作品タイトル不明
214話 監視と密会
アリオス一行は、王都から近いところにある魔物の住処へ向かっていた。
魔物が山の廃村を根城にして、道行く人々に危害を加えている。
その魔物の排除が目的だ。
本来ならば、アリオスは魔物なんかを相手にするつもりはなかった。
自分が相手をしなければいけないのは、最低でも魔族以上。
四天王などがメインで、そこらの雑魚にいちいち構うことなんてできない。
雑魚は冒険者にでも任せればいい。
その間に、民に被害が出るかもしれない?
知ったことではない。
そんなことを本気で考えていた。
なので、いつもならば無視していたのだけど……
今回は事情が違った。
「さあ、アリオスさま。もう少しで目的地ですよ。がんばりましょう」
騎士の鎧をまとった女が、にっこりと笑顔でアリオスに声をかけた。
金色の髪は肩で切りそろえられている。
鎧を身に着けていても、その体のメリハリがよくわかる。
街を歩けば、ついつい振り返ってしまうような美貌の持ち主の名前は……モニカ・エクレール。
国王直属の親衛隊の一人だ。
なぜ、親衛隊がアリオスと行動を共にしているのか?
答えは……監視だ。
最近のアリオスの行動は目に余るものだった。
独断専行がすぎるだけではなくて、民に危害を及ぼす愚行に走る。
とはいえ、勇者であるアリオスを閉じ込めておくわけにはいかない。
かといって、今すぐに性格を矯正する方法なんてない。
そこで国王は、監視をつけることにしたのだ。
すぐ傍に監視の目が配置されて、逐一、行動を報告されている状態では、さすがにバカな行動はできないだろう。
そう考えた国王は、アリオスの元にモニカを派遣したのだ。
当初は、アリオスはモニカを受け入れず、追い返そうとしたが……
モニカの派遣は国王が決定したことだ。
国王命令には、さすがのアリオスも逆らうことができず、渋々ながらも受け入れた……というわけだ。
そして今……
『自分は勇者らしく、きちんと活動しています』ということをモニカに見せつけるために、本来ならスルーするはずの魔物退治を引き受けて、根城に向かっているのだった。
「くそっ」
モニカに聞こえない程度に、アリオスは舌打ちをした。
なぜ、自分がこんなことをしなければいけない?
なぜ、監視されなければいけない?
完全な自業自得なのだけど、アリオスはそのことに気づくことなく、心の中で悪態を垂れ流し続けた。
その一方で、アッガスやリーン、ミナ達はモニカと親しげに話をしていた。
「ふむ、なるほどな。そういう見方もあるか……モニカ殿は先の先まで見ているのだな」
「いえ、私なんてまだまだですよ。親衛隊には、もっとすごい方がいますからね。あと、アッガスさん。私のことは、モニカで構いませんよ。殿なんてつけられると、くすぐったくて仕方ありません」
「わかった。なら、モニカと呼ばせてもらおう」
「ねーねー、モニカ」
今度はリーンが話しかけた。
「はい、なんですか?」
「んー」
リーンは、モニカのことをじっと見つめた。
「すっごい綺麗な肌してるよね」
「え? そうでしょうか?」
「どんなケアしてるの? 教えてくんない? ねっ、ミナも興味あるっしょ?」
「いえ。私はそのようなことは別に……」
「ほら、ミナも興味あるって。教えてよー」
「あはは……と、言われても困りましたね。私、特別なことはなにもしていないのですが……」
「えっ!? うっそ、マジで!? 素でソレなの!?」
「はい」
「うっわー……自信なくすわー……ねえねえ、ミナもそう思わない? モニカって反則だよねー」
「いえ。私は特に興味はないので……」
「まてよ? もしかして、日頃の生活が関係してんのかな? ねーねー、モニカは……」
……などなど。
アリオスを除く一行は、モニカという存在をわりと簡単に受け入れていた。
元々、国王命令だから逆らえないというものはあるが……
それ以上に、気さくで真面目なモニカの人柄が気に入られた、ということが大きい。
アリオスの暴走により、パーティーが崩壊しつつあったが……
そこに、モニカという中和剤が投入された。
そのおかげでパーティーの和が保たれて、笑顔が増えてきていた。
……ただし、アリオスを除く、という話になるが。
「……ちっ」
楽しそうに話をする仲間達を、アリオスはつまらなそうに見た。
モニカは自分達を監視するために派遣されたというのに、なぜ、そんなヤツと仲良くするのか?
