軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第86話 タワーマンション?(前編)

「バウマイスター辺境伯様、もうすぐ完成ですが、最上階からの景色はなかなかに壮観ですね」

「これほどの高さの建造物は、王城を除けばこの国どころか大陸中にもほぼないはずだから」

「王国から不敬だと言いがかりをつけられないよう、王城の高さをギリギリ越えてはいませんが、向こうは尖塔の屋根の先で、こちらはちゃんとした部屋ですからね。今のところこの建物の最上階が一番高い場所にある部屋となっております」

「王城よりも高い建造物を建てないか。そんな慣習があるって聞いた時は驚いたけど」

「建ててから因縁をつけられると面倒なので、事前に対処したまでです。これも、やんごとなき方々の相手をするコツですよ」

「なるほどね」

リネンハイムに相談された時に出したアイデアが、今実現しつつある。

発展著しい王都は現在も拡張中であったが、一つ困った問題が発生した。

それは、住居の不足だ。

特に、富裕層向けの住居が足りない。

王城は当然として、上級貴族街、下級貴族街の土地には手を出せないし、貴族街の住民は貴族なので必ず屋敷を建てる。

俺とエリーゼのみならず、教会も協力して、すでに悪霊の巣食う貴族街の瑕疵物件はゼロになったが、元々貴族の屋敷も足りなかったので、富裕層とはいえ平民に土地を回せるわけかない。

そうなると、現代のように高層マンションを建てて狭い土地に大勢を住ませるという結論に至るわけだが、元々平民や貧民層向けの集合住宅は存在しており、富裕層に集合住宅を勧めても嫌な顔をされてしまう。

このところ裕福な平民が増えていたが、彼らが住む住居の不足は深刻で、リネンハイムからなにかいいアイデアはないかと、前から相談を受けていたのだ。

俺は建築に詳しくなかったけど、高級高層マンションの概念をリネンハイムに説明したところ、試しに一棟建ててみようという話になった。

高層建築が倒れると大変なので、高い技術を持つ魔族……エリーとライラさんに紹介してもらったのだけど……が現場監督となり、建築資材の多くもゾヌターク共和国からの輸入だ。

現在ゾヌターク共和国では、人口減と空き家余りのせいで新規の高層建築の仕事がほとんどないそうで、ゾヌターク共和国の建築師や建築会社が喜んで協力してくれた。

俺も、建造物に使う極限鋼の供給で協力。

比較的裕福な平民たちが暮らす地区に、もうすぐ高級高層マンションが完成する予定だ。

「集合住宅は貧しい人が暮らす、というイメージを払拭できるよう、作りを高級にするとは。そして、最上階は王城よりも高い場所にあって所有者の満足度が高いなんてものではない。さすがはバウマイスター辺境伯様」

前世でも、タワーマンションの最上階に憧れる人が一定数いたように、この世界でも高級高層マンションの最上階に高いお金を出す人はいると踏んだわけだ。

実際俺のアドバイスにより、もうすぐ完成する高級高層マンション……この世界の基準でいうと十分にタワーマンションクラスだけど、現代地球やゾヌターク共和国基準では普通のマンションレベルだと思う……は、すでに完売していた。

どのみち、王城よりも高い建造物は作れないからな。

「価格はかなり高めに設定したんだけどなぁ……。全部売れちゃったか」

「はい、手間暇金をかけ、安全のために鉄筋は極限鋼を使用。不審者が入らないように警備員とコンシェルジュ在住。ここに住める人は、真の富裕層のみですから。いやあ、魔族の建築技術は凄いですね」

正直なところ、ヘルムート王国の建築技術でこの階層のマンションを建てるのは難しいというか耐久性の低さが怖いけど、ゾヌターク共和国の技術なら耐震、耐火、耐水性能も高いから安心だ。

「あとは、このマンションの価値を落とさないように住民から管理費を取って、しっかりと管理していく。修繕費の積み立てもあるから」

「『マンションは、管理を買う』でしたっけ? 至言ですね」

「その方が、リネンハイム不動産も儲かるだろう?」

管理されていないマンションなんて、ただ価値が落ちていくだけだ。

せっかく数百年保つ建物を建てたのだから、有効活用しなければ。

「このやり方がが上手くいったら、第二、第三の高級高層マンションも建てていきましょう。土地はもう確保してありますし、ゾヌターク共和国の建築士と建設会社のスケジュールも押さえてありますから」

「気合い入ってるなぁ」

「最上階の部屋を一つ、バウマイスター辺境伯様に確保してありますから」

「それはありがたいな」

ただ、俺には王都の屋敷があるからなぁ。

かといって他人に貸すのもどうかと思う。

せっかくの最上階の部屋だから、知り合いを呼んでパーティーでもしてみようかな?

