作品タイトル不明
206話 タニアの……
ある程度の被害が出たものの、幸いというべきか、死者はゼロ。
負傷者は多数出てしまったけれど、皆、重傷ではなかった。
それと、ニセモノを捕らえたことでタニアの疑いを晴らすことができた。
晴れて無罪放免、となったわけだ。
そこまではいい。
問題は……
「しかし、こいつらはどうしたものか」
騎士団ホライズン支部。
その中で、ステラは難しい顔をしていた。
その視線の先には、俺たちが捕まえた竜族が二人。
ドラゴン形態のままでは色々と困るので、強制的に人間の姿をとらせていた。
その上で、ソラとルナの魔法で身動きがとれないようにしていた。
普通の縄や手錠だと、簡単に引きちぎってしまうからな。
暴れた時のために、俺たちが傍で待機している。
「裁判にかけるんじゃないの?」
「普通の人ならばそうするところなのだが、相手は最強種だ。扱いに困る」
カナデの質問に、ステラがため息をこぼした。
人であれ最強種であれ、罪には罰を与えなければいけない。
ステラも、本来ならば竜族達を裁判にかけたいのだろうが……
そもそも、この二人は人を敵視している。
仮に、裁判で鉱山で10年の労働刑を課したとしても、おとなしく従うことはない。
人の社会の中で生きていないから、人の法で裁くことができないのだ。
例え、強引に鉱山送りにしても逃げられてしまうのがオチだ。
今は俺達がいるから逃げ出せないだけで、隙を見せれば、すぐに逃げ出してしまうだろう。
そしてまた、復讐にやってくる。
……なんか、どうしようもない気がしてきた。
「ヤッてしまうか?」
「ヤッてしまいますか?」
双子が恐ろしい意見を口にした。
いや、まあ。
俺も人のことは言えないんだけどな。
「亜空間に……ぽいっ?」
「ニーナ……それはそれで、えげつないで」
ニーナの頭の上で、ティナがちょっと引いていた。
「過去に最強種が罪を犯した、っていう例はないのか?」
「あるにはあるのだが……」
ステラに尋ねてみると、難しい顔をされた。
「途中で逃げられた、がんじがらめにして封印した、死罪にした……あまり参考にならないんだよ」
「なるほど」
最強種を恒久的に逃げられないようにする方法なんて思い浮かばないし。
封印するにしても、とんでもない労力が必要になるだろう。割に合わない。
死罪にするにしても、そこまでの罪を犯したとは思えない。
ステラが扱いに困るのも納得だ。
俺達も事件に関わっているので、このまま放っておくことはできないのだけど……
しかし、どうしたものか?
うまい落とし所が見つからない。
「こいつらのことだけど、あたしに任せてもらってもいい?」
様子を見ていたタニアが、そんなことを言い出した。
カナデがぎょっとした顔をする。
「ま、まさか、タニア……これ幸いと、仕返しをするつもりじゃあ……」
「そんなわけないでしょ。レインがきっちりとやり返してくれたんだから、これ以上、ひどいことはしないわ」
「タニアがそんなことを言うなんて……まさか、ニセモノ!?」
「カナデの中のあたしは、いったいどうなっているのよ……」
「怒らせたら怖い大魔神?」
「そう認識しているのなら、なんで怒らせるようなことを言うのかしらねえ……? あんたの尻尾、ぐるぐる巻きにして二度とほどけないようにしてあげましょうか?」
「にゃあああっ!?」
この二人、仲が良いのか悪いのか……
「はい、ストップ。話がおもいきりそれているぞ」
「あら、ごめんなさい」
話を元に戻す。
「それで……タニアに任せる、っていうのは? なにか解決策が?」
「ええ。とっておきがあるわよ。たぶん、そろそろ着くんじゃないかしら?」
「着く?」
なんのことだろう?
疑問に思っていると……
タイミングを見計らっていたかのように、バンッ! と騎士団支部の扉が勢いよく開いた。
そこから、小さい影が飛び出してきて……
「タニアちゃんっ!!!」
ぎゅうっ! とタニアに抱きついた。
見た目は、ニーナと同じくらいだろうか?
タニアを二回りくらいコンパクトにしたような外見をしていて、かわいらしい。
ただ、小さいけれど体の凹凸はハッキリしていて、わがままボディだ。
トランジスターグラマーというやつだろうか?
そして、頭の上に鎮座する二本の角。
お尻の辺りから生えている、鱗に包まれた尻尾。
間違いない。
竜族だ。
そして、今までのパターンからすると……
「タニアちゃん、タニアちゃん、大丈夫っ!? 怪我したって聞いたから、お母さん、心配で心配で……!」
「「「お母さんっ!!!?」」」
みんなの驚く声がした。
俺はある程度予想していたので、さすがに声はあげなかった。
まあ、驚いていることには変わりないのだけど。
「ちょ、ちょっと。そんなに大げさにしないでよ。あたしなら見ての通り大丈夫だから……ほら、落ち着いて。恥ずかしいじゃない」
「だってだって、タニアちゃんが怪我をしたなんて……うぅ……お母さん、すごく心配したんだからね!?」
「それは、その……ごめんなさい。心配をかけたことは、悪いって思っているわ」
「ホントに大丈夫? 大丈夫なの? 大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だから……ああもうっ、泣かないで。ほら」
「ふぇえええ……ずっと心配だったから、安心したらなんかこう、急に泣けてきちゃって……ぐすん。ごめんね、タニアちゃん」
タニアが苦笑しながら、母親? の目元をハンカチで拭う。
こうして見ると、とてもタニアの母親とは思えない。
どちらかというと、歳の離れた妹だ。
でも、まあ……
最強種の母親って、常識と違うみたいだからなあ。
そのことは、カナデ達のことで学んでいる。
「えっと……タニア。そろそろ、その人を紹介してくれないか?」
話の合間を見て、そう声をかけた。
「あっ、ごめんなさい。もうわかってると思うけど……この人は、あたしの母さんよ」
「はじめましてー♪ いつもタニアちゃんがお世話になっています。タニアちゃんのお母さんの、ミルアっていいます」
ぺこりと頭を下げるミルアさん。
どことなく仕草が幼い。
「……」
じーーーーと、ティナがミルアさんを凝視した。
「今までで一番幼いやんか……これで母親って、色々と反則やろ。最強種の母親は、みんなロリなんか? ある意味、うらやましいで……」
「わぁっ」
ティナの視線に気がついたミルアさんが、ぱあっと顔を明るくした。
「お人形さんだぁ♪ かわいいなー、かわいいなー」
「わっ、ちょ、やめてーや!?」
ミルアさんにがしっと鷲掴みにされて、ティナが慌てた。
「おしゃべり機能搭載? すごいねー」
「ちゃうから! ウチは人形ちゃうで! ちゃんと魂が入って、あっ、あああ、揺らさんといてー!?」
「ちょっと母さん。遊んでないで、本題に入ってくれない?」
「あっ、そうだった」
「はぁ、はぁ……や、やられるかと思うたわ……」
ミルアさんから解放されたティナは、虫の息という感じだった。
あんなふうに扱われたら、そりゃあ、怖いだろう。
「えっと、俺達は……」
とりあえず、俺達も自己紹介をした。
それから、ミルアさんに改めて尋ねる。
「それで、ミルアさんはどうしてここに?」
「タニアちゃんをいじめた悪い子を引き取りにきたの!」