作品タイトル不明
218話 王女
歳は俺と同じくらいだろうか?
少女と大人の中間という感じで、どこか、あどけなさを残している。
金色の髪は腰まで伸びていて、宝石のように綺麗な輝きを放つ髪飾りをつけていた。
その瞳はエメラルドグリーン。
吸い込まれてしまいそうなほどに深く、綺麗な目だ。
身にまとうドレスは白を基本としていて、清廉なイメージを受ける。
そのドレスはきらびやかな細工が施されていて、職人の魂が込められているものだと、一目見てわかる。
「アレク」
「はっ」
アレクと呼ばれた騎士は、馬車から降りてきた女の子を見て、すぐに膝をついて頭を下げた。
「この方達がいなければ、私達は命を落としていたかもしれません。いわば、命の恩人です。それなのに、礼を告げることもなく立ち去るようなことはできません。そのようなことをすれば、ロールリーズの名に傷がついてしまいます」
「はっ……申し訳ありませんでした」
「いえ、わかっていただければいいのです」
女の子が口にした、ロールリーズという名に聞き覚えがあった。
というか、聞き覚えがあって当然の名前だ。
この国に暮らす者は、その名前の統治下で、日々、生活をしているのだから。
「はじめまして」
女の子がこちらを向いて、ドレスを軽くつまみながらお辞儀をした。
「サーリャ・ロールリーズと申します。助けていただき、深く感謝しています」
「まさか……姫さま!?」
「はい。父アルガスは国の王であり……私は第三王女という立場にあります」
「し、失礼しましたっ!」
騎士達と同じように、慌てて膝をついて頭を下げた。
「にゃん? レイン、どうしたの?」
カナデは不思議そうにしたまま、のんびりとしていた。
カナデは猫霊族だから、王女さまのことを知らないのだろう。
そもそも最強種は国に所属していないので、王女に頭を下げる理由もない。
「あわわわっ!?」
当たり前だけど、ティナは王女さまのことを知っているらしく、ガクガクと震えていた。
「か、カナデ! レインの旦那のように、早く頭を下げるんや!」
「え? なんで?」
「この方は、とてもえらい人なんや! 王女さまなんや!」
「そうなの?」
「そうなんや! だから、間違ってもタメ口とか聞いたらあかんで!? というか、ウチらが話をしていい方じゃ……」
「王女さま、っていうことは長の娘、みたいなものかな? 私は長の娘じゃないけど、でもでも、一番強いお母さんの娘だから、似たようなものかな? よろしくね~♪」
「あわわわっ……!?」
カナデは、にこにこと王女さまにやたらフランクに挨拶をして……
そんな様子に、ティナが泡を吹いて気絶しそうになっていた。
たぶん、俺も同じように顔を青くしていると思う。
俺、不敬罪で処刑になるかもしれない……
「ふふっ」
俺達の緊張を解くように、鈴が転がるような笑い声が響いた。
王女さまの声だ。
カナデを見て、楽しそうに笑っている。
「あなたは猫霊族なのですね?」
「うん、そうだよ。カナデ、っていうんだ」
「なるほど、カナデさんですか。私は、サーリャです。よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくだよ~♪」
なぜか、カナデが王女さまと仲良くなっていた。
カナデのコミュニケーション能力が半端ない……
「き、貴様っ! 姫さまに対して無礼を働くなんて……!!!」
アレクと呼ばれた騎士が激高するが、
「アレク、下がりなさい」
「し、しかし……!」
「カナデ達は命の恩人なのですよ? 礼を言うのではなくて、剣を向けるなど愚の極みです。それに……」
くすりと笑い、王女さまは楽しそうに言う。
「このように気さくに話しかけられるなんて、いつ以来のことでしょうか……? とても新鮮な気持ちで、楽しく思いました。私は気にしていないので、この場は下がりなさい」
「ですが、そのようなことでは姫さまの威厳が……」
「この場にいるのは私達だけです。アレク達が黙ってくれるのならば、何も問題はありません。それとも、父に私は国の威厳を落とすような真似をした、と報告いたしますか?」
「い、いえっ、そのようなことは……!」
