軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

447話 間者

カグネの中心地から遠く離れた郊外に、ショコラの姿があった。

いつものんびりとしている彼女ではあるが、今は、いつも以上に感情が感じられない。

まるで人形のようだ。

ショコラは指を噛むようにして、口笛を鳴らす。

その音に反応して、一羽の鳩のようなものが現れた。

一見すると鳩に見えるが、羽の先端が黒く染まっていたり、角が生えているなど、普通のものでないことがわかる。

西大陸に生息する鳩の亜種。

休みなく超高速で飛び続けることが可能なため、魔族の間で伝令によく使われている鳩だ。

ショコラは伝令の文を取り出して、鳩の足に結んだ。

伝書鳩だ。

単純ではあるが、それ故に効果は大きい。

魔法を使用していないため、結界などに引っかかることもないし、探知されることもない。

「行って」

ショコラの合図で伝書鳩が羽ばたいた。

すぐに空の彼方に消える。

それを見て、ショコラはニヤリと笑い……

次いで、驚きに目を大きくする。

突然、伝書鳩が戻ってきたのだ。

なにかトラブルが?

驚きながら様子を見ていると、伝書鳩はショコラの元ではなくて……レインのところに降り立った。

――――――――――

「なんで……?」

この展開は予想外らしく、ショコラは驚きの色を瞳に浮かべていた。

それから、警戒するように、一歩後ろへ下がる。

「なんでもなにも、ないと思うけどな」

「なに?」

「彗星の剣の修理は極秘事項のはずなのに、カグネについたら、リーンが現れるし。北大陸に向かえば、同じくリーンとモニカが追いかけてくるし。どこかで情報を集めたにしても、あまりにも早すぎる」

「それは……」

「魔族にとって、東大陸は敵地なんだよ。そんなところで情報を集めるとなると、どうしても速度が制限される。敵地で迅速な行動なんて、ほぼほぼ不可能だからな。それなのに、簡単に情報を収集してみせた。普通の方法では無理だ。でも……間者が紛れ込んでいるとしたら?」

「……」

「そう考えるのは自然なこと。だから、この答えに辿り着いたことも自然なことなんだよ」

腕に乗る伝書鳩の喉を指先で撫でてやる。

クルルと鳩に酷似した鳴き声をこぼす。

見たことあるようで、見たことのない種だ。

ビーストテイマーとしての血がうずく。

時間があれば、じっくりと生態を調査したいな。

まあ……

今は、コイツの対処をしなければ。

「どうして、私が裏切っていると?」

「ぶっちゃけると、特定はしていなかったんだよ」

「え?」

あまりにも行動が先読みされすぎているから、間者の存在を疑うようになった。

しかし、その正体は不明だ。

自分達の周囲をじっくりと調べれば、正体を突き止めることができるかもしれない。

ただ、そんなことをすれば、間者も疑われていることに気づくだろう。

俺達に影を踏ませることなく、どこかへ消えてしまうに違いない。

だから、間者を特定するような行動は避けた。

その代わりに、次に取るであろう行動を予測して、分析して、罠を張ることにした。

その結果が……これだ。

ショコラという間者を突き止めることに成功した。

いや。

ショコラの姿をした誰か、というべきか。

「お前は誰だ?」

「私はショコラだけど?」

「いいや、違う。ショコラが間者なんてことは、絶対にありえない」

「どうして、そう言い切れるの?」

「シフォンの大事な仲間だからだ」

「……」

「彼女達の絆は本物だ。どんな事情があったとしても、裏切るなんてことはありえない」

くすり、とショコラが笑う。

「砂糖みたいに甘い理想論だね。人間は、裏切る時は簡単に裏切るよ? 大事な人であろうと、なんであろうと」

「それでも、俺は信じるよ。彼女達の絆がなににも勝っていると、そう信じている」

「やれやれ……そんな幼稚な想いのせいで、私のウソが見破られちゃうなんて。うーん、ちょっとショック」

ここまできたら、隠していても仕方ないと判断したのか。

あるいは、意外と潔い性格なのか。

ショコラの姿をした何者かは、口調を似せることを止めた。

「もう一度、問うぞ。お前は誰だ?」

「……」

考えるような間を挟んだ後、ショコラの姿をした何者かはニヤリと笑う。

「うん、いいよ。私の正体、教えてあげる」

「……」

「そんなに警戒しなくてもいいよ? これは、私のことを見つけられたごほうびだから。それに……大体は、予想できているんじゃない?」

「……魔族なのか?」

「せいかーい♪」

にっこりと笑い、その場でくるりと回転した。

どういう仕組みなのか、その一瞬で彼女の姿が変わる。

見た目は十歳くらいの子供の女の子だ。

背は低く、体も触れただけで折れてしまいそうなほどに細い。

銀色の髪は、軽くウェーブがかかっている。

身につけている服はフリルがたくさんついていて、まるで人形のようだ。

「私の名前は、モナ。これからよろしくね」

「魔族とよろしくするつもりはないけどな」

「うーん、それでいいの?」

「なに?」

「あなた達人間は、私達魔族のことをなにも知らないでしょう? ただ単に、全ての生き物の天敵と考えている。なぜ、人間を襲うのか? 他の生き物を滅ぼそうとするのか? その理由について、なにも知らない」

「……」

「まあ、理由なんてどうでもいい、って考える人間は大半だけどね。うん。それはそれで正しいかな? 実際に、攻撃をしてくる敵がいて、相手の事情まで考える者なんて普通はいないからね。なにも考えず迎撃することは、それはそれで正しい判断。でも……」

モナが笑う。

見た目は小さな女の子なのだけど、その笑みは、とても邪悪だ。

「あなたは、それでいいのかな? 真実を知ることなく、ただ単に敵と定めて殲滅して……それで納得できるのかな?」

「魔族にも大義があると?」

「どうだろうね。人間側からしたら、大義になるかどうか、それはわからないかな。でも、私達には私達なりの理由があるの。まあ、全部の魔族が同じとは限らないけどね。ただ、少なくとも魔王さまには大義があると思うな」

モナの言葉が真実だとしたら、とても気になる。

見逃していいものではないだろう。

ただ、

「今は、お前を捕まえることだけを考えることにするよ」

いつでも動けるように構えた。

さらに、モナの前後左右を囲むように、カナデ、タニア、シフォンが現れる。

当たり前だが、俺一人で動いているわけじゃない。

あらかじめみんなに話をして、いざという時のためについてきてもらっていた、というわけだ。

「うーん、これはちょっと不利かな? そもそも私って、変身できるだけで、戦闘はあまり得意じゃないんだよね」

「変身?」

「そうそう。見ていたと思うけど、私は誰にでも変身することができるの。それで、定期的にあなた達の仲間のフリをして潜り込んで、情報収集をしていた、っていうわけ」

「……色々と話をしているが、観念したということでいいのか?」

「まっさかー」

モナは笑いながら、モニカが所持していたものと同じ、転移の魔道具を取り出した。

「逃げ道をすでに確保しているから、余裕を見せているんだよ。色々と教えてあげたのは、私を見つけることができたことに対するごほうび」

「カナデ!」

「にゃん!」

「それじゃあ、またね」

カナデが風のように動くものの、それでも間に合わない。

モナの姿は空気に溶けるようにして消えた。