作品タイトル不明
1056話 特に心配はしていない
「む?」
同じく村の外。
それでいて、カナデ達よりは村に近い場所。
ソラとルナは捕らえた魔族を見張りつつ、周囲の警戒を行っていたが……
突如、膨大な魔力が膨れ上がるのを感じて、足を止めた。
「ルナ、これは……」
「うむ。おそらくは『覚醒』なのだ」
「敵も本気を出してきた、ということですか」
敵は切り札を切った。
そこまで追い詰められている、という証拠でもあるが……
しかし、ここからが難しい。
死に物狂いで抗う敵を制圧することは困難だ。
凄まじい猛攻を叩きつけてくるだろう。
一気に形勢が逆転するかもしれない。
下手をしたら、そのまま潰されてしまうかもしれない。
……と、普通なら危機感を抱くのだけど。
「ルナ、他に敵の気配は?」
「むー……ないのだ。たぶん、いないぞ」
「たぶん?」
「人型サイズはいない、という意味なのだ。それ以下の細かいところまでは調べてないのだ」
「なぜですか? 敵が獣を飼っている可能性もありますし、体のサイズを変える力を持っているかもしれません。そういった可能性を考えて、細かいところまでしっかりと調査をするべきです」
「むぅ……あまり細かいところまで調査すると、虫の反応も捉えてしまうのだ。こういうところは……アレがいそうで、嫌なのだ……」
「……やめておきましょう」
「うむ、やめるのだ」
さすが双子の姉妹。
ぴたりと意見が一致する。
そこに、主を心配する様子はない。
敵が覚醒を使った?
そっか。
そんな気楽な反応だ。
「では、ここで待っていましょうか」
「うむ、待つとしよう」
援護に駆けつけるわけではなくて。
避難するわけでもなくて。
ソラとルナは、とても呑気な様子。
なぜ、そんなことが可能なのか?
カナデのように信じている。
ただ、それだけではなくて……
単純に知っていた。
覚醒した『程度』の魔族では、レインの敵にならないということを。
――――――――――――
魔族は人の姿を捨てて、戦闘に特化した体を得る。
獅子の頭部を持つ、巨大なゴーレム。
その体は岩に似た素材で構成されていて、刃が通ることはない。
また、両腕の先に鋭い爪が伸びていた。
鉄を紙のように切り裂くことができる。
戦闘に特化した覚醒。
故に、魔族は己の勝利を信じていた。
敗北が訪れることはありえないと、欠片も疑っていない。
「秒デ死ネ、人間!!!」
怨嗟の咆哮を響かせつつ、魔族が動いた。
巨体に似合わない速度でレインに迫る。
その勢いを乗せて、両腕の爪を振る。
鉄を簡単に切り裂くことができる一撃だ。
直撃すれば死。
そうでなくても、かすっただけでも大きなダメージを与えることができる。
避ける?
不可能だ。
音を超える速度で動いて。
空間全体を薙ぎ払うほどの多面的な攻撃。
そこに技術も加えている。
熟練の戦士だとしても、避けることは不可能。
なにが起きたかわからないまま、体中を切り裂かれて肉片と化すだろう。
それは慢心ではなくて自信だ。
確かな経験によって培われてきたもの。
だからこそ、魔族は己の勝利を信じて疑っていない。
これで勝負はついたと、そう確信していた。
……誤算があるとすれば、常識が通用しない相手が存在する、という問題に気づいていないことか。