「ならば、この場は私に任せてくださいませんか?」
「……かしこまりました」
どうやら、うまい具合に話が収まったらしい。
「じゅ、寿命が縮んだわぁ……」
カナデの頭の上で、ティナがへなへなと崩れ落ちた。
その気持ち、よくわかるぞ……
俺も、未だにドキドキしているからな。
「さあ、あなたも普通にしてください」
「えっと……」
「アレクに言ったように、この場限りならば問題ありません。私は気にしませんから……それとも、王女命令を出した方がよろしいですか?」
「はは……わかりました」
王女さまとは思えないくらい、気さくな性格をしている。
そのことがおもしろくて、ついつい笑みを浮かべてしまう。
「っ……!」
アレクという騎士に睨まれるが、この際、気にしないことにした。
王女さまが問題ないという以上、大丈夫だろう。
俺は立ち上がり、真正面から王女さまを見る。
それから、頭を下げた。
さすがに、挨拶の時は頭を下げないといけない。
「はじめまして。俺の名前は、レイン・シュラウド。冒険者です」
「レインさん、と呼んでも?」
「はい、お好きにどうぞ」
「では、レインさんと呼びますね。レインさんも、私のことはサーリャと」
「え!? いや、さすがにそれは……」
「公の場では困りますが、ここなら他の人の目はありませんから。私が良いと言っているのですから、構いませんよ。さあ、どうかサーリャと呼んでください」
まいった。
思っていた以上に、王女さまはヤンチャみたいだ。
「じゃあ……サーリャさま、で」
「さまは必須なのですか?」
「さすがに呼び捨ては、ちょっと……」
「まあ、この辺りが妥協点ですね。仕方ありません、我慢します」
そんなこんなで……
王女さま……もとい、サーリャさまと知り合う俺達であった。
――――――――――
俺に仲間がいると知り、サーリャさまは引き返すことを提案した。
合流した方が安全、という判断をしたのだろう。
こちらもサーリャさまを放置するつもりなんてないので、了承した。
そうして休憩所まで引き返して……
他のみんなと合流した。
「へえー、あなた、王女さまなんだ。一応、よろしくしてあげる。あたしは竜族のタニアよ」
カナデと同様に、タニアもなんら物怖じすることなく、そう告げた。
さすがというか……
妙なところで頼もしさを覚えてしまう。
「ニーナ……です。よろしく、ね……?」
ニーナはやや緊張していた。
ただ、人見知りの傾向があるので、サーリャさまでなくても同じ対応をしていたと思う。
ソラとルナは……
「「ぐへぇ……」」
未だ伸びていた。
まともに話ができなさそうなので、二人の紹介は後にしておいた。
ちなみに御者は、俺の仕事は馬の手綱を握ることで、その他のことは何も関係ない……というように、御者台に静かに座っていた。
なんというか、プロの魂というものを感じた。
その後……情報交換というべきか、サーリャさまとその親衛隊隊長のアレクを交えて話をした。
俺の目的は昇級試験であること。
そのために王都に向かう途中であることを話した。
「なるほど、昇級試験を受けるために王都へ……レインさんはすごいのですね」
「え? なにがですか?」
「カナデさんのような最強種を仲間にしているだけではなくて、その歳でBランクに達しているなんて……そのような話、私は聞いたことありません」
「そうなんですか?」
「ふふっ、どうして冒険者でない私の方が詳しいのですか? 普通、逆だと思いますが」
「はは、言われてみるとおかしいですね」
サーリャさまは意外と気さくな人で、話せる人だった。
まあ、気さくな性格をしていなければ、気軽に接していいなどと言うわけがないか。
「にゃー……レインがまた新しい女の子と仲良くなってる」
「あたしたちのことは気にならない、っていうのかしら?」
なぜか、二人の視線が痛い。
「よろしければ、レインさんがどのようなことをしてきたのか、お話してくれませんか? 冒険者の方の話に興味があって」
「ひ、姫さま。このようなところでむやみに時間を消費するなど……」
「それもそうですね……では、こうしましょう。レインさん、私達の護衛を引き受けてくれませんか?」