仲間は頭がおかしいのではないか?
わりと真剣に、アリオスはそんなことを考えていた。
「……ふふ」
「っ……!?」
不意に、モニカと目が合った。
そこそこの距離が離れているはずなのに……
アリオスの視線に気がついたというように、モニカが振り返り、目を合わせてきた。
そして……笑った。
他の者が見たら、仲間に向けた優しい笑みと判断するだろう。
しかし、アリオスは別の判断をした。
なんて……冷たく笑うのだろうか。
モニカの笑みは氷のように冷たい。
いや。
氷なんて生易しいものではない。
それ以上の、もっとおぞましいものを感じさせる……
人のものではないような、そんな笑みだった。
「……なんなんだ、あの女は……」
モニカから視線を外して、アリオスは足を進めた。
……気がつけば、手に汗をかいていた。
――――――――――
アリオス一行は滞りなく魔物を撃破した。
王都へ戻り、国が用意してくれた宿に泊まる。
そして……夜。
「……」
誰もが寝静まったような遅い時間。
アリオス達が泊まっている宿から、一人の人影が現れた。
その人影は、ローブをかぶっていて、何者なのかわからない。
また、人目を避けるように行動して、裏道をコソコソと移動していた。
そして……人影はとある建物に入った。
今は使われていない住居だ。
「……ふう」
小さな吐息をこぼして、人影はローブを脱いだ。
そこから現れたのは……金色の髪を持つモニカだった。
モニカは誰もいない建物を見回して……
「おまたせしました」
「ふふっ、遅かったですね」
暗闇から声が響いた。
夜の闇が凝縮して、実体を伴う。
闇から現れたのは……魔族だった。
その瞳は紫に輝いていて、夜闇の中で不気味な光を放っている。
悪魔の翼と悪魔の角。
そして、悪魔の尻尾。
にやりと口角を釣り上げて、楽しそうに笑っている。
「このような夜遅くまでナニをしていたのかしら? もしかして、勇者と楽しんでいたの?」
「ご冗談を、リースさま。私とアリオスさまは、そのような関係ではありません」
「なんだ、つまらないわね。そうだとしたら、もっとおもしろくなっていたと思うのに」
「リースさまがそうしろ、というのならば従いますが?」
「そうね……戯れで言っただけなのだけど、それはそれで、悪くないわね」
リースと呼ばれた魔族は、考えるような仕草をとる。
「仲良くなっておきなさい。そうしておいた方が損はないわ」
「わかりました」
「あ、体の関係にまで発展するかどうかは、モニカに任せるわ。私、そんなことまで強要するような上司じゃないもの」
「では、そちらは様子を見て判断します」
「そうしてちょうだい」
相手が魔族だというのに……
親衛隊であるモニカは、膝をついて、頭を下げながら、敬意を払い言葉を紡いでいる。
この場に第三者がいれば、この異様な光景に驚いていたかもしれない。
しかし、この二人にとって、これは当たり前のことなのだ。
モニカにとって、真に仕える相手は国王ではなくて、目の前の魔族のリースなのだから。
「それじゃあ、話を聞きましょうか」
「はい」
「邪魔者になりつつある人間、レイン・シュラウドを排除する。それともう一つ……人間の勇者、アリオスを私達の都合の良い方向に誘導する。その二つがうまくいっているかどうか、聞かせてちょうだい?」