作品タイトル不明
455話 微妙な距離
今日はとても良い天気だ。
空は一面の青色で、その中をゆっくりと白い雲が流れている。
ぽかぽかとした日差しが心地良い。
買い物という用事がなければ、公園に立ち寄り、昼寝でもしたいところだ。
「ねえ、レイン」
一緒に買い物に来たリファが、不思議そうに言う。
「ボク、たくさん見られているよ?」
「クリオスと違って、ホライズンには最強種なんてほとんどいないからな。どうしても目立つんだよな。イヤか?」
「ううん、イヤじゃないよ。みんな、悪い感じはしない。良い街だね」
小さな笑みを浮かべつつ、リファがそう言う。
その言葉が少しうれしい。
俺にとってホライズンは、冒険者をスタートさせた場所でもあり、家もあり、愛着のある街になっている。
だから、リファが良い街と言ってくれたことは、素直にうれしいと思う。
「ねえ、レイン」
「うん?」
「タニアは、どうして離れているの?」
「えっと……」
不思議そうなリファの視線の先には、
「……」
ずっと、そっぽを向いたままのタニアの姿が。
彼女も一緒に買い物へ、ということになったのだけど、家を出てから、ずっとこんな調子だ。
いや。
家を出てから、と言うと語弊があるかもしれない。
ここ最近、ずっとこんな調子なのだ。
家で顔を合わせた時は、小さな悲鳴をあげて逃げられてしまう。
リビングで食事をとる際は、一番遠い席へ。
最近はまともに話をした記憶がない。
こういったら失礼なのだけど、最初の頃のフィーニアみたいだ。
「レイン、悪いことした?」
「いや、それはないんだけど、なんていうか……」
答えづらい。
タニアがあんなことになったのは、間違いなく、告白関係の話によるものだ。
鈍い俺でもさすがにわかる。
顔を赤くして照れている様子だから、ほぼほぼ間違いないだろう。
あのタニアがこんな風になってしまうなんて……
と、少し意外だ。
ただ、矛盾する話かもしれないが、ある意味では納得もしていた。
強気で勝ち気で自信たっぷりなタニアではあるが……
やっぱり女の子。
そういう話は苦手というか、一度意識したらダメらしく、普段通りに振る舞うことができない様子。
かくいう俺も、どう接していいか、どう声をかけていいかわからないところがあり、このまま放置してしまい……
結果、今のようなぎこちない関係ができあがっていた。
「なんとかしないといけないんだけど、なにをすればいいのやら……」
「ケンカじゃない?」
「それは違う」
「痴情のもつれ?」
「どこでそんな言葉を……えっと、当たらずとも遠からず、という感じかな?」
「レインはたらし」
「だから、どこでそんな言葉を覚えたんだ?」
「秘密」
レゾナさんの影響だろうか?
あの人、豪快で奔放なところがあるから、年頃の娘に変なことを吹き込んでいてもおかしくはない。
「仲直り? しないとダメだよ」
「それはわかっているんだけど、どうしたらいいか」
「レイン、情けない」
「うぐ……ごめん」
「仕方ない。ここは、ボクに任せるといいよ」
「え? リファが?」
いったい、どうするんだろう?
不思議に思いつつ、その行動を見守る。
「タニア」
「な、なによ?」
「こっちこっち」
「え? ちょ……」
リファがタニアの手を引いて戻ってきた。
「レイン、手を出して」
「こうか?」
「はい、タッチ」
「「っ!?」」
リファは、俺とタニアの手を重ねた。
予想しない行動に、ついつい驚いてしまう。
それはタニアも同じらしく、元々赤い顔を、さらに朱色に染めていく。
「ちょっ、り、リファ!? なにをしているのよ!」
「照れるタニアが悪い。レインを避けたらダメ」
「うぐ……いや、でも、これはその」
「言い訳するなんて、竜族らしくない。かっこわるい」
「か、かっこわるい……!?」
タニアはひどくショックを受けた様子で、その場でふらついてすらいた。
リファのような子にかっこわるいと言われたら、確かにショックだろう。
俺も、ひどいダメージを受けてしまうに違いない。
「これでよし。レインもタニアも仲良し」
一仕事やり遂げた、というような感じで、リファは満足そうな顔をしていた。
対する俺達は、どうすればいいかわからず、ひたすらに照れて恥じらうばかりだ。
って……それじゃあダメだよな。
これからどうすればいいか?
それはまだ、わからないのだけど……でも、こういう時は、男である俺がリードしないと。
さすがに、それくらいのことはわかる。
「タニア、あのさ……せっかくだから、このまま買い物へ行かないか?」
「えっ!? こ、このままって……手を繋いだまま?」
「そ、そうだな」
「いや、でも、その……レインはいいの?」
「いいよ」
「っ」
即答すると、タニアがビクリと小さく震えた。
それから、恐る恐るというような感じで、こちらの顔を見る。
タニアの顔は赤い。
瞳はしっとりと潤んでいる。
ただ、今度は目を逸らすようなことはしないで、じっとこちらを見つめてきた。
こちらも逸らすことなく、しっかりと見つめ返す。
「……」
「……」
互いに照れて、同時に目を逸らした。
「こら、目を逸らしたらダメだよ」
「いや、しかし……」
「これ、すっごく恥ずかしいんだけど」
「それを乗り越えてこそ、だね。さあ、がんばろう」
「うぅ」
よくわからないリファの特訓が始まり、俺とタニアは、普通に話ができるようになるまで、とことんしごかれるのだった。