「凄いね、王城を見下ろせるなんて」

「ヴェル、いいの?」

「このマンションの高さは、王城で一番高い尖塔のてっぺんよりも低いからね。そこはちゃんと配慮しているよ」

「この景色に大金を出す人は多そうですね。よく考えられていますよ」

リネンハイム不動産が売り出した富裕な平民向けの高級高層マンションは、すぐに完売した。

俺は最上階の一部屋を貰ったので、妻たちと導師、ブライヒレーダー辺境伯、ブランタークさんなどを呼んで落成パーティーっぼいものをしているのだけど、みんな最上階からの景色に感心している。

「(これぞ、タワーマンション最上階の魔力というか……)」

導師とブランタークさんは魔法で飛べるからか、そこまではしゃいでいないけど。

現代日本でも、タワーマンションにそこまでの価値を感じていない人も多かったので、そこは好みの差というか。

逆に、いくら金を出しても欲しい人が殺到して、販売は抽選になったらしい。

この世界ではローンが普及していない。

即金でしか買えないのに大勢の購入希望者が殺到するなんて、ちょっと予想外だった。

「ただ結局、多くの貴族たちがセカンドハウスとして購入してしまったんですよねぇ……」

「貴族が買ってたのか……」

その結果、富裕な平民があまり購入できず、リネンハイム不動産が建設している、または建設予定の高層マンションはまだ完成していないのに、またも完売してしまったとか。

「まだ完成してないのに買ったのか? すげえな」

「結局、私も買ってしまったんですよね」

「お館様もですか?」

「運良く抽選に当たりましてね。実は無駄遣いに見えて、購入した途端に価値が上がっているので、資産は増えているんです」

場所は下級貴族街に近くて利便性もあるので、すでに相場は購入金額以上になっているというのは、リネンハイムから聞いていた。

絶対に負けない投資にお金を出せる貴族はさらに裕福になっていき、買えない貴族はさらに貧乏になっていく。

まさに、格差社会というか……。

「当然一番人気は、王城を見下ろせる最上階の部屋です。一番の高値で、抽選倍率も高かったです」

そして貴族の間で、高級マンションの最上階を購入できた者が、買えなかった者たちにマウンティングを取るなんて話もチラホラと聞こえてきた。

と話す、ブライヒレーダー辺境伯。

「(この世界の人たちも、現代人と同じだなぁ……)」

高級タワーマンション住民同士の、階層マウンティングというやつだ。

「そのため、もっと高級高層マンションを作れという声が大きくて。ですが、あれだけの高層建築です。耐久性に配慮しながら建設するので時間がかかります」

「それはそうなのである!」

導師はあまり高級高層マンションに興味がないらしく、お酒とご馳走を楽しんでいた。

俺に言わせると、こういう人の方が勝ち組な気がしてならない。

「適当に作ったマンションが倒壊でもしたら、高値で購入した人が損をするだけでなく、周辺の人たちに大きな犠牲が出てしまうのですから」

リネンハイムは胡散臭くはあるが、その辺はちゃんとしているので助かっていた。

「沢山作ると価値が落ちるというのもありますし、やはり土地が足りないんですよ。こうなったら、中所得者層向けの手頃な家賃の低層マンションを作って、これの経営で儲けますかね」

「至極真っ当すぎる!」

そんなわけで、リネンハイム不動産による高級マンションの建設はペースを落として続けられるようになり、主力は三階〜五階くらいのマンション建設が主流になっていった。

建設現場では、仕事がないゾヌターク共和国の建設会社が派遣した魔族の現場監督と技術力のある建設会社の社員、王国の大工や職人、雇われた作業員たちが作業をする光景が珍しくなくなっていく。

