作品タイトル不明
217話 ぶらり馬車の旅
街を出て、数時間ほど経っただろうか?
街はとっくに見えなくなり、外の景色は見知らぬものになる。
カタカタカタと車輪の回る音。
時折、馬が鳴いて、御者が手綱を引く。
そして、ガタンという音と共に、馬車が揺れる。
小石かなにかを踏んだのだろう。
「あー……うー……」
「やばいです……マジやばいです……」
ソラとルナが青い顔をしてぐったりしていた。
馬車に酔ったらしい。
慣れていない人は、この些細な振動が続く状況はキツイらしいからな。
この馬車は、クッションを敷くなどして、それなりに振動対策がされているが……
それでも、揺れを完全に消すことはできない。
「大丈夫か? 水でも飲むか?」
「いいのだ……今、水なんて飲んだら……リバースしてしまうのだ……」
「ホントやばいです……激やばです……」
ルナはいつもの元気がなくて……
ソラは気持ち悪さのあまり、ちょっと言語が崩壊していた。
他のみんなは……
「にゃー……こうしていると、風が気持ちいいね」
「馬車で旅をするっていうのも、なかなか乙なものね」
「なんだか……眠く、なるね……あふぅ」
「ふんふーん♪ ゆっくり旅をするのもええなー」
それぞれ馬車を楽しんでいた。
乗り物酔いは、ソラとルナだけらしい。
王都までは馬車で五日ほど。
昇格試験開始まではまだ時間があるから、ある程度遅れたとしても問題はない。
「すまない。どこか止められるところを見つけたら、一度、止めてくれないか?」
そう御者に声をかけた。
「うぅ……レイン、我らのことは気にしなくていいのだ……」
「そうですよ……これくらい、なんとも……うぷっ」
「青い顔をして言われてもな……まだ余裕はあるから、急ぐ必要はないさ。一旦休憩して、なにかしら対策を考えよう」
それから30分ほど進んだところで、休憩所が見えてきた。
馬車で行き交う人のために作られたものだ。
馬車を停めることができて、さらに、そのまま野営をするだけのスペースも用意されている。
王都までの道は長いため、ところどころにこうした休憩所が設置されているのだ。
「どれくらい休みますか?」
御者の言葉に考える。
空を見ると、太陽が真上に見えた。
昼過ぎというところか。
このままここで一泊……というのは、さすがに現実的じゃない。
一時間ほど休んでから出発したいところだけど……
なにかしら対策をしていないと、すぐにソラとルナが酔ってしまうだろう。
いい方法があればいいんだけど……
「とりあえず、一時間の休憩で」
御者にそう返して、ソラとルナを馬車から下ろした。
二人共ぐったりと弱りきっていて、自力で動けないらしい。
それぞれ、休憩所に設置されているベンチに寝かせた。
「大丈夫か?」
「ダメです……ソラはもう、ばたんきゅ~です……」
「レインよ……我の屍を乗り越えていくのだ……ここは、我が食い止めるのだ……」
「二人共、なにと戦っているんだよ」
ついつい苦笑してしまう。
とりあえず、しゃべるだけの元気はあるみたいだ。
馬車から降りたことで、多少、回復したらしい。
もっとも、すぐに動くことはできそうにないし……
再び馬車に乗れば、すぐにダウンしてしまうだろう。
さて、どうしたものか?
こういう時、治癒術士がいないのは痛いな。
治癒術士がいれば、魔法や薬でなんとかなったのかもしれないが……
俺を含めて、みんな、その方向の知識はないからな。
「レインっ!」
カナデが駆けてきた。
「なんか、あっちの方で悲鳴が聞こえたよ!」
「え?」
カナデが街道の先を指さした。
特になにも見えないが……
でも、猫霊族のカナデが言うのだから間違いないのだろう。
「ああもうっ、次から次へと問題が!」
「どうする?」
「放っておけない。様子を見に行くぞ!」
「アイアイサー!」
びしっ、と敬礼をするカナデ。
だから、どこでそんなことを覚えてきたんだ?
