作品タイトル不明
1072話 同行の目的
パチパチと焚き火の爆ぜる音が響いた。
火がゆらめいて、夜の暗闇を明るく照らしてくれる。
夜。
途中で野営をすることになり、火を起こして、その周りにそれぞれのテントを設営した。
それからごはんを食べて。
女性陣が水浴びをして、アクスがそれを覗こうとして。
事前に防いで釘を刺したら、アクスが見事な土下座を見せて。
そんなこんながありつつ、火の番と周囲の警戒をする。
「今夜は、特に問題なさそうかな?」
近くにいた狼数頭と仮契約をして、警戒を手伝ってもらっているのだけど、問題が起きることはない。
敵意も感じないし、嫌な予感もしない。
たぶん、平穏な夜を過ごすことができるだろう。
「よっ、調子はどうだ?」
アクスがやってきた。
そろそろ交代の時間だ。
「特に問題はないと思う」
「そっか、それはなによりだ。そろそろレインも休んだ方がいいぜ」
「そうさせてもらうよ。あ、そうそう」
仮契約をした狼達に出す命令の仕方を教えておいた。
俺以外でも、ちゃんと従ってくれるはずだ。
「……っていう感じで命令を出せば、その通りに動いてくれると思う。そういう風に契約をしておいたから」
「なんか、前よりも万能になっているな……まあ、わかった。なにかあれば、ワンコロ達を頼りにさせてもらうさ」
狼をわんころと言うアクスは、わりと度胸がすごい。
「それじゃあ、俺は……」
自分のテントに入ろうとして、ふと、足を止める。
「……ちょっとだけ話をいいか?」
「ん? 問題ねえけど、どうしたんだ?」
「いや……今回の依頼、アクスはどうして引き請けたのかな、って」
出発前に理由は聞いた。
ただ、それだけではないような気がして……
そもそも、セルのことをあれだけ愛しているアクスが、そうそう簡単に街を離れるとは思えなかった。
「あー……ったく。妙なところで鋭いな」
「なにか事情が?」
「いや。そういう深いものじゃねえさ。ただ……」
アクスは焚き火に薪を焚べつつ、夜空を見上げた。
「俺も親になったからな。セルのことはもちろん愛しているが、ただ、一番っていう順位をつけるとしたら、娘が一番なんだよな」
「……意外な答えだな」
「だろう? 俺も意外だ。なにがあろうとセルのことが一番だと思っていたんだが……あの子が産まれたら、順位が入れ替わった。ほんと、驚きだ」
本来なら、こういうことに順位をつけるものじゃない。
それでも順位の話をするということは、それだけ大事、ということを強調したいのだろう。
「っていうことを、最近、考えるようになってな。理由はそれさ」
「それ……?」
「邪教徒について、それなりのことを教えてもらったさ。そうでなくても、前々から噂程度には知っていた」
アクスの表情が険しいものに変わる。
「邪教徒なんてものがいたら、前の戦争ほどじゃないかもしれねえが、大変なことが起きるかもしれない。もしかしたら、セルやレナがやばいことに巻き込まれるかもしれねえ。なら、俺はそれらの厄介事から家族を守る盾として動くべきだ。この剣は、今、そのためにある」
そう語るアクスの表情は、キリッと引き締まっていて……
素直にかっこいいと思えた。
「そっか……思っている以上に、しっかりと考えているんだな」
「おい。それ、実は失礼なことを考えていました、ってことじゃねえか」
「そんなことはないさ」
「あるだろうが!」
「あはは」
「笑ってごまかすな!」
なんだかんだ、こういう時間は楽しいな。
またアクスと一緒に冒険をして。
こうして話をして。
できるなら、こんな時間がずっと続いてほしいと思う。
とはいえ、それは叶わない願いだ。
アクスはアクスだけど、でも、以前とは違う。
大事なものができて、そのために戦い……
脅威が消えたのならば、その時は、再び平穏な日常に戻るだろう。
それは寂しくもあり。
ちょっとうらやましくもあるのだった。