作品タイトル不明
454話 逆に怖い
キッチンにソラ、ルナ、ニーナの三人の姿があった。
「ふふふ」
ソラが包丁を手に、不敵な笑みを浮かべる。
『舐めたらあかんよ?』と言っているかのような、凄絶な笑みだ。
「おおぅ……我が姉よ。なぜ、そんな笑みを浮かべているのだ? というか、なんでキッチンにいるのだ?」
「キッチンにいる理由なんて、当たり前ではありませんか」
「まさか……」
「未だ、ソラの料理の腕を疑うルナに、とっておきの料理を作り、ぎゃふんと唸らせてやろうと思いまして」
「ホント勘弁してください。ぎゃふんではなくて、ぐへぇ、と断末魔の悲鳴をあげてしまいます」
普段の尊大な口調を忘れて、その場で土下座しそうな勢いで頭を下げるルナ。
そんな妹を見て、ソラは不思議そうな顔に。
「なぜ、嫌がるのですか? 今度は大丈夫ですよ。以前は、ちょっとだけ失敗してしまいましたが……日々上達。ソラも、練習を積み重ねてきましたからね」
「あの惨劇をちょっと、と表現する時点で、嫌な予感しかしないのだ……あぁ、母上よ。先立つ不孝を許してほしいのだ」
「失礼なことを言いますね」
「ん」
くいくいと、ニーナがソラのエプロンを掴んで引っ張る。
「どうしたんですか、ニーナ?」
「えと、ね。二人に料理を教えて、ほしい……な?」
「ふむ……そうですね。今日はソラの料理を披露するのではなくて、ニーナの料理教室でしたね」
「な、なんだ、そうだったのか……安心したのだ」
「ソラがでしゃばるようなことをしてはいけませんね。わかりました。秘伝を教えることに専念しましょう」
包丁を手放すソラを見て、ルナの顔がぱあっと輝いた。
そして、ソラに見えないように、ナイス! と言うかのように親指を立てる。
ぐっ、とニーナも親指を立て返した。
「では、まずは前回の復習からです。ニーナ。包丁を持つ時の手は、どんな風か覚えていますか?」
「にゃんこの、手」
「そうですね。もしくは、熊の手です」
「どういうことなのだ!?」
「なんですか、ルナ。うるさいですよ」
「姉がよくわからぬことを言うからなのだ!」
「料理の基本を教えているだけですよ?」
「基本というか冒涜ではないか?」
「そんなことはありません。ニーナもそう思いますよね?」
「がん、ばる」
微妙に噛み合わない会話を重ねつつ、料理教室を進める三人。
若干、ルナは顔を青くしていたが……こうしてのんびりできるのは、かなり久しぶりのこと。
なんだかんだで楽しそうにして、時折、笑顔が混じっていた。
「じー……」
そんな三人を物陰からこっそりと見つめる影が一つ。
フィーニアだった。
レインと行動を共にすることにしたものの、半分くらいは知らない顔だ。
今後のためにも、仲良くならないといけないのだけど、自分から話しかけるなんて、そんな恐ろしい真似はできない。
なので、顔見知りであり、なおかつ歳が近いニーナに仲介を頼もうと思ったのだけど……
「うぅ……あの二人は、確か、ソラさんとルナさんだっけ? な、なんでニーナさんと一緒に……うぅ、あぅ。は、話しかけられない」
人見知りを存分に発揮して、声をかけられないでいた。
時折、勇気を出して前に踏み出そうとするが、しかし、すぐに引っ込んでしまう。
なんで、ニーナが他の人と一緒にいるのか?
どうして、一人でいてくれないのか?
これでは仲介してもらうことができないではないか。
やはり、これは運命なのだろうか?
仲介してもらうことはできず、ずっと一人でいること……それこそが神の思し召し。
レインの仲間になったといっても、友達ができることはなく、ずっと一人でいなければいけないのだろう。
……そんなネガティブ思考に囚われたフィーニアは、目をぐるぐると回してしまう。
半ば気絶寸前というところで、
「どう……したの?」
「ふぁ!?」
いつの間にか、ニーナが目の前に移動していた。
「い、いいい、いつの間に!?」
「? 普通に……歩いて、来たよ?」
「そ、そうなんだ……え、えっと、その、あの……」
これは、またとないチャンスだ。
フィーニアは勇気を振り絞り、仲間に加えてほしい、と言おうとする。
「わ、ワタシも、その、えと……なきゃまにくひゃえくらひゃい!!!」
「???」
精一杯の勇気を振り絞ったものの、思い切り噛んでしまい、その意図はまったくニーナに伝わらない。
ダメだ、引きこもろう。
フィーニアは全部を諦めて、自分の部屋に引き返そうとするが……
「一緒に、料理……する?」
「っ!!!」
「えっと?」
「し、ししし、します! させてください!! ぜひともさせてくださいいいいいっ!!!」
この子は天使だろうか?
