作品タイトル不明
443話 なんのために?
「……」
「……」
エルフィンさんとフィーニアがイリスの治療を行ってくれている。
俺は少し離れた場所で、その様子を見守る。
本当ならば、なにか手伝いたいのだけど……
でも、なにもできることはない。
ただただ、様子を見守るだけだ。
歯がゆい。
なにもできない自分を恨む。
ちなみに、ソラとルナはティナによって、別の部屋に運ばれていった。
二人共、もう限界寸前だったらしく、すぐに眠ってしまったらしい。
ティナは、そんな二人の様子を見ている。
本当に……感謝しかない。
ここまで力を貸してくれて。
一生懸命になってくれて。
この件が終わったら、なにかしたいと思う。
でも……
「お、お母さん……」
「わかっています……これは……」
二人の表情は優れない。
体調が悪いとか、そういう感じではない。
ただ……思い通りにいかず、焦っているように見えた。
「あの……状況を聞いてもいいですか?」
邪魔するわけにはいかないと思い、今まで黙っていたのだけど……
我慢の限界に達してしまい、そう尋ねた。
「もしかして……治療できない?」
「いえ、それはありません。私ならば、たとえ死者であろうと生き返らせてみせましょう。死後、長い間が経っているというのならば、さすがに難しいですが……あの精霊族が、とてもがんばっていたこともあり、治療するのはなにも問題はない状態です。ただ……」
「こ、この子は、その……生きる意思を、なくしているみたい……です」
恐る恐るという感じで、フィーニアがそう言う。
「生きる……意思?」
「なんていうか、その、あの……もう死んでもいいや、とか、そんな風に思っているところがあるみたいで」
「そんな思いを抱くようになれば、それは、もはや死者と変わりません。そのような者の治療をしても、生きようとする意思がなければ……無駄になってしまいます」
「そんな……」
二人の邪魔をしないようにしつつ、イリスの隣に移動して、その手を握る。
「なんで、そんなことに……また話をするって、約束したじゃないか!」
強く、イリスに語りかけるものの……
返事はない。
ただただ、握る手の平は冷たくなっていった。
――――――――――
「……ここは、どこなのでしょうか?」
気がつけば、わたくしは、真っ暗な闇の中にいました。
右を見ても左を見ても、前後上下を見ても黒。
夜の水中に沈んでいるかのようで、ともすれば、平衡感覚が危うくなってしまいます。
そんなところに、わたくしは、ぼーっと立っていました。
「えっと……ダメですわ。記憶が曖昧で、なにも思い出せません」
なぜ、こんなところにいるのか?
思い出そうとしても、記憶にもやがかかり、なにもわかりません。
とにかくも、出口を探して歩いてみることにしました。
転ばないように注意しつつ、前に進んでいきます。
しかし、周囲の闇はなにも変わりません。
どこを歩いているのか?
どこを目指しているのか?
すぐにわからなくなり、軽く混乱さえしてしまいます。
「……このようなことをして、なにになるのでしょうね?」
わたくしは、歩みを止めました。
出口を探して、ここから脱出する。
そう思ったものの……
でも、脱出してどうするのでしょうか?
その後に、なにが待っているのでしょうか?
「なにも待っていませんわね……」
家族は、皆、死にました。
友達も全て消えました。
仲間も殺されました。
わたくしは一人。
この暗闇の中、たった一人……
「復讐を糧に生きてきましたが……でも、それもやめて。そうなると、わたくしは、なんのために生きているのでしょうか?」
ふと、そんな疑問を胸に抱きました。
その疑問はどんどん大きくなり、わたくしの心を蝕みます。
レインさまと出会うことで、復讐をやめることにしました。
ですが……今までのわたくしは、復讐だけを頼りに生きてきました。
それ以外のことは、なにも考えていませんでした。
なので……今のわたくしは、空っぽ。
なにもない。
この手に残るものは、ゼロ。
こんな状態で生きて、なにをしようというのでしょうか?
なにも……できるわけがありません。
レインさま達と再会した時は、今までと変わらないように振る舞っていたものの……
でも、虚無感は心の奥底に根付いていて、離れてくれなくて、わたくしの魂を縛り続けていて……
そして、それは今も変わりません。
「わたくしは……なにをしたいのでしょう? いったい、なにを……」
言葉にして、さらに虚しくなりました。
空っぽの胸に風が吹き付けているみたいで、とても寒い。
寒いです……
「もう……終わりにしてもいいのかもしれませんね」
復讐のことだけを考えて、生きてきて……
でも、その目的が消えてなくなり……
わたくしは空っぽになって……
「わたくしは……なんのために生きているのでしょうか?」
そうして、自分の生に疑問を持ち。
瞬間、一気に意識が薄れていきました。
周囲の闇に呑まれるように、思考がバラバラに砕けていきます。
「そうですね……終わりに、しましょう」
わたくしのようなものが生きていても、仕方ない。
なにも意味がない。
だから、ここで終わりにしよう。
そう決めて、わたくしは、そっと目を閉じて……
「イリスッ!!!」
突然、大きな声が響いたのでした。