」
サクラがみんなに甘やかされて、
「私の立場がなんとなく危うい気分!?」
カナデは、妙な危機感を覚えていた。
――――――――――
食事を終えた後、俺は外に出た。
これから初詣に行くのだ。
カグネに伝わる文化で、正月に神さまへ挨拶をするらしい。
今までしたことがないので、少し楽しみだ。
みんなは、家の中でとある衣装に着替えている。
その衣装というのが……
「レイン、おまたせー!」
振り返ると、とある衣装……着物に着替えたみんなの姿が。
「ねえねえ、レイン。私の着物姿、どうかな?」
「これ、初めて着るんだけど、けっこう窮屈ね……」
「でも、綺麗でかわいい」
初めて着物というものを見るのだけど、とてもいいと思う。
みんなから視線を外すことができないくらいだ。
色々な柄が入っていて華やかなのだけど、しかし、どこか品があり落ち着いている服だ。
普段のみんなの明るいイメージが一転して、おしとやかな感じに。
それと、頭につけている簪というアクセサリーが、また良い味を出している。
簪そのものが華やかなアイテムであるため、みんな、いつも以上に輝いていた。
それだけではなくて髪をまとめているため、普段とは違う雰囲気があり……
「うん、すごくいいと思う。みんな、よく似合っているよ」
「にゃはー、レインに褒められちゃった♪」
「ま、まあ、悪い気分じゃないし? もっと褒めてもいいわよ」
「なあなあ、レインの旦那? ウチは? ウチはかわええ?」
ニーナの頭の上でそんなことを言うティナは、人形サイズの着物を着ていた。
特注で作ってもらったものだ。
「ああ、かわいいと思う。いつもと違う雰囲気で、なんていうか……引きつけられる感じだ」
「やーなー、レインの旦那ってばうまいんやから」
照れ隠しなのか、パシパシと叩かれる。
地味に痛い。
「ところで、神さまに挨拶と言いますが、どちらへ行くのですか?」
「神さまとなると、やはり教会なのか?」
「いや。丘の上に社があるらしい。そこに行って、挨拶をする感じかな。社だけじゃなくて、色々な露店も出ているらしいぞ」
「おー、露店! おいしいもの、いっぱい食べたいのだ!」
「ごち、そう……食べる!」
ルナとニーナが食欲に燃えていた。
そんな彼女達を微笑ましく思いつつ、丘へ移動する。
大きな道がまっすぐに伸びていて、最奥に社が見えた。
教会とは違う建築形式で、どこか落ち着いた雰囲気を感じる。
道の左右に露店が並んでいて、たくさんの人の笑顔が見えた。
「あら。お祈りを捧げる場というよりは、お祭りという感じですわね」
「賑やか」
「はわわわっ、こ、こんなところにワタシなんかがいてもいいんでしょうか!?」
「誰でも気楽に挨拶できるように、こんな場が設けられたらしい。イリスが言うように、お祭りの面が強いかな」
「なるほど。ボクは、屋台の方に興味がある」
「い、良い匂いですね……」
「おぉ、ホットドッグもあるではないか!」
みんな、食べ物の方に興味があるみたいだ。
それはそれで、らしい。
苦笑しつつ、先に行くように促す。
「屋台巡りは後にしよう。まずは、神さまに挨拶をしないとな」
「はーい」
みんなで社の前へ。
順番を待ち、祈りを捧げる番がやってきた。
銅貨を放った後、手を合わせて祈りを捧げる。
この時は、単純に願い事を思えばいいらしい。
本当に祈りを捧げるのならば、色々とおかしいところではあるが……
さきほども言ったようにお祭り的な面が強いため、なんでもありだ。
「「「……」」」
みんなで祈りを捧げた後、社を離れた。
「みなさんは、なにを願ったのですか?」
「んー……あたしは、ちゃんと強くなれるように、かしら?」
「すごい武闘派なお願いですね……ソラは、料理が上達しますように、ですね」
「そんなことは転生してもありえないと思うのだ……我は、新しい調理器具が欲しいぞ」
「わたし、は……健康に、って」
「ウチは、メイドスキルの上達やねー」
「ボクはタニアと同じで、強くなりたいかな」
「わ、ワタシは、そ、そそそ、その、もうちょっと気が強くなりますように、って……」
「オンッ! オンオン!」
「私はおいしい料理いっぱい食べたいな―、って」
「ふふっ、わたくしは、なにか趣味が欲しいと願いましたわ」
みんな、バラバラだ。
でも、らしい願いと言えた。
「ねえねえ、レインはどんなお願いをしたの?」
「俺? 俺は、これからもみんなと一緒にいられますように……かな」
――――――――――
その後、高台に登る。
街を一望できる高台からは、年明けの賑やかな街が見えた。
それと、青空に輝く太陽。
今年、初めて見る太陽はとても綺麗で、見ていると心が洗われるみたいだ。
みんなの方を振り返り、笑顔で言う。
「じゃあ、改めて……」
「「「あけまして、おめでとうございます」」」
「「「今年もよろしくお願いします!」」」