そんなことを本気で思いながら、フィーニアも料理教室に参加することになった。
「お、フィーニアではないか。お主も参加するのだな?」
「そういえば、まだ、あまり話をしていませんでしたね。ソラは、ソラと言います。精霊族です。よろしくお願いします」
「我はルナなのだ。姉と同じく精霊族で、この家のスーパーミラクルアイドルなのだ!」
「ふぃ、ふぃーにゃ……です! ふ、ふひひょーろく、です!」
ガチガチに緊張するフィーニアではあるが、そんな彼女のことを、ソラとルナは優しい笑顔で迎えた。
「今は、ニーナに料理を教えているのだ。フィーニアは料理は?」
「えと……ご、ごめんなさい、あまりできないです」
「では、一緒に教えてあげますね。ソラの料理の秘伝を教えてあげます」
「それはやめてください……」
「ひぅ……」
ルナとニーナがビクビクと怯える。
「料理は我が教えるのだ。我が姉はサポートを頼む」
「むう……まあ、そこまで言うのならば」
「では、ニーナ、フィーニアよ。我の特訓は厳しいぞ。ついてこれるかな?」
「がん、ばる」
「が、がんばりますっ、師匠!」
「師匠!?」
フィーニアのそんな言葉を受けて、ルナは恍惚とした表情に。
「師匠、師匠……おぉ、なんて甘美な響きなのだ。いいのだ。ルナの全てを、ニーナとフィーニアに伝授してやるぞ! そして、一緒にすばらしい料理を作るのだ」
「ん」
「は、はいっ」
「……ふふっ」
盛り上がる三人をよそに、一人、ソラは怪しい笑みを浮かべていた。
――――――――――
……二時間後。
ニーナとフィーニアと……ついでに、なぜか参加したソラの料理が完成した。
ニーナの料理は、ちょっと形は崩れているものの、とてもおいしそうな匂いがする。
フィーニアの料理は、見た目は完璧であり、どこかの一流料理店で出されるものと紹介してもおかしくはない。
ソラの料理は……相変わらずだった。
異世界に存在する未知の物質と説明されても、納得してしまいそうだ。
「こ、これは……」
できあがった料理を前に、フィーニアは感動していた。
大して料理ができなかった自分が、まさか、こんなにおいしそうなものを作ることができるなんて。
「おー、素晴らしいではないか。くんくん……うむ、匂いも完璧だし、なかなかのものではないか?」
「ニーナも、よくがんばりましたね。とてもおいしそうですよ」
「え、えへへ」
「やった」
ソラとルナに褒められた二人は、うれしそうに笑う。
「それじゃあ、さっそく食べてみましょうか」
「うむ、そうなのだ。ちなみに、我は姉の料理は食べないぞ? まだ死にたくないのだ」
「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味なのだ」
にらみ合い、バチバチと火花を散らす双子の姉妹。
そんな二人の横で、ニーナとフィーニアが席についた。
「「いただきます」」
二人は、まず最初にニーナの料理を食べた。
彼女の料理は、肉をじっくりコトコト煮込んだスープだ。
スープと肉をスプーンですくい、口へ運ぶ。
「ん。おいしく、できた」
「わぁ……す、すごいです! すごくおいしいです!」
「えへへ……あり、がと」
おいしい料理に心が和み、笑い合うニーナとフィーニア。
そんな二人の様子を見て、ソラとルナも睨み合うのを止めて、席についた。
そして、共にニーナの料理を食べる。
「うむっ、これは!」
「はい、とてもおいしいですね」
二人に褒めてもらい、ニーナがとてもうれしそうな笑顔に。
喜びを表現するかのように、三本の尻尾がひょこひょこと揺れている。
「では、次はフィーニアの料理をいただくのだ!」
これだけ素晴らしい見た目なら、さぞかし期待できるだろう。
そんなことを思いつつ、ルナはフィーニアの料理をぱくりと食べた。
「んー……うむ。まあまあなのだ」
「ほ、ほんとですか!?」
「完璧とはいえないが、最初なら、まずまずではないか? うむ。この調子で練習を重ねれば、きっとプロになれるだろう。フィーニアが、我が姉と同じ残虐拷問料理製造マシーンでなくて、安心したのだ」
「ざん……?」
「そこまで言うのなら、ソラの料理を食べてもらいましょうか」
「むぐぅ!?」
怒り顔のソラが、ルナに無理矢理料理を押し込んだ。
ルナはくぐもった悲鳴をあげて……
「……おや?」
しかし、悶絶することも気絶することもない。
もぐもぐと口を動かして、ごくんと飲み込む。
「ふ、普通の味がするのだ!? ど、どういうことなのだ!?」
「ホント……だ。普通に……食べられる、ね」
「えっと……あ、はい。普通の味ですね」
「ふふん、どうですか? ソラも、日々成長しているのですよ」
得意そうに胸を張るソラを見て、ルナは、ガクガクブルブルと震え始めた。
「わ、我が姉がまともな料理を作るなんて……あぁ、なんということだ。世界は終わりなのか……」
「どういう意味ですか!?」
「まだ、したいこと……いっぱい、あるのに……」
「ニーナまで!?」
「うぅ……さ、先立つ不孝を許してください、お母さん……」
「フィーニアも!?!?!?」
ぷるぷるとソラが震える。
拳を強く握りしめて、なんともいえない表情を浮かべて……そして、家中に響き渡る声で叫ぶ。
「せっかくうまくいったのに、こんな反応、納得いきませーーーーーんっ!!!」
……数日後。
再び料理を作ったソラは、今までと同じようなものを作り、ルナを撃沈した。
ルナは顔を青くして気絶するのだけど、その顔はとても安心した様子だったという。