作品タイトル不明
1011話 奇跡
「がっ……!? ば、バカな……」
吹き飛び、床を転がるラインハルト。
まったくの無防備なところに受けた一撃だ。
それに、俺との戦いで限界まで体力と魔力を使っていた。
ダメージは大きく、立ち上がることができない様子で体を震わせていた。
「お前は……俺が……!」
「そうだな、倒したはず……だった」
「確かな手応えがあったというのに……なにを、した?」
「こんな大事な時になんだけど、俺のオリジナルでしのいだわけじゃない。ちょっと、昔の仇敵の技……というか、逃げ方を拝借した」
今の俺は魔王の力を扱うことができる。
そして、その魔王の力は、色々な魔族の力を吸収している。
その中から、アルテラとモニカの力を拝借した。
アルテラは、俺が倒したと思っていたのだけど……
実は倒しきれていなくて、体の一部を逃がすことで生き延びていた。
そのやり方を真似させてもらい……
さらに、モニカの幻影の力を上乗せすることで、完璧にラインハルトを騙すことができた、というわけだ。
「人一人の力なんて、大したことないんだ。だから、みんなの力を借りた。そして、あなたに届いた」
「……」
「これで……決着だ」
ラインハルトのところへ歩み寄り、拳を突きつけた。
「ぐっ……」
ラインハルトは奥歯を噛む。
こちらを睨んでくる。
ただ、体は動かない様子だ。
先の一撃がトドメとなり、限界を迎えさせることができたみたいだ。
死ぬことはないだろうけど、しかし、戦闘継続は不可能だ。
それは、ラインハルトも理解しているはず。
理解しているはずなのに……
「……まだだ」
足を震わせつつ。
口から血をこぼして。
それでも、まだ、立ち上がる。
「ここで終わるわけには……いかない。俺は、俺の復讐を果たす……!!!」
「どうして、そこまで……」
「お前と同じだ」
ラインハルトが苦笑した。
「お前が戦うように、俺もまた、戦う。これ以外の道を知らぬ……」
「ラインハルト、あなたは……」
「だから俺は……最後まで、俺が俺であることを貫いてみせる!」
「……そうか」
こうなる展開は予想していた。
他の道はないだろうと、覚悟はしていた。
ラインハルトを言葉で止めることはできない。
力で止めるしかない。
そして、彼が止まる時は、その命を止めた時なのだろう。
できることなら……と考える俺は、やはり甘い。
戦うことはあっても。
しかし、殺し合いはしたくなかった。
ただ……
そうも言っていられないのだろう。
やるべきことは尽くした。
他にラインハルトを止める方法を知らない。
なら、もう……
「……」
俺は、無言で拳を構えた。
それを見たラインハルトは、満足そうな顔をして、不敵に笑う。
ふらふらになりながらも立ち上がり、彼も拳を構えた。
そして……
「もういいよ」
ふと、優しい声が響いた。
春の日差しのように温かくて。
海のように力強くて。
空のように、どこまでも澄んでいる。
「バカな……」
ラインハルトを抱きしめる女性の姿があった。
白い髪と白い肌。
子供のように無邪気な雰囲気をまといつつ、しかし、母のような温かい笑みを見せていた。
その体は、うっすらと透けている。
「どうして、キミが……」
「……」
動揺するラインハルト。
一方で、女性は微笑んでいる。
なんだ?
なにが起きている……?
「私は、ずっと一緒にいたよ」
「な、なにを……」
「憎しみに囚われていたから、気づかなかっただけ。それだけ」
「なにを言っているんだ!?」
ここまで動揺したラインハルトは見たことがない。
声を大きくして、逃げるように、女性から距離を取る。
でも、女性は優しく微笑んでいる。
ふわりとラインハルトを追いかけて、やはり、同じように抱きしめた。
「つかまえた」
「……っ……」
「もういいの、いいんだよ」
「本当にキミなのか……? ……ゼロ……」