作品タイトル不明
1065話 邪教の噂
「また力を貸してくれないかな?」
シフォンの口から予想外の言葉が飛び出した。
いや。
あるいは、俺は、この展開を予想していたのかもしれない。
なにしろ、彼女は勇者だ。
魔族と和解した後も、やるべきことはたくさん。
気軽に顔を見せるような立場にはないわけで……
もしかしたら、なにか厄介な事情を抱えているのかもしれない、と考えていた。
できれば、懐かしいから顔を見たくなった、という理由であってほしかったのだけど……
どうやら、そういうわけにはいかないようだ。
いったい、なにが起きたのだろう?
「事情を教えてくれないか?」
「うん。実は……」
シフォン曰く。
ここ最近、各地で相次いで不審者が目撃されたらしい。
フードのついたローブで全身を隠して。
夜遅くに灯りのないところに身を潜めて。
挨拶をすることはなく、一言も発しない。
それだけなら不気味の一言で済ませてしまうのだけど……
不審者の目撃情報と共に怪事件が増えているらしい。
家畜が行方不明になる。
猫や犬などの死体が見つかる。
奴隷売買の加速。
これが一つの街で起きているのなら、シフォンが動くような事態にはならなかった。
ただ、多くの街で事件が起きて。
不審者が目撃されて。
そして、王都でも事件が起きるようになったという。
戦争が終わり、ようやく訪れた平和。
しかし、それを壊すような行い。
人々の不安は大きく……
邪神を復活させようとしている邪教徒の暗躍ではないか?
そんな噂が広がっているという。
「……で、私達が調査に乗り出すことになったんだ」
「にゃん? それ、勇者のお仕事なの?」
カナデの疑問はもっともだ。
事件は大きくなっているようだけど……
騎士団に任せておけばいいだろう。
わざわざ勇者が動くようなことじゃない。
……と、普通ならそう考えるだろう。
「シフォンが動くような事件に発展してきた、っていうところか」
「さすがレイン君。以前と変わらず、鋭い洞察力を持っているね」
「どういうこと?」
「今、話を聞いただけじゃあ、シフォンが動くようなことじゃない。ただ一つ、どうしても見過ごせない点があった」
「……もしかして、邪神を復活させようとする邪教徒がいる、っていうところ?」
本当か嘘か。
そこはわからないけど、邪神の言い伝えは数多く存在する。
迷信だったり、掟を守らせるための言い伝えだったりするのだけど……
そういう存在がいた、という歴史的証拠がゼロというわけじゃない。
邪神かどうか不明ではあるが。
過去、大きな力を持つ存在が破壊をもたらした、という歴史的証拠があったりもする。
……まあ。
俺達は本当の神様の存在を知っているし、軽く話もした。
なので、邪『神』なんてものが存在しないことは知っている。
とはいえ、そう呼ばれるにふさわしい力を持つ存在がいるかもしれない、という点は否定できない。
そんな化け物を呼び覚まそうとしている連中がいたら?
利用して、世の中に破壊と混乱をもたらそうとしているとしたら?
それを防ぐのは勇者の仕事だろう。
「邪神の方は、まだちょっと曖昧なんだけどね。ただ、邪教徒は、ほぼ確実に存在するんだ」
「なにを企んでいるかわからないけど、邪教徒って呼ばれるくらいだ。ろくでもないことに決まっている」
「絶対に企みを阻止しないといけないから、シフォン達が動いている……っていうわけなんだね?」
「そういうこと」
一通りの話は理解できた。
シフォン達は、最近、巷を騒がしている邪教徒を追いかけている。
ただ、相手は狡猾で、なかなか尻尾を掴ませてくれない。
そこで、俺達に協力を求めた、というわけだ。
「どうかな? レイン君達が手伝ってくれたら、すごく心強いんだけど……」
「そういうことなら協力したいんだけど……」
今いる仲間は、カナデとソラとルナだけ。
ルリの素性もよくわからないままで、もしかしたら、また狙われるかもしれない。
そのことを考えると、ルリを一人にするわけにはいかず……
「俺達も今、ちょっと手が足りていないんだよな……」
「みんなに戻ってきてもらうように声をかける?」
「それをしたとしても、時間がかかるだろう? シフォン達は……」
「できれば、すぐに行動に移りたいかな」
「だよな。そうなると……」
もしかしたら、こういう事態になるかもしれない、と危惧はしていた。
ただ、恐れてばかりでは意味がないのと、それでも休みはあった方がいいだろうと、一度、バラバラになったのだけど……
本当に危惧していた通りになってしまうなんて。
どうしたものかな?
「にゃー……それなら、一応、みんなに連絡をとってみるね。で……ルリちゃんのことは私達に任せて。レインは、シフォン達に協力をして」
「それは……いいのか?」
「うん。レインががんばっている間、おうちとルリちゃんは、私達がしっかりと守るから! それで、みんなが戻ってきたら応援に向かうよ」
……確かに、それが最適解かもしれないな。
「わかった」
「えっと、それじゃあ……」
「ああ。最初は俺だけになってしまうけど、それでもよかったら、シフォン達に協力するよ」
「ありがとう、レイン君!」
……こうして俺は、シフォン達に協力をして、一緒に行動することになった。
「ところで、ショコラとミルフィーユは?」
「……ごめんね、二日酔いで寝込んでいるの」
ちょっと幸先不安だった。