軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

354話 女騎士と魔法使い

「ふーん……あの天族、こんなところに派遣されていたんだ」

遠く離れた場所からレインとイリスの姿を観察する影があった。

肉眼で目視できる距離ならば、レインとイリスは気配を探知していたかもしれない。

しかし、相手は魔法を使用して、超長距離からの観察を行っていた。

さすがに、魔法を利用しての長距離探知を、自然と察する術はレインもイリスも持っていない。

意識すれば別かもしれないが、意識していない状態では気づくことは難しい。

そして、遠くから観察をしている者の正体は……

「あーあ、こんな最東端の街に来ないといけないなんて、ホント、面倒なんですけど」

「すみません、リーンさん」

リーンとモニカだった。

彼女達に与えられた任務は二つ。

一つは、勇者の目的である、彗星の剣の修理を阻止すること。

そしてもう一つは……

「あの天族が裏切る可能性が高い、ね……それホントなの?」

「ええ、かなりの可能性であるかと。リースさまもそう仰っていますし、私も同じ見解です」

「なるほどね。ま、不思議じゃないか。あいつ、前もあたしらを裏切ってくれたし」

リーンとモニカに与えられた二つ目の命令。

それは、イリスが離れた場合、とある処置を施せというものだった。

レインと一緒に行動するイリスを見て、リーンはニヤニヤと笑う。

「あたしとしては、裏切ってくれて構わないんだけどねー。ふざけたことをしてくれたお礼、まだしてなかったし」

「リーンさんの気持ちはわからないでもありませんが……真偽がハッキリとするまでは、我慢していただければ。イリスさんには、リースさまも期待しているので」

「力だけはあったからねー、性格は最悪だけど」

以前、裏切られたことを未だ根に持っている様子で、リーンは苦い顔をしていた。

封印を解いてやったのは誰なのか?

