作品タイトル不明
437話 とある魔法使いの成れの果て
「こんな、こと……あるわけ、ないし……ごはっ」
リーンは地面に膝をついて、肩で息をしていた。
時折、口から黒い液体を吐き出している。
たぶん、血なのだろう。
魔族化したことで、血も黒くなり、完全に人を捨てているようだ。
「この、あたしがぁ……こんな、ところでぇ……!」
リーンは立ち上がろうとするが、体が動かないらしい。
それもそのはずだ。
右肩から胸元まで、カムイで切り裂かれた傷が大きく走っていて……
左腕は、肩の部分から根こそぎ吹き飛んでいる。
その他、あちらこちらに大きな傷があり……
正直、生きているのが不思議な状態だ。
魔族化していなければ、即死だろう。
「終わりだな」
一時期、リーンとはパーティーを組んでいて……
ひどい扱いを受けていたけど、それでも仲間だった。
だから、同情をするかもしれないと思ったけど、そんなことはない。
ただ、ざまあみろ、というような感情を抱くこともなくて……
俺は単純に、哀れんでいた。
勇者パーティーの一員がこんな風に落ちぶれて……
こんな果ての地で最後を迎える。
ひたすらに哀れだ。
「なによ、その目は……!」
今にも倒れそうにしつつ、しかし心は折れていない様子で、リーンはこちらを睨みつけてきた。
激しい怒りを瞳に燃やしつつ、叫ぶ。
「その目、やめなさいよっ!」
「……リーン……」
「なんで、あんたなんかに哀れまれなくちゃいけないのよっ。あんたみたいな雑魚に哀れまれるなんて、ありえないんだからっ……そうよ、あたしは強い、強いの! 力を手に入れたの。だから、そんな目で見られることなんて、もう二度と……!」
魂を振り絞るようにして、リーンは血を吐くようにしつつ言う。
その様子を見て、なんとなく察した。
どうしようもないヤツだけど……
でも、彼女は彼女なりに譲れないものがあったのだろう。
なにかしら大事なものがあり……
それを守るために、ひたすらに攻撃的になっていたのだろう。
わがままが当たり前になって、暴君のように振る舞うことでしか、守ることができなくなっていた……そんな感じだと思う。
詳細は知らない。
彼女のことはよく知らないし、プライベートな話なんてまるでしていない。
「……もしも」
リーンと色々な話をしていたら、あるいは、違う結末を迎えていたのか?
考えても仕方のないことだけど、考えずにはいられなかった。
「ただ」
俺はカムイを構えた。
ここまで色々なことをやらかしたリーンを逃すなんて選択肢はないし……
魔族化した以上、討伐する以外の手はない。
拘束しても、逃げられるかもしれない。
ここで討つ。
「終わりだ、リーン」
「くっ、うううううっ……! イヤ、イヤよ……こんなところで死ぬなんて、絶対にイヤ! 認められるわけないじゃないっ、そんなふざけた結末、絶対に認めない! イヤっ、イヤイヤイヤッ、あたしはぁっ!!!」
その瞬間、ドクンッ、という心臓の鼓動のような音が聞こえた。
「えっ」
リーンが惚けたような顔になり、
「あっ、あああああぁ!? ぎっ、いいい、うあああああっ!!!?」
苦しみ、悶え始めた
己の体を抱きしめるようにして震えて、ありったけの悲鳴をこぼしている。
「レインっ、なんかイヤな予感がするよ!」
一番、勘の良いカナデが険しい顔をした。
「ぐぎぎぎっ、ぎぁっ、ああああああっ、あうぅ!?」
リーンの傷口から、黒い触手が飛び出した。
それらは傷口を塞いで、新しい右腕を形成していく。
それだけに留まらない。
黒い触手はリーンの体にぐるぐると巻き付いていく。
より戦闘に適した形に。
より兵器に適した形に。
そんな意思を感じられる動きで、リーンを作り変えていく。
黒い触手にリーンが飲み込まれていく。
本人にもどうすることができないらしく、涙目になり、こちらに手を伸ばしてきた。
「たすけっ……!」
「リーン、お前……」
「イヤっ! あたしは、あたしはぁっ!!!」
俺は、しっかりとカムイを握りしめた。
リーンはどうしようもないヤツだ。
昔、色々とされたことは忘れていない。
怒りを覚えることもある。
やっぱり、こんなことになった今も、哀れみしか湧いてこない。
同情することなんてない。
それでも。
元仲間として。
最後の情けくらいはかけようと思う。
「カナデ」
「うん」
こちらの意図をすぐに理解してくれて、カナデは手を差し出してきた。
その手を握り、力を分けてもらう。
カムイの刀身が赤く、熱を発する。
しかし、これでは足りない。
今のリーンを討つためには、さらなる力が必要だ。
もっと。
もっと。
もっと。
ありったけの力をかき集めて、溜めて、収束させる。
そして、限界まで来たところで準備が整う。
「あたしはっ、あたしのまま……あぁ!?」
「今、終わらせてやる」
カムイを振り上げて、
「完全な化け物に堕ちる前に、人として眠れ」
覚醒状態のカナデの力を借りた、限界を超えた一撃を放つ。
その攻撃はリーンの肉体を破壊するだけではなくて、その奥に潜む魂を捉えて……粉々に砕いた。