作品タイトル不明
446話 彗星の剣
彗星の剣の修理の準備はスムーズに進んだ。
あらかじめ国の方で準備が進められていて、途中でシフォンがストップをかけて……
そんな状況なので、いつでも作業に取りかかれるという。
剣を打ち直すためには、膨大な魔力と一流の職人が必要。
みんながいるから、魔力は問題ない。
そして職人の方はというと……
「久しぶりじゃのう、レイン」
「ガンツ!?」
打ち合わせに同席したのだけど、そこでガンツと再会することに。
さすがにこの展開は予想外すぎるから、驚いた。
「どうしてガンツがここに……って、聞くまでもないか。まさか、ガンツが彗星の剣を打ち直すなんて」
「儂にはそんな大層なことはできんと、最初は断ったのじゃがな。儂が一番の適任者と言われて……まあ、悪い気はしないじゃろう? それに、伝説の装備を打ち直すなんて、よくよく考えてみればとてもやりがいのある仕事だ。儂の職人人生の成果が問われるといっても過言ではない。だから、引き受けることにしたのだよ」
「なるほど。確かに、ガンツなら信頼して任せることができるからな。俺達だけじゃなくて、彗星の剣も喜ぶだろうな」
「まったく……久しぶりに会ったが、お主はまったく変わっていないのう」
「そうか?」
「そういう職人の心と魂を震わせる台詞は、お主以外にはとても口にできぬよ」
互いに笑いながら、久しぶりの再会を喜ぶ。
そんな俺達を見て、シフォンが呆れるような感心するような、微妙な顔をしていた。
「さすがレイン君、っていうべきなのかな? まさか、ガンツさんとも知り合いだなんて」
「ん? それは驚くようなことか? 同じ街で活動していたんだから、どこかで顔を合わせていてもおかしくないだろ」
「ガンツさんって、けっこう頑固でしょう? だから、仲良くなる人なんてほとんどいないの。王都にいた時も孤立していた、って聞いているし」
「えっ。ガンツは王都にいたことが?」
「うむ……まあ、そうじゃな」
ガンツは、なぜか気まずい顔になる。
王都にいた時のことは、触れられたくないのだろうか?
「なんというか……王都にいた頃の儂は、レインと出会った時よりも、色々とこじらせておってな。今思い出しても恥ずかしいくらい、偏屈じゃったのだよ」
「私も機会があって、何度か顔を合わせたことがあるんだけど、あれは偏屈っていうレベルじゃなかったよ。人間嫌い? それくらいのレベル」
「それは想像できるようなできないような」
相当大変だったんだろうな。
そのことは、シフォンの苦笑いを見ていれば、なんとなく理解できた。
「ええいっ、過去の話なんぞどうでもいい。彗星の剣の修理の話を優先するぞ」
逃げた、と思ったが、やぶ蛇になりそうなので口にはしないでおいた。
「道具も環境も整っている。儂はいつでも作業に取りかかれるが、二人はどうじゃ?」
「私も問題ないかな。彗星の剣は、肌身離さず持ち歩いているし、立ち会う準備も問題なし」
「立ち会う必要があるのか?」
「うん。私のための装備だからね。剣が主を認めるためにも、立ち会わないといけないの」
「なるほど。ああ、そうそう。俺の方は……というかみんなに関してだけど、ちょっと待ってくれないか? 具体的には、そうだな……三日くらい」
打ち直すためには膨大な魔力が必要と聞いている。
魔力といえば、精霊族のソラとルナなのだけど……
イリスの治療で精根尽き果てたらしく、まだ寝ている。
意識はあるし、ちゃんと受け答えもできる。
ただ、体を動かそうとするとふらついてしまうため、今は静養している。
エルフィンさんに診てもらっているし、たぶん、明日か明後日には回復すると思うが……
念の為、数日は休んでいてほしい。
「うん、了解。それに関しては、まったく問題ないよ。そこまで急いでいるわけじゃないし、ソラさんとルナさんに無理をさせるわけにはいかないからね」
「ありがとう。そう言ってもらえると、助かるよ」
「では、準備も含めて、修理は五日後に行うということでいいかのう?」
異議なし、と俺とシフォンが同意して、日程が決められた。
――――――――――
五日後。
「ふはぁーっはっはっは! 我、復活!!!」
「ルナ、うるさいですよ」
「ふぎゅ!?」
高笑いを響かせるルナに、ソラの鉄拳制裁が炸裂した。
ルナはなんともいえない悲鳴をあげて、ばたりと地面に倒れる。
そんな二人を見たガンツが微妙な顔になる。
「のう、レイン……この子達は大丈夫なのか?」
「大丈夫さ。普段は、まあ……こんなだけど。でも、すごく頼りになるから」
「そうか。ふむ、お主がそう言うのなら、問題ないのだろう」
そして……彗星の剣の修理が始まった。
ソラとルナが無理をしないか気になるため、俺も立ち会わせてもらうことに。
ソラとルナがガンツを挟むように左右に立ち、その少し前にシフォンが。
魔力を注ぎ込むと、ボロボロの彗星の剣が輝き出した。
ガンツは槌を持ち、カーンカーンと打ち始める。
ガンツが槌を振るう度に、彗星の剣に付着していた錆が落ちていく。
魔力が形となり、欠損した部分を補っていく。
それだけでは足りない。
最高の剣に仕上げなければならない。
そんな気迫を感じさせる勢いで、ガンツは槌を振り続けた。
たくさんの汗を流して、疲労に吐息を荒くしても、決して手を止めることはない。
まさしく、魂を込めて槌を振るっているのだろう。
ガンツは休むことなく槌を振るい続けた。
俺達は、その様子をじっと見守る。
そして……
「……うむ、完成じゃ」
半日ほどが経過したところで、ガンツが手を止めた。
そして、ぽつりとそうつぶやいた。
「ガンツさん、できたの?」
「うむ。これが、嬢ちゃんの剣だ」
疲労でガンツはふらふらになっていた。
そんな彼を倒れないように支える。
すまぬのう、とガンツは礼を言った後、シフォンに一振りの剣を差し出す。
「これが……彗星の剣……」
刀身は水晶のように透明で、淡い輝きを放っていた。
たぶん、ソラとルナの魔力なのだろう。
二人の力が溢れ出すほどで、離れて見ているだけでも、ゾクリと震えてしまうほどの力を感じる。
「うむ。儂の最高傑作と言っても過言ではない。大切に使ってくれ」
「はいっ!」
シフォンは彗星の剣を受け取り、しっかりと頷いてみせるのだった。