作品タイトル不明
1057話 なぜ届かない?
魔族は両腕の爪をレインに叩きつけた。
防御は不可能。
回避も不可能。
レインは抵抗することができず、バラバラの肉片に変えられるはずだったのだけど……
「ナニ……!?」
蜃気楼のようにレインの姿が消えてしまう。
気配も消えてしまう。
もちろん手応えはない。
「ドコニ消エタ!?」
予想外の展開に、魔族は若干の焦りを覚えた。
まさか、必殺の一撃を避けられてしまうなんて……
ただ、問題はない。
なにかしらの方法で回避された。
けれど、回避されただけ。
ここから戦況を覆すことは不可能。
この身を打ち出すことは不可能。
優位であることに間違いはない。
そう言い聞かせて、心を落ち着ける。
そして冷静になったところで周囲に視線を走らせた。
気配、及び魔力反応を探る。
「……ソコカ!」
魔族は、地面に大穴を作るような勢いで跳躍した。
どのような方法を使ったのか?
それはまだ解明できていないものの、いつの間にか空へ逃げていたレインを追う。
「終ワリダ!」
人間は翼を持たない。
高く跳躍することは可能だとしても、空中で軌道を制御することはできない。
今度こそ避ける術は持たない。
そして、攻撃を防ぐこともできない。
魔族は勝利を疑うことなく、必殺の一撃を叩き込む。
……しかし、それは必殺とはならない。
「ナンダト……!?」
再びレインの姿が消えた。
自慢の爪はなにもない宙を空振りする。
ありえない。
避けることは不可能だ。
あるいは……
幻影?
空に跳んだのは偽物で、本物は別のところにいる?
魔族は再び周囲を見るが、しかし、レインの姿はない。
どこだ?
どこに逃げた?
「卑怯者メ、姿ヲ見セロ!」
「なら、これでどうだ?」
「ナッ……!?」
突然、レインが目の前に現れた。
見逃していたわけではなくて。
隠れていたわけでもなくて。
一瞬。
瞬きをする間に、レインが目の前にいたのだ。
「ウォオオオッ!!!」
魔族は吠えつつ、両腕の爪で前の空間を薙いだ。
ただ薙ぐだけではなくて、魔力も込めている。
魔法も切り裂くことが可能だ。
なにかしらの魔法を使い、今まで逃げることができていたとしても、これで終わり。
下手な小細工ごと斬り裂いてくれようではないか。
……しかし、現実はことごとく魔族の予想を裏切る。
「遅い」
「バカナ!?」
左腕の一撃は避けられた。
ただ、右腕の一撃はレインを捉えていた。
外すことはない。
的確な狙いを定めた一撃がレインを襲う……はずなのに。
レインは、魔族の爪と比べると、おもちゃのようなサイズの短剣で攻撃を受け止めてみせた。
なんのトリックだ?
そもそも、目の前の光景は現実か?
必殺の一撃をありえない方法で防がれてしまい、魔族は、ただただ混乱するしかない。
「力負ケシタ、トイウノカ……!?」
魔族の爪とレインの短剣が競う。
魔族は、そのまま押し切ろうとありったけの力を込めた。
しかし、押し切ることができない。
自分よりも何倍も大きい岩を相手にしているかのような。
なにをしても押し切ることができず、レインは、ピクリとも動かない。
「人間ゴトキガ!!」
「……悪いが」
「っ!?!?!?」
ガァンッ! という轟音。
何事かと思えば、押し切るはずなのに押し切られていた。
レインの一撃で、逆に魔族の爪が弾かれていた。
体勢はさほど崩れていない。
しかし、驚きで反応が遅れてしまう。
レインが跳ぶ。
「手加減は、まだ慣れていない」
「ガッ……!?」
ただの蹴り。
それだけのはずなのに……
巨人に殴られたかのような衝撃が魔族を襲う。
蹴られた頭部が破裂したのかと思うほどの衝撃。
頭が揺さぶられて、意識が飛んでしまいそうになる。
耐えられたのは奇跡に近い。
それでも、勢いを殺すことはできず、吹き飛ばされてしまう。
「ナ、ナニガ……?」
よろめきつつ、立ち上がり……
そして魔族は見た。
「アナタ、ハ……」
レインがまとう、禍々しいオーラを。