「技術指導も進んでいるので、じきに我々だけで低層マンションを作れるようになりますよ」

リネンハイムとそんな話をしてから、しばらく経った頃のことだった。

所要で王都に行くと、なんと王都郊外で高層マンションらしきものを建設している様子が確認できたのだ。

「えっ? 王都郊外で?」

『飛翔』で様子を見に行くと、まだ周囲になにもない土地に、数十の高層マンション……現代地球基準でもタワーマンションに分類されるものが建築されていた。

あきらかに、リネンハイム不動産が建設した高層マンションよりも高い。

「いいのか? あきらかに王城の尖塔の高さを超えているけど……」

王城よりも高い建物を建ててはいけないというルールは、法律にあるわけではないが、もしそんなことをすれば問題になるのは必至なので、半ば慣習法になっていたのだけど……。

「なにより、建設速度が速すぎないか?」

リネンハイム不動産は、ゾヌターク共和国の技術力の高い建設会社に頼んで高層マンションを建てた。

そうしなければ、耐久、安全性を確保できないからだ。

俺が提供した、ゾヌターク共和国では幻の金属と言われている極限鋼も使っているので、リネンハイム不動産の高層マンションは、ゾヌターク共和国の高層建造物よりも頑丈なくらいだった。

建設会社に対する支払いを極限鋼にすることで、かなりリーズナブルに建てられるという利点もある。

ゾヌターク共和国でもペースは落ちたが新規の建築がゼロなわけもなく、数が少ない分高価格になるが、安全性が高い極限鋼を使った建物に需要があるのだそうだ。

「そして近くでよく見てみると、かなり作りがいい加減というか……」

現場では、適当に集められたらしい動きが稚拙な作業員たちが、やはり建築の知識などなさそうな現場監督に怒鳴られながら作業をしていた。

ようするに、俺でもわかる素人建築というわけだ。

「コラッ! 現場に入ってくるな! ……って! バウマイスター辺境伯様!」

現場監督は、俺の顔を知っていたようだ。

俺も有名人になったものだな。

「これは、どこが作っているんだ?」

「アークサリ不動産です」

確かリネンハイム不動産のライバルであると、前にリネンハイムから聞いたことがある。

「貴族やお金持ちは高いところに住むのが好きな人が多いそうで、王都から離れたこの土地なら、高い建造物を作っても王国から文句を言われず、高く売れるって」

「……ふうん、そうなんだ……(本当に大丈夫かのか?)」

王城よりも高い建物を建ててはいけないという方はないが、これまで誰もそんなことをしたことがないというのに……。

もし王国から駄目だと言われた場合、損をするのはアークサリ不動産だから俺は関係ないけど。

「(やっぱり造りが……。耐震性とかは大丈夫なのか?)ええっ!」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでも!」

当然というか、リネンハイム不動産と魔族がが関わっていないので、なんとこの高級高層マンションにはエレベーターが付いていなかった。

「(最上階の人たち、部屋の行き来だけで疲れそう……)」

魔力駆動のエレベーターはいまだ高級品であり、注文しても作るのに時間がかかる。

リネンハイム不動産は建築会社に頼んで、ゾヌターク共和国性のものを取り付けてもらったが、アークサリ不動産にそんなコネはない。

ヘルムート王国製のエレベーターもあるにはあるが性能がイマイチで、作ってもらうのに大金と時間がかかる。

だからアークサリ不動産は、エレベーターをつけていないのだろうけど……。

「(現代日本人じゃなくて、この世界の人間だからアリ? なわけないよなぁ……。こんなマンション、住みたくねぇ)」

場所は悪いし、エレベーターがない高級高層マンションに多額の金を出す人なんているのか?

ましてや、無理やり高層マンションにしたせいで、耐久、耐震性にも問題がありそうだ。

ヘルムート王国では滅多に地震がこないけど、それでも耐震性がない建物に住むのは元日本人として抵抗があった。

「(さすがに、買う人はいないよね?)」

そもそも現代日本なら、建築許可が降りないはずだ。

ゾヌターク共和国もそうだろうし、まだ法整備がされていないヘルムート王国だから作れる、とんでも高層マンションなのだから。