作品タイトル不明
1064話 勇者とて乙女
「レイン君に子供ができたって、ど、どどど、どういうこと!?」
とても動揺した様子で。
ものすごく慌てた様子で。
シフォンは、ダンッ! と受付のカウンターに両手をつきつつ、ナタリーさんに詰め寄っていた。
「あ、えっと……」
「ま、まさか、レイン君は結婚したの!? 相手は!? 相手は誰!? カナデちゃん!? それとも、タニアちゃん!? あるいは……」
「あのー……」
「くぅ……!!! いきなり仲が進展することはないよね、だってレイン君だし。なんてのんびりしていたのが間違いだったなんて! あぅ……私のばか!」
「えー……」
一気にまくしたてるシフォン。
対するナタリーさんは、ひたすらに困っていた。
隣にいるカナデが小声で問いかけてくる。
「……見なかったことにする?」
「……そういうわけにもいかないだろう」
どうして、シフォンがこんなところにいるかわからないけど……
さすがに、見なかったふりをするというのは不義理がすぎるだろう。
それと、依頼の報告もしないといけない。
「えっと……シフォン?」
「あぁ……なんかもう、レイン君の幻聴まで聞こえてきたかも。私、自分で思っていた以上に未練があったのかな……? でもでも、勇者としての使命があるし、そっちをがんばらないとだし……」
「シフォン? 聞こえているか、おーい」
「やけに幻聴がハッキリと……あれ?」
シフォンがこちらを向いた。
目がピタリと合う。
「レイン君?」
「ああ。ひさしぶり、元気にしていたか?」
「……」
「シフォン?」
「……あああぁあああ!!!」
シフォンは、ぼんっ、と爆発するような感じで顔を赤くして。
それから、マントと一体化しているフードを引き上げて顔を隠して。
そのままうずくまる。
「こ、こんなところを見られちゃうなんて……恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。うぅ……もう私、生きていけないかも……」
……とりあえず。
久しぶりの再会は嵐のような時間だった。
――――――――――
まずは、依頼の報告をして。
それからカフェに場所を移して。
そこで、シフォンに近況を説明した。
のんびり過ごしていたこと。
ルリを保護して、ひと騒動あったこと。
「はぁあああああ……なんだ、そういうことだったんだ……」
勘違いが解けた様子で、シフォンは大きな安堵の吐息をこぼしていた。
それから、注文した紅茶を口に運ぶ。
「ふぅ……」
「俺に子供ができたとか、どこでそんな話を?」
「ギルドで話題になっていたよ。ついに、レイン君が一児の親に、って」
「まあ、間違ってはいないけど……」
ルリは、あくまでも保護しているだけだ。
まだ親子関係を結んだわけじゃない。
ただ……
あまり想像したくないけど、ルリの家族がもうどこにもいなくて。
あの子が望んだらだけど、その時は、養子に迎えるのもアリかな、なんて考えていた。
まあ、今するような話じゃないから、まだ誰にも話していないけど。
「でも、シフォンは、俺に子供ができたとか、どうしてそこまで驚いていたんだ?」
「……」
「……」
途端の沈黙。
シフォンの目がどんよりと曇り……
それと、隣にいるカナデも、ちょっと視線がきつくなる。
「シフォン……私が言うのもなんだけど、がんばってね」
「うん、がんばるけど……なんかこう、たまに、レイン君に雷鳴剣を叩き込みたくなるな」
なぜだ!?
「それはともかく」
シフォンは、こほんと咳払いをして場を仕切り直した。
真面目な表情を作り、まっすぐにこちらを見る。
「レイン君に会えてよかった。カナデちゃんも一緒に聞いてほしいんだけど……」
「どうかしたのか?」
「こうして、また同じような話をするのは、ちょっと勇者として情けないんだけど……また力を貸してくれないかな?」