自分達だ。

それなのに、その恩を忘れて牙を剥いてきた。

あの事件が一因となり、坂道を転がり落ちるように、名誉が離れていった。

許されることではない。

リーンはそんなことを考えていたが……

そもそもが、封印を解くという行い自体、悪なのだ。

リーン達は良いことをしたわけではなくて、悪いことをした。

その結果、報いを受けた。

因果応報であり、当たり前のことなのだ。

それなのに、その事実からリーンは目を背けている。

自分達は悪くないと当たり前のように言い、イリスが全て悪いと罪をなすりつける。

まったく成長していない。

いや。

ある意味では、以前よりも悪い方向に成長はしていた。

思考がさらに歪になり、善と悪の判断が今まで以上につかなくなってきていた。

そんなリーンを見て、モニカは内心で嗤う。

リースが望む通りに、リーン達の魂は黒に染まっていく。

次々と穢を溜め込み、反転していっている。

この調子でいけば、問題なく主の望みを叶えられるだろう。

リースの力になることができていることを、モニカは心の底から喜び、わずかに体を震わせるのだった。

「ん? どうかした?」

「いえ、なにも……」

いけない、とモニカは自分を諌めた。

ついつい興奮してしまい、わずかながらも態度に出てしまった。

そういう些細なところからほころびが生じて、全てが崩壊しないとも限らない。

モニカはこころを律して、話を続ける。

「っていうかさ、あの天族があたしらを裏切ってた場合、普通に殺しちゃダメなんだよね?」

「ええ、そうですね。殺すには殺しますが、とある処置をすることが必須です。そうすることが、リース様の望みなので」

「ぶっちゃけ、面倒よねー。っていうか、厄介? 一応、相手は最強種なんだし……うまくいくかしら? ま、普通に戦う分には負ける気はしないけどねー」

リーンは自信に満ちた顔でそう言う。

以前、イリスと戦った時は、四対一でも圧倒されていた。

そんな苦い過去があるというのに、今は、自信を見せている。

その理由は、リースの元で修行をしたからだ。

このままでは役立たずになってしまう。

力がないせいで、肝心なところで失敗してしまうかもしれない。

そんな恐れを抱いたリーンは、より強い力を求めた。

その結果、リースの元で修行をするということに。

修行なんてめんどくさい、と膨れていたリーンではあったが……

ミナに励まされ、アリオスに促される形で、最後までやり遂げた。

その結果、大幅なパワーアップを果たすことに。

今なら最強種を相手にしても負けない。

一対一だとしても、蹂躙できる自信がある。

あるのだけど……

「とある処置、っていうのが厄介よねー。だってさー、その間、動きを封じておかないといけないわけじゃない? こっちの準備には、それなりの時間がかかるから」

「そうですね……そこが問題ではありますが、そのために、リースさまからその杖をいただいたのでは?」

「まーね」

リーンは右手に持つ杖をクルクルと回してみせた。

杖の柄の大半がガラス製という、変わった杖だ。

柄は長く、ともすれば槍のよう。

先端には七色に輝く水晶が収められている。

クルクルと回転させたり。

コンコンと地面を叩いたり。

リーンはわりと乱雑に扱っているものの、杖が破損することはなく、傷一つつかない。

それを見て、リーンは笑みを浮かべる。

「さすが、伝説の装備『虹水晶』ね。持っているだけで、すごい力があるってわかるわ」

前魔王を討伐した勇者パーティーの一人……

英雄と呼ばれている魔法使いが使用していた装備だ。

高い魔力を秘めていて、空間を操る能力があると言われている。

元は、王城で厳重に保管されていた。

しかし、先のアリオス脱獄の際に、モニカが盗み出したものだ。

勇者専用の伝説の装備は偽物を掴まされて、奪取に失敗したものの……

その他の装備は、きちんと手に入れていた。

「その杖を使えば、最強種を相手に、とある処置をすることも可能ではないかと」

「そうねー、わりと楽になると思うわ。ありがと、モニカ。でも、ホントによかったの? こんなもの、あたしがもらって」

「ええ、もちろんです。アリオスさまこそが真の勇者であり、その仲間であるリーンさんが手にすることこそが、ふさわしいですから」

「ふふーん、ま、そうよね。あたしが一番ふさわしいわよね」

おだてられているだけなのに、上機嫌になるリーン。

面倒な性格ではあるものの、実際は扱いやすいところがあった。

「それで……モニカから見て、あの天族はどう思う? あのゴミと一緒にいるってことは、もうあたしらを裏切ってると判断してもいいんじゃない?」

「確かに、レインさんと行動を共にしていますが……まだなんとも言えませんね」

「えー、裏切り確定じゃない?」

「さすがに、カグネがこのようなことになっているなんて、私達も予想していませんでしたから。この事態を乗り切るために、一時的に協力をする……という判断をしたとしても、それは責められないかと」

「まあ、それは……あーもう、面倒ねー! なんでこんなことになってるのよ」

リーン達にとっても、カグネの異常は想定外の事態だ。

まさか、街一つをまるごと飲み込むような特殊な結界が展開されているなんて、誰が思うだろうか?

その結界が、少しずつ大きさを広げているなんて、想定できるだろうか?

幸いというべきか、リーン達は夢に囚われていない。

リーンの幸せは、金や名誉といった俗物的なものであり、夢で得られるようなものではないからだ。

モニカの幸せは、他の人にとっての不幸そのものだ。

魔族の行動原理の一つである、人類の殲滅というものに似ている。

その夢を実現しようとすれば、他人に不幸をもたらすことになる。

故に、夢に囚われることはない。

「ったく、最強種っていうのは、いつでもどんな時でも面倒なことをしてくれるわね」

「確かに面倒ではありますが、しかし、私達にとってもチャンスかと。おかげで、彗星の剣の修理は停滞していますからね」

「まーね。その点だけは、よくやったわと褒めてあげてもいいわ」

いつでも上から目線なリーンであった。

「ところでさ」

「はい?」

「このまま、どんどん魔物をぶつける、っていう作戦はどうかしら?」

「それは……あまりオススメできませんが。レインさんもイリスさんも、この程度の魔物では倒すことは難しいかと。そもそも、イリスさんは、まだ……」

「倒すことが目的じゃなくて、疲弊させることが目的よ。雑魚を立て続けにぶつけられたら、さすがに疲れるっしょ。そうやって疲れさせておけば、あとあと、どんな展開になったとしてもやりやすいでしょ?」

「それは……」

「というわけで、けってーい! ふふんっ、空間を操る『虹水晶』の力、思う存分に実験させてもらうわ」