作品タイトル不明
1039話 散歩
カナデが帰ってくるというサプライズがあったものの……
他に問題が起きることはない。
ルリがうちにやってきて、数日が過ぎる。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまー!」
「……ごちそうさま」
みんなでごはんを食べた。
今日も美味しくできたらしく、カナデはにこにこ笑顔。
一方、ルリは無表情だ。
ちゃんと完食しているから、まずいってわけじゃないと思うけど……
うーん。
なかなか感情が表に出てこないから、なにを考えているかわかりにくい。
これは嫌い、とか、そういうことを言ってくれればやりやすいのだけど。
やっぱり、まだ色々と遠慮しているのかな?
多少の信頼はされていると思うけど、心から、というわけではないはず。
「ねえねえ、ルリちゃん」
後片付けをした後、カナデがルリに笑顔を向けた。
「この後、散歩に行かない?」
「散歩……?」
「そそ。街をのんびり見て回って、露店で美味しいものを食べたりして……じゅるり」
まだ食べるつもりなのか?
「どうかな?」
「……別に」
ふいっと、視線を逸らされてしまう。
どうやら振られてしまったみたいだ。
カナデの尻尾が、がーん、という感じでへなへなと垂れ下がる。
「レイン……この子、手強いよ……」
「えっと……ルリ、散歩は嫌か?」
手助けをする。
ウチに来てから、ルリは、ずっと家にいる。
外に出たことがない。
だからカナデは、陰鬱な気分にならないよう散歩に誘ってくれたのだろう。
俺も同じ考えだ。
「外に私の居場所はないから」
「「……」」
ルリの台詞は、心を抉るかのような威力を秘めていた。
居場所がない。
人間と魔族のハーフであるルリが言うと、とても重く感じられる。
奴隷商人に捕まっていて。
親は見当たらず。
名前もつけられていない。
酷い境遇に置かれていた、ということはわかる。
そんなだからこそ、居場所がないと感じてしまうのだろう。
ただ……
「知っているか? 居場所は、新しく作れるものなんだ」
だからこそ、放っておくことはできない。
おせっかいだとしても。
偽善だとしても。
今のルリを一人にすることはできず、そして、もっと色々なことを知ってほしいと、見てほしいと思った。
「新しく?」
「一応、俺も色々とあったんだけど……でも今は、きちんと自分の居場所を見つけることができた。作ることができた」
「でも……」
「もちろん、言葉で言うほど簡単なことじゃない、っていうのはわかっているつもりだ。でもさ、今、ルリは一人じゃないから」
「……」
「俺とカナデがいる。手伝うよ、ルリが居場所を作れるように」
ルリは、じっとこちらを見た。
その目は、なにかを探っているかのよう。
ややって、こくりと頷いた。
「行く」
――――――――――
ルリと手を繋いで街を歩く。
カナデも隣に並んで歩く。
「……」
ルリは変わらず無表情だ。
ただ、時折、視線が動いている。
町の広場でのんびりと過ごす猫や犬。
それと、木の枝に止まり羽を休める鳥。
動物が好きなのか?
それとも、人間に興味がないのか……難しいところだな。
「ねえねえ、ルリちゃん。あれ、食べない?」
カナデは、とても楽しそうな顔をして、露店で売られているホットドッグを指さした。
本当に食べるのか……
「食べない」
「ありゃ、ホットドッグは嫌い?」
「……そんなに食べられない」
「あ、そっか。じゃあ、あっちのアイスはどう? スイーツは別腹だから、いけるよね!」
「別……?」
どういうこと? という感じで、ルリがこちらを見た。
いや、まあ……
どういうことなんだろうな。