軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

459話 イリス先生の最強種講義

「というわけで……わたくしの最強種講義、始まりますわ」

「わーぱちぱちぱち!」

「ひゅーひゅー!」

カナデとルナが笑顔で拍手をして、

「「「……」」」

残りの面子は、なにこれ? というような顔をしていた。

俺は後者だ。

突然、イリスによってリビングに集められたかと思えば、今の台詞。

いったい、なにをしたいのだろうか?

「あら。カナデさんとルナさんは元気ですが、他の方はいけませんわね。もっと元気を出していただかないと、講義する方も、やる気を失ってしまいますわ」

「なあ、イリス。これは、いったいなんなんだ? 突然、講義と言われても……」

「これからに備えて、の講義ですわ」

「これかにゃ?」

「裏で暗躍する者がいて……聞けば、わたくしの魂を傷つけた忌々しい人間が、魔族化して尋常ではない力を得たと。そのことを考えると、みなさんは、今以上の力を身に着けた方がよろしいかと」

なるほど、一理ある。

敵はより強大に。

それに対抗するには、こちらも今以上の力を身につける必要がある。

ただ、どうすればいいのだろうか?

スズさんとの特訓で、戦闘技術は身につけたと思うのだけど……

もう一度、特訓を繰り返すのだろうか?

しかし、頭打ちというか、大幅な伸びしろは期待できない気がした。

「戦闘のコツ、教えてくれるの?」

「いいえ、そのようなものではありません」

リファの質問に、イリスは怪しい笑みを携えて答える。

ドッキリを企んでいる子供のようだ。

「戦闘技術の向上、連携の特訓、最適解に至る思考の強化……いずれも重要ですが、すでにみなさんは、ある程度の域に達しています。どなたからか教わったと思うのですが、よほど良い方に師事したのでしょうね」

「えへんっ!」

スズさんのことを褒められて、カナデが誇らしげに胸を張る。

やはり娘としては、母が褒められてうれしいのだろう。

「ですが、それだけでは足りません。今は問題ないとしても、いずれ、敵の力に屈してしまう時が来るでしょう。例えば、魔族化したという元勇者の仲間のように」

「大変、な……問題」

「ただ、その問題を一気に解決する方法がありますわ」

「それはなんですか?」

「覚醒、ですわ」

ニヤリと笑いつつ、イリスが答える。

小悪魔っぽい仕草は仲間になった後も直っていない。

もう癖になっているのだろうか?

「みなさんもご存知の通り、わたくし達最強種には、覚醒という切り札があります。覚醒状態に移行すれば、戦闘力は何倍……いえ、十倍以上に跳ね上がりますわ」

「十倍……す、すごいですね! あ、でも、ワタシなんかが十倍になってもたかがしれているというか、弱いままなんじゃあ……」

「フィーニアさんは、覚醒だけではなくて、もうちょっと強気にならないといけないようですわね」

やれやれとため息をこぼしつつ、イリスは話を続ける。

「覚醒というものは、そうですわね……残された力を圧縮、一気に爆発させて、通常時とは比較にならない力を得る方法ですわ。戦える時間は減ってしまいますが、代わりに、一撃必殺の強大な火力を手に入れられます」

「にゃー、そんなデメリットもあったんだね」

「でも、その分、とても強力でしょう? イリスの覚醒はすごかったし……カナデ、あんたの覚醒も、とんでもなかった、って聞いているわよ?」

「にゃははは」

カナデは照れた様子で赤くなり、頬を指先でかいた。

尻尾が落ち着きなくぴょこぴょこと揺れている。

「はい!」

「どうぞ、ルナさん」

「どうすれば、覚醒できるのだ? 我も覚醒状態に移行して、バシバシと魔法を使いたいぞ。というか、覚醒すれば絶級魔法も使えるかもしれないのだ」

「絶級魔法なんてものを使えば、地形が変わってしまうので推奨はできませんが……まあ、ルナさんの気持ちはわかりますわ。さらなる力を手に入れるために、努力は欠かさない。とても正しい姿です」

「ふふん、褒められたのだ」

「バカな……駄妹が褒められるなんて、世界はもう終わりなのでしょうか……?」

「おい、我が姉よ。ケンカを売っているのか?」

「ということは……今回の講義は、覚醒の方法をみんなに教えてくれる、っていうことでいいのか?」

話をまとめるように問いかけると、イリスはコクリと頷いた。

「今のわたくしは制限があるようなものなので、自由自在にとはいきませんが……しかし、覚醒状態に移行する方法は知っています。みなさんに教えることも、問題ありませんわ」

