作品タイトル不明
1040話 意外な力
結局、カナデが押し切る形でアイスを買うことに。
カップに盛り付けられたアイスを手に、広場のベンチに並んで座る。
「……」
ルリは、じーっとアイスを見つめていた。
やはり無表情で、なにを考えているかよくわからない。
「こうやって、スプーンですくって食べるんだよ」
お手本を見せるように、カナデは笑顔でアイスを食べた。
尻尾がぴーんと立つ。
冷たくて歯に染みたのかもしれない。
でも、すぐにとろけるような笑顔が復活して、アイスの甘味に浸っているようだ。
「……あむ」
カナデを真似るように、ルリもアイスを食べた。
「……」
無言。
特に反応が顔に出ることもない。
ただ、すぐに二口目、三口目。
どんどん食べていく。
どうやら気に入ったみたいだ。
「うん、美味しい」
俺もアイスを食べて、心地良ささえ感じる甘さに浸る。
よく晴れた青空。
暑くもなく寒くもなく、心地いい空気。
こんな時間がいつまでも続いてほしいと思う。
そうすれば、ルリもいつか笑顔を……
「きゃー!?」
突然、悲鳴が聞こえてきた。
何事かと視線をやると、武装した男達が、表通りに並ぶ店からわらわらと出てきた。
そのまま、「邪魔だ」「どけ!」なんて叫びつつ、通りを駆けていく。
「はぁ……」
どう見ても強盗だ。
世界は平和になったけど、でも、完全平和というわけじゃなくて……
ああいう犯罪は今も昔も、ずっと続いている。
どうにかして、こういう犯罪もなくしたいと願うものの……
さすがに、それは厳しい。
世界を変えるのも大変だけど、人、一人一人の意識を変えることも、同じくらい難しい。
ついついため息をこぼしてしまう。
とはいえ、落ち込んでなんていられない。
知らないところで起きている事件はともかく、目の前で起きている事件なら対処可能だ。
「カナデ、ルリを頼む」
「うん、任せて」
「ルリは、ここでちょっと待っててくれるか?」
「……あの人達を捕まえるの?」
「ああ。放っておけないからな」
「……手伝う」
「え?」
ルリは、男達が逃げた方に手を向けた。
そして一言。
「凍って」
氷が道路を這うようにして、一面を凍りつかせた。
強盗達は突然のことに対処できず、転び、したたかに尻を打ちつけてしまう。
そうしている間に騎士団や冒険者が駆けつけてきて、逮捕。
呆気ない幕切れとなった。
「今の……」
「これでいい?」
「ルリがやったのか?」
「うん」
魔法……なのだろうか?
でも、魔法式を構築したところが見えなかった。
あと、いくらなんでも詠唱が速すぎる。
これと同じ現象を見たことがある。
約一年前……
ラインハルトと戦った時、彼が見せた、ゼロと契約した能力。
思った通りに現実を書き換える力。
あれによく似ている。
この子はいったい……
「これでいい?」
「あ、ああ……うん。よくやったな」
「……」
無表情のままだけど、頭を撫でると、ちょっと嬉しそうにも見えた。
街中で魔法をとか。
強盗に手を出すとか。
今は、そういう野暮は言わないでいいだろう。
「レイン、ステラがいるよ」
「事情聴取に協力するしかないか。カナデ、今のは……」
「うん、レインがやった、っていうことにしておくね」
「ありがとう」
話が早くて助かる。