作品タイトル不明
1055話 執念と妄執と
「……まだだ」
魔族がゆっくりと立ち上がる。
そこに余裕はない。
再び倒れてしまいそうで、吹けば飛んでしまいそう。
ただ、自然と構えてしまうような、妙な気迫があった。
「ここで……終わってたまるものか!」
「お前は、まだ……」
「死者が嘆いているのだ……! このままでは眠れぬと、恨みを晴らしてくれと。だからこそ、我らは……!」
ギリッ、と魔族は奥歯を噛む。
凄絶な表情を浮かべる。
そして……
「負けられないのだ! 絶対にっ!!!」
「く……!?」
ゴゥ! と魔力の嵐が吹き荒れた。
それは実体を伴い、周囲の建物を壊していく。
こうなる前に決着をつけたかったけど……
その場合は、やりすぎてしまうこともあり、力加減が難しかった。
でも、こうなるともう……
「我らの悲願を果たすために!!!」
獣のように吠えて。
そして、魔族は『覚醒』状態に移行した。
『覚醒』というのは、最強種の切り札だ。
簡単に言うと変身。
日頃から溜め込んでいる魔力を使い、特殊な形態に移行する。
そうして、今までにない力を使うことができる。
あるいは、身体能力や魔力が普段とは比べ物にならないほど増加する。
まさしく奥の手だ。
「邪魔をする者は……全て!」
魔族の体が大きく膨らんでいく。
風船に空気を込めているかのように。
手足は大木の幹のように。
胴体は巨岩のように。
そして、頭部は獣のごとく。
「オォオオオオオッ!!!」
咆哮が響き渡る。
同時に空気が、大気が震えた。
魔族の力に反応して、空間が悲鳴をあげているかのよう。
『災厄』が舞い降りた。
魔族の力は数倍……いや。
数十倍に増しているだろう。
その身に宿す能力は不明。
ただ、戦闘向きのものであることは間違いない。
能力を抜きにしても、これだけの巨体は脅威だ。
あふれるほどの魔力も脅威だ。
暴れられたら、街の一つや二つ、簡単に壊滅してしまうだろう。
「……ここまでか」
ただ、俺は落ち着いていた。
慌てることはなくて。
恐怖に震えることもない。
やるべきことをやる。
その想いはなにも変わっていない。
だからこそ、こういう展開になっても慌てず、落ち着いて行動することができた。
「来い。お前の怒りも悲しみも、全部、受け止めてやる」
――――――――――
「にゃー……レイン、大丈夫かな?」
村から離れたところにある木の上。
カナデは木の枝に登り、座り、膝の上にルリを乗せていた。
そんな状態で村の方を見て、心配そうに呟く。
「特に援軍はないみたいだから、私も……いやいやいや。ダメだよ、ダメ! 私は、ルリを守らないと!」
「……ねえ」
ふと、ルリが口を開いた。
不思議そうに問いかける。
「どうして、ここまでしてくれるの? どうして、優しくしてくれるの?」
「にゃん?」
「……わからない」
とても困惑している様子だった。
そんなルリを見て、カナデは少し考えて……
優しく後ろから抱きしめる。
「みんな、ルリのことが『好き』だからかな」
「……好き……」
「好きな人のためには、がんばりたくなっちゃうものだよ」
「……わからない」
「無理に考えることはないよ。そのうち、きっとわかるから。それに……」
カナデはとびきりの笑顔で言う。
「優しくすることに理由なんて必要ないからね」
「……」
「レインは、そんな人。だから私達も……あ」
廃村の方から強力な魔力が流れてきた。
カナデは険しい表情をしつつ、ぎゅっとルリを抱きしめる。
「それにレインは……とっても強いから、任せて大丈夫だよ。一緒に信じていよう?」
「……うん」