「カナデとティナは俺と一緒に。タニアとニーナは、ソラとルナと馬車を頼む!」
指示を飛ばして、俺はすぐに駆け出した。
――――――――――
5分ほど走ったところで、魔物に囲まれている馬車が見えた。
俺達が使っているものとは違い、丁寧な細工が施されている高級な馬車だ。
貴族が乗っているのだろうか?
そして、その周囲を囲む魔物……オーガ達。
オーガはCランクの魔物で、簡単に言うと東の国で言う鬼のような外見をしている。
Cランクなので、戦闘能力はそこそこ高い。
さらに、高い再生能力を有している。
一撃で急所を突かなければ、すぐに傷が再生してしまうという厄介な特徴がある。
馬車を守る騎士は三人。
対するオーガは六体。
騎士の方が力は上みたいだが、一度に二体を相手にすることになり、苦戦を強いられているみたいだ。
一撃で急所を潰すことができず、追い込まれていく。
「……うん?」
ふと、違和感を覚えた。
騎士達は懸命に戦っているように見えるが……どこか、余力を残しているように見えた。
その動きは、時々ひどく緩慢なものになり……
まるで、オーガを馬車に誘導しているみたいだ。
気の所為だろうか?
「うにゃんっ、一番乗り!」
まず最初にカナデが突撃した。
騎士に襲いかかろうとしていたオーガの顔を、横から蹴り飛ばす。
巨大な鉄球でもぶつけられたかのように、オーガが勢いよく吹き飛んだ。
さすが、猫霊族。
その力の前に、オーガの巨体も抗う術を持たないらしい。
「続けていくでー!」
カナデの頭に乗っていたティナも攻撃を繰り出した。
そこらに転がっている石を魔力で操り、矢のごとく射出する。
たかが石と侮ることなかれ。
超高速で射出された石は全てを穿つ刃となり、オーガの胸を急所ごと貫いた。
巨体が倒れて、その体が魔石に変わる。
「そして、三番手!」
最後に俺が飛び込んだ。
疑問はあるが、今は考える間はない。
ナルカミのワイヤーをオーガの足に絡ませて、引きずり倒す。
そうして動きを封じたところで、胸にカムイを突き立てて、さらに横にえぐる。
これからAランクの昇格試験を受けようとしているんだ。
Cランクのオーガに手こずるわけにはいかない。
「なっ……お前たちは、いったい!?」
「話は後だ! 加勢するから、そっちは馬車を頼むっ」
「……わかった! 感謝するっ」
騎士達は最初は驚いていたが、すぐに気持ちを切り替えて、陣形を立て直した。
馬車に寄り添うようにして、武器と盾を構える。
迅速な判断と迷いのない動き……かなり訓練されているな。
「レインっ、そっちにいったよ!」
「わかった!」
馬車に誰が乗っているのか?
それは後で考えることにして、今は、オーガ達を掃討しよう。
俺はカムイを構えて、咆哮を上げて襲い来るオーガを迎撃した。
――――――――――
戦闘を始めて5分ほどで片がついた。
「大丈夫か?」
「ああ……問題ない」
全身鎧に身を包んだ騎士は、兜を脱いで頭を下げた。
やけに礼儀正しい。
主にそういう風に教育されているのだろうか?
だとしたら、この騎士達の主は、それなりの身分ということになるが……
「君達のおかげで助かった、感謝する」
「困ったときはお互いさまだ。気にしないでくれ」
「ありがとう」
再び騎士が頭を下げた。
そこまですることはないのだけど……とてもまっすぐな性格をしているらしい。
「怪我人は他にいないか? 馬車の中の人は無事か?」
「それは問題ないが……」
騎士が難しい顔をした。
「助けてもらっておいて失礼な話なのだが、我らの主は顔を見せることができない。身勝手なことと理解しているが、どうか……」
「アレク。そのような失礼を許した覚えはありませんよ」
馬車から一人の女の子が降りてきた。
その女の子を見て、騎士が慌てる。
「ひ、姫様!?」