作品タイトル不明
428話 超越
「遅かったじゃない」
地上に出ると、リーンが待ち構えていた。
俺達が追いかけてくるという確信を持っていたのだろう。
ただ、少し意外だ。
性格がねじくれている彼女のことだから、出会い頭に攻撃をしたり、あるいは里……ダンジョンに攻撃魔法を連発して、生き埋めにしようとするとか。
そういうことを企んでいると思ったのだけど、そんなことはない。
俺達が来るまで、律儀になにもしないで待っていた。
「わざわざ待っていてくれたのか?」
「攻撃魔法連打して、生き埋めにしてもよかったんだけどねー。でも、それじゃあつまらないじゃない? 見えないところで死なれるよりは、あたしの目の前でもがいてもがいて、がんばって死んでもらわないと。じゃないと、殺しがいがないわ」
自分の手で殺したい。
じわじわとなぶりたい。
だから、がんばって抵抗してね?
という宣戦布告なのだろう。
しばらく顔を合わせることはなかったのだけど、リーンの性格はまったく変わっていない。
勇者パーティーでなくなり、もしかしたら、少しは変わっているかも……
なんて思ったけれど、そんなことはない。
今まで通り、その性格は腐ったままだ。
安心した。
これなら、顔見知りとかそういうことを気にすることなく、おもいきりやることができる。
「塵になりなさいっ!」
「ちょっ!?」
いきなり攻撃したのは、エルフィンさんだった。
燐光のようなものを発しつつ、紅蓮の業火を生み出す。
それを矢のようにして撃ち出した。
目標は、もちろんリーンだ。
彼女は目を軽く大きくして驚くものの、狼狽するような、情けない姿は見せない。
「ふふんっ」
得意そうな笑みを浮かべつつ、リーンは腕を振る。
その動きに応じて、青く燃える炎が出現した。
自身に迫る紅蓮の業火に激突して、相殺する。
「いきなり攻撃するなんて、やってくれるじゃん」
「これは試合ではないのです。律儀に開始の合図をすると思っていましたか?」
「あー、ホント生意気なんですけど。ガキみたいに生意気で、うるさくて、わがままで……あははっ、壊し甲斐があるわぁ♪ せいぜい、楽しく無様に泣きなさい」
リーンは、両手を左右に広げた。
即座に魔法を発動させることはなくて、手の平に魔力を収束させていく。
ゾクリと背中が震えてしまうほどの、圧倒的な力を感じる。
「このっ、人間ごときがふざけた口を!」
「所詮は人間。己の力量を過信して、滅びることしかできない」
「愚か者め! 我らが炎の裁きを受けるがいい!」
リーンの言動に怒りを覚えた様子で、三人の不死鳥族が前に出た。
ゴォッ! と大気を熱で揺らしながら、極大の炎を生み出す。
鉄を簡単に溶かしてしまうほどの熱。
それだけではなくて、もしかしたら、岩も溶かしてしまうかもしれない。
まさに必殺の一撃。
普通の人間なら抵抗することはできず、一瞬で骨も残さず燃やし尽くされるだろう。
しかし、相手は普通の人間ではない。
魔族と化したリーンなのだ。
「やめっ……!?」
猛烈に嫌な予感を覚えて止めようとするが、間に合わない。
三人の不死鳥族は、それぞれが生み出した炎をリーンに向けて飛ばす。
その一撃は、エルフィンさんに匹敵するだろう。
それほどに苛烈で巨大な炎だ。
でも、それじゃあダメだ。
ぜんぜん足りない。
「くすっ」
リーンが笑う。
不死鳥族達の攻撃を児戯と言うかのように、あざ笑う。
「ダメダーメ。そんな攻撃じゃあ、あたしを殺すことなんてできないわ」
リーンはなにをするわけでもなく、両手を広げた体勢のまま、迫りくる炎を睨みつける。
たったそれだけのことで、炎が消失してしまう。
空気に飲み込まれ、最初からなにもなかったかのように、景色に溶けて消えた。
ありえない現象に、不死鳥族達が動揺する。
「なっ……!?」
「ば、バカな!? いったい、なにが……」
「なんだっけ? 名前とか覚えてないけど、相手の攻撃を分析、解析して、その構造に手を加えて打ち消す。ホント、なんだっけかなー? あのクソトカゲが使っていた技……なんとかキャンセラー、だっけ?」
たぶん、マテリアルキャンセラーのことだろう。
いつだったか……かなり前のことだから記憶が曖昧だけど、タニアから聞いたことがある。
対象の魔法、能力を無効化するというスキルだ。
そんなとんでもないスキルは、もちろん、誰にでも扱えるわけじゃない。
最強種、あるいはそれに匹敵する力が求められる。
その上で、もう一つ条件があると聞いている。
その条件というのは……対象との間の、圧倒的な力の差。
「今の、けっこう危ない攻撃よね。なにもしなかったら、あたし、死んでたかも。なら……あたしもやってもいいわよね? 殺そうとしたんだから、殺される覚悟はあるわよね?」
「ひっ!?」
リーンの底知れない殺気をぶつけられて、不死鳥族の一人が一歩、後ろに下がる。
ただの人間に、最強種が心で負けた瞬間だった。
「逃げる? 降参する? 服従する? だったら、見逃してあげる。あたし、そこまで鬼じゃないもの」
「ふ、ふざけたことを言うな!」
「人間なんかに、そのような真似ができるものか!」
「そうだ! 我ら不死鳥族、その魂は気高く、人間などに下るくらいならば死を選ぶっ」
「あっそ。なら、死になさいよ」
リーンは両手を前に突き出した。
両手に収束された魔力が形を取り、再び青白い炎が現れる。
両手から放たれた炎は、蛇のようにうねり、互いに絡まり合う。
そのまま回転、巨大化を繰り返して、炎の竜巻へと成長した。
大地をえぐり、触れるものを燃やし、全てを薙ぎ払いながら炎の竜巻が不死鳥族達に迫る。
咄嗟にガードしようとするが、それは無意味だ。
不死鳥族達は炎の壁を作り出すが、それがどうした? というかのように、炎の竜巻は一瞬で全てを飲み込む。
三人の不死鳥族達は、炎の竜巻に飲み込まれ、デタラメに振り回される。
そして、炎に強い耐性があるはずの彼らを、炎で焼いていく。
身も心も魂すらも、なにもかも焼き尽くす。
その後には……なにも残らない。
「まさ、か……たったの一撃で?」
残りの不死鳥族が顔を青ざめさせていた。
「あはっ、あははは! なにこれ、めっちゃウケるんですけど。これが最強種? 人の上に立つ存在? ばっかじゃないの。とんでもない雑魚なんですけど! 最強の名前が聞いて呆れるわ、あはははっ!」
「こ、のっ……!!!」
仲間をやられたことで、エルフィンさんが激怒する。
仇を討つというかのように、さらに巨大な炎を生み出して……
「エルフィンさん!」
「っ!?」
俺は彼女の手を引いて、一度、その動きを止める。