「ん、助かる。ボクも強くなってみたい」

「わ、ワタシなんかがうまくできるかどうか……で、ででで、でもがんばりたいですっ!」

「オンッ!」

みんな、やる気たっぷりの中、

「でも、そんな簡単にできへんのやろ? そんな簡単にできるようなら、教えてもらうまでもなく自力でほいほいとなっとるやろうし……もしかして、めっちゃ大変な試練とかあるんちゃう?」

「「「……」」」

ティナがそんな指摘をして、ピタリとみんなが固まる。

ややあって、そうなの? というような感じで、イリスに一斉に視線が集まる。

「正直なところを言うと、大変といえば大変ですわね。自力で覚醒状態に移行するには、それなりの訓練を要します。ただ、一度コツを掴めば、わりと覚醒しやすいですわ。その点、カナデさんやニーナさんなら経験済みなので、やりやすいかと」

「コツっていうのは、どういうものなのかしら?」

「そればかりは、一度、覚醒した方しかわからないので……ただ、覚醒を果たすための条件というか、トリガーはありますわ」

「それはにゃに?」

「真に誰かのことを思うこと」

イリスは、そっと己の胸元に手を当てながら、優しい声で言う。

その顔は、今まで見たことがないほどに穏やかだ。

また、見た目相応に幼さも感じられた。

今までのイリスは、いつ切れてもおかしくない、極限まで張り詰めた糸のようだった。

戦いを経た後、多少は落ち着いてはいたが……

それでもまだ、危ういところはあった。

しかし、今は違う。

見ていて安心できるほどに、とても落ち着いている。

変われば変わるものだと、妙な感慨深さを覚えると同時に……

今のイリスを見ることができて、心の底からよかったと安堵する。

「誰かを思うとは、どういうことですか?」

「そのままの意味ですわ。己よりも他人を優先させる。その人のために、全てを投げ出す覚悟を示す。少し言い方は悪いですが、自己犠牲精神でしょうか? それほどの強い覚悟と、尊い気持ちを限界まで高ぶらせた時に、覚醒を果たすことができるのです」

「なるほど」

「言われて、みれば」

カナデとニーナは、なにかしら心当たりがある様子で頷いていた。

「自分のためではなくて、誰かのために力を使いたい。誰かを助けたい。誰かを支えたい。そのような想いが、わたくし達最強種に、覚醒というさらなる力を与えてくれるのですわ」

「むう……わかるようでわからない話なのだ」

「そうですね。言葉の上では理解できるのですが、いざ実践しようとした場合、どのようにすればいいか……」

「あら。そちらに関しては、わたくしは、特に問題ないと思っていますわ」

「え?」

ソラを始め、みんなが不思議そうな顔をした。

みんなを見つつ、イリスは優しく笑いながら言う。

「誰かのために……みなさんは、当たり前のように実践しているではありませんか」

「そう、かな?」

「そうですわ。みなさんは、いつも自分のためではなくて、誰かのために戦っているではありませんか。ふふっ、契約をしているから、主に似ているのでしょうか? なにしろ、レインさんが、誰よりも己の身を削り、誰か、のために尽くしているのですから」

「そう言われると……」

「そうかもですね」

今度は、みんなの視線がこちらに集中した。

みんな温かい表情をしていて、なんていうか、妙に照れくさい。

「そんなみなさんなら、いくらか戦闘訓練を繰り返すことで、覚醒に至るでしょう。自由に移行するためには、そこからさらに訓練が必要ですが……そう長い時間はかからないかと」

「ホントに?」

「ええ、本当ですわ。わたくし、仲間に対しては嘘はつきませんの」

カナデの言葉に、ちょっといたずらっぽくイリスが答えた。

仲間以外には嘘吐き放題ということだろうが、なんとも彼女らしい。

「よーし、そういうことならがんばるよ! 私、もっともっとレインの役に立つんだから!」

「あたしだって、負けてられないわね。いつまでも、抜け駆け猫の好きにさせていられないもの」

「にゃんか不名誉なあだ名がまた一つ増えた!?」

みんなが笑い、穏やかな時間が流れる。

こんな時間がいつまでも続いて欲しい。

心の底からそう思うものの、

「失礼しますっ、シュラウドさんはいらっしゃいますか!?」

穏やかな時間は長続きしないで、すぐに事件が舞い込んでくるのだった。