軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

430話 悪意を糧に

「ほらほら、まだ安心するのは早いわよ!」

イグニートランスを複数同時に発動させたばかりで、普通は、新しい魔法を唱えることなんてできない。

できないはずなのに……リーンは、こちらの常識をことごとく上回る。

竜の幻影……ドラグーンハウリングを唱えた。

しかも、複数。

逃げることは許さないというように、絨毯爆撃をしかけてきた。

シグレさんは闘気を発現させて、超加速をして範囲外に逃れる。

カナデは、空を飛ぶかのように大ジャンプ。

さらに何度も宙を蹴り、体を右にして伏せて上体を逸らし、攻撃を回避する。

そして俺は、物質創造と重力操作で防いで……

「まずいっ!?」

リーンは手の平をこちらに向けて、さらなる追撃に移ろうとしていた。

くそっ。

そこまでの連射性能を持つなんて、反則だろう!

「ブラッドシュート」

「それを……っぽい」

リファが血の弾丸を連射して、ニーナがそれを転移させる。

リーンを取り囲むように、四方八方から攻撃が叩き込まれるが、

「あははっ、なにそれ。雑魚いんですけど」

リーンは己の周りの空間を歪ませて、血の弾丸を防いだ。

それだけじゃなくて、こちらへの追撃も止めない。

圧縮した空気の塊をぶつけて、その後に炸裂させる中級魔法、エアロボムだ。

「ぐあっ!?」

今度は避けることができず、直撃した。

平衡感覚が失われるほどの衝撃が走り、十メートルほど吹き飛ばされてしまう。

何度か地面をバウンドして、ようやく止まる。

幸いというべきか、大したダメージは……

「っ!?」

ゾクリと悪寒が走る。

痛む体に鞭を打ち、無理矢理跳んだ。

直後、巨大な火球が着弾した。

リーンが得意としている上級魔法、レッドクリムゾンだろう。

「あははっ、ざんねーん。もうちょっと伸びていたら、直撃で丸焦げだったのに」

「くっ」

一つの魔法を複数唱えることができるだけじゃなくて……

異なる魔法を複数、同時に詠唱することができるなんて。

ソラとルナと俺の能力から、良いところを全部抜き出したような力を持つ。

「調子に乗るんじゃないさね。あたしはレイン達は好ましく思うが、それ以外の人間には容赦しないよ!」

「魔族に成り果てた愚かな人間よ、その魂、浄化してあげましょう!」

嵐のような猛攻を繰り出してくるというのならば、さらに、それ以上の猛撃を叩き込めばいい。

そんな感じで、エルフィンさんは紅蓮の炎を生み出した。

背中から生える炎の翼はみるみるうちに大きくなり、空を覆い尽くしてしまうほどに。

「フィーニア、合わせなさい!」

「は、はひっ」

多少テンパりつつも、フィーニアも炎を生み出す。

その威力、大きさはエルフィンさんに匹敵するほど。

これが彼女の力。

エルフィンさんの娘で、次の長といわれているだけのことはある。

「燃やし尽くしなさいっ!」

「も、燃えてくださぃっ!?」

二人分の炎の翼が編み込まれ、一つの巨大な炎柱となる。

それをハンマーのように扱い、リーンに向けて叩きつける。

「へぇ、これは」

初めてリーンの顔色が変わる。

余裕たっぷりの笑みから、少し驚いたようなものへ。

ただ、焦りや危機感といった、そういう表情は見られない。

まだまだ余裕がある、底がある……という感じか?

「ちょっと暑いから、こんなのはどう?」

片手で炎柱を受け止めつつ、もう片方の手で魔法を使う。

キィイイインッと大気が震えた。

リーンの片手に魔力と冷気が収束されていく。

そして、パチンと指を鳴らす。

巨大な氷塊が生まれた。

一流の職人が手を加えているかのように、氷がどんどん削れていく。

最終的に、巨大な氷塊は、氷の鳥に作り変えられる。

命が宿る氷の鳥は、翼を広げ、甲高い声で鳴く。

それを合図として、嵐が吹き荒れた。

凍えるほどの冷気、全てを切り裂くような氷の刃……それらが一体となり、周囲を飲み込んでいく。

まるで、全てを踏み潰す暴君だ。

エルフィンさんとフィーニアの合体攻撃も、その前では無力で、ほどなくして炎柱がかき消されてしまう。

それだけに留まらず、冷気の嵐がこちらに牙を剥いてきた。

この威力……超級魔法か!?

「この程度で……!」

トリッキーな動きを披露しつつ、シグレさんが、リーンの直上から突貫する。

エルフィンさんとフィーニアの攻撃に隠れる形での奇襲だ。

しかも、速度は申し分ない。

これならば、と思うのだけど……

「羽虫がうっとうしいんですけど?」

「なっ!?」

いつも冷静で落ち着いているシグレさんが驚いたところなんて、初めて見た。

俺も驚いていた。

リーンは、この展開も読んでいたらしい。

あらかじめて展開されていたであろう魔力の盾が、シグレさんの突撃を阻む。

無論、その程度で呀狼族を止めることはできない。

魔力の盾は数秒耐えただけで、すぐに粉々に砕けた。

しかし、その数秒で十分だった。

「はい、さようなら」

「っ!?」

複数の竜の幻影。

同時詠唱されたドラグーンハウリングが、シグレさんを捉える。

シグレさんは回避しようとするが、その数が多すぎる。

数十、数百に達するほどの竜の幻影から逃れることはできず、被弾。

アリが群がるように、そこにさらに連発して、ドラグーンハウリングが着弾した。

何度も何度も。

「シグレさんっ!」

放っておくことはできない。

俺は地面を蹴り、竜の幻影の嵐の中へ飛び込んだ。