作品タイトル不明
1073話 記された場所
途中、魔物と遭遇したり。
自然災害に襲われそうになったり。
アクスが再び覗きをしようとしたり。
いくらかトラブルはあったものの、無事、目的地に辿り着くことができた。
その場所は……
「教会……か」
深い森の奥。
木々が切り取られたような場所に、ぽつんと、教会が建っていた。
人の手が入っている様子はなく、壁は汚れ、一部が崩れている。
窓も割れていて、そこから見える中の様子は酷いものだ。
物が散乱しているのがちらりと見えた。
「こりゃひでえな。適当な俺でも、もうちょっと片付けるぞ」
「おー、本当か?」
「アクスさんはー、もっと汚しているようなイメージですねぇ」
「そりゃひでえ……」
アクスはがくりと肩を落とした。
シフォンがくすくすと笑いつつ、しかし、すぐに気持ちを切り替えて、凛とした表情で周囲を見る。
「たぶん、人や魔物は近くにいないと思うんだけど……どうかな、レイン君?」
「ああ、俺もそう思う」
嫌な気配はしない。
本当なら、小動物などを使役して調べてもらいたいのだけど……
ただ、一匹も見当たらない。
ただの偶然なのか。
それとも、この場所になにか原因があるのか。
それはまだ、わからない。
「とりあえず、周りをぐるっと見て回ろうか」
「うん、そうだね」
なにがあるか、なにが起きるかわからない。
教会から一定の距離を保ちつつ、ぐるりと周囲を見て回る。
「……んー、特になにもないですねー」
「雑草がすごいぞ。へくちっ」
「あらあら、大丈夫ですか? ショコラには嫌な雑草とか生えていたんでしょうかー」
「嫌な雑草てなんだ?」
「毒草ですねー」
「げっ」
アクスは、足元に生えている草を見て顔を引きつらせた。
「大丈夫。そこまで強力な毒草はないから」
「わかるのか?」
「一通りの知識は叩き込んでいるから」
「レインはビーストテイマーで、治癒師や雑学博士じゃねえんだけどな……って、そこまで、っていうことは多少はあるってことか!?」
「食べたりしなければ問題ないさ」
いくらか毒草は混じっているものの、触れただけでどうにかなるような、そんな強力なものはない。
ここで食事をしなければ、まず問題はないだろう。
ただ……
「これらの毒草は、洞窟の奥とか、そういう場所に生えるものなんだよな。なかなか地上では見られないものなんだけど……」
「もしかしたらー、この教会が関係しているんじゃないでしょうかぁ」
「おー、ショコラも同じことを思ったぞ。なにかがあってその影響が出ている、とかなー」
「……やっぱり、教会を調べるのが一番だね」
「気をつけていこう」
俺とショコラが前に出て、残り三人は後衛。
簡単に陣形を組んで、表から教会の中に入る。
「これは……」
「こほっ、こほっ……本当、中はすごいね」
足を踏み入れただけで、大量の埃が舞い上がる。
壊れた机と椅子が木片になってばらまかれていて、足の踏み場に迷うほど。
奥に割れたステンドグラス。
そこから差し込む陽光に照らされて、旗が見えた。
「なんだろう?」
人の頭蓋骨……?
それと鎌。
そんなものが描かれていた。
家紋に見えるが、このようなものは見たことがない。
まあ、貴族については詳しくないから、俺が知らないだけかもしれないが。
「シフォンは、これを見たことは?」
「うーん……家紋に見えるけど、私はないかな。ショコラとミルフィーユは?」
「ないぞ」
「私もないですねー」
「ああ……こりゃ、ドラグロース家の家紋だな」
「「「えっ!?」」」
知っているの!?
みんなが驚いて、ついつい声を上げてしまう。
そんな俺達の反応を見て、アクスがジト目に。
「お前ら……」
「ご、ごめんね、アクスさん。まさか、アクスさんが知っているなんて思ってもみなくて、つい……」
「ショコラは夢でも見ているのかもしれないなー。アクスがものしりとか、ありえないぞ」
「ですねぇ……これが明晰夢というやつでしょうか?」
「お前らな!?」
「ええっと……そ、それで。ドラグロース家、っていうのは?」
アクスが本格的に拗ねないうちに、話を元に戻す。
「ん? ああ……大昔に実在した貴族で、魔王崇拝者だ」
「……魔王崇拝者……」
「人間の愚かさに絶望して魔王を崇拝して、世界の破滅を願った……だったかな? まあ、そんな感じの貴族がいてな。当時は、けっこうな問題になったらしいぜ」
それはそうだ。
貴族が魔王を崇拝するなんてありえない。
邪教徒と似たようなものだ。
とはいえ……
魔族と和平を結んだ今なら、単純に魔王を崇拝するだけなら許されたかもしれないが。
「ま、そんなやつがいる家が繁栄するわけがないからな。国に目をつけられて、そのまま没落、破滅したって話だぜ」
「魔王崇拝者……か」
そんな者の家紋が刻まれた旗。
ラウル・ラズナに渡された地図にある教会。
そして、邪教徒。
色々と繋がりそうな気がしたものの、まだ情報が足りていない。
ここには、他になにが隠されているのだろう?