軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第87話 タワーマンション?(後編)

「王都郊外で作っている、アークサリ不動産の高層マンションですか? すでに完売していますよ」

「マジで!」

「はい。大人気で、抽選になりましたね」

「あの物件に購入希望者が殺到って……」

後日、リネンハイムにアークサリ不動産の高級高層マンションについて尋ねたところ、なんとあのとんでも物件が売れているのだという。

「無知って怖いなぁ……」

「本当ですよ」

「しかし、よく購入するよなぁ。あの物件を直に見てさ」

「いえ、誰もあの物件を見に行っていませんよ」

「見ないで買ったの?」

マンションなんて高額のものを、見ずに買うなんてあり得るのか?

「はい。現在、リネンハイム不動産が作った高級高層マンションの相場は、購入金額の三倍です。つまりは……」

「高級高層マンションなら必ず高くなると思って、よく見ずに購入したのか……」

「はい。立地も悪くて、見に行くのもひと苦労ですしね」

高い買い物なのだから、 せめて自分の目でよく見て確認すればいいのに……。

リネンハイム不動産の高層マンションだろうと、アークサリ不動産の高層マンションだろうと。

外観に大きな差はない……近くで見ると大分差はあるけど……ので、特に気にせずに購入してしまったのか……。

マンションなんて一生に一度の買い物なのだから……貴族や富裕層からすればそうでもないのか。

「ましてや、うちの高層マンションよりも高いですからね。王城を見下ろせる満足感も価格の内ってことですよ」

「しかし、よく王国に怒られないな」

あきらかに、王城よりも高い建造物なのに……。

「それなんですけど、その慣習は王都のみの適用なんですよ。で、あの土地はまだ王都に組み込まれていないのです」

確かにあの高級高層マンションのあるエリアは、将来の王都拡張に備えて土地の整備は進んでいたけど、周囲にはまだなにもなかったのを思い出した。

お役所の手続き的にも、まだ王都ではないのか。

「慣習の隙を突いたのか……」

「高層階は王城を見下ろせる。この売りと、将来は必ず価格が上がるという幻想のせいで、貴族たちが高層階を競うように購入したそうです」

高級高層マンションは、高階層ほど価格が高い。

その分資産価値も増えやすいので、奪い合いになったということか。

「その高層階に上がるには、山ほど階段を登らないといけないけどな」

あと、引っ越しの時にどうするんだろう?

いくらセカンドハウスでも、貴族がろくに家具や調度品がない部屋で過ごすなんてあり得ない。

どうにかして部屋に必要な家具を運び込まないといけないし、自分好みの内装に変えたい時、工事を引き受ける大工や職人がいるのだろうか?

「人を高額で雇って、重たい家具を最上階に運ばせるのか?」

引っ越しだけで、多額の人件費が飛ぶだろう。

「いかにも貴族ですね」

「リネンハイムが皮肉を言うなんてな」

「さすがにあの物件に手を出す方々をお客さんにしたくありませんよ」

「確かに……」

そんな、立地と耐久性と安全性に大きな問題を抱える、エレベーターがない高級高層マンションであったが、突貫工事のおかげで無事に完成した。

早速購入者たちに引き渡されたようで、貴族や富裕層たちが王城を見下ろす愉悦に浸るため、貴族のセカンドハウスに相応しい家具や内装を整えようとしたのだけど……。

「あの王都郊外の高層マンション。貴族街から馬車で向かうと六時間かかるそうです。行くだけで一日仕事になりますね」

「往復十二時間……。魔導四輪ならともかく、馬車だとそのくらい時間はかかりますか」

「ええ」

ブライヒレーダー辺境伯が、あの高層マンションを購入した貴族の愚痴を聞いてきたらしい。

やはり、立地の悪さが問題になったか。

まともな貴族は忙しいので、わざわざあんな場所にあるマンションの高層階の部屋から、王城を見下ろすために時間をかけないはずだ。

「そもそも王城からかなり遠いので、よく見えないのでは? 見下ろした気になれるのかな?」

「小さくですが、王城を見下ろせるようです」

「それでいいのか?」

この世界には高層建築がほぼないから、高層高級マンションから小さく王城が見えるそうだ。

王城を見下ろせる満足感を得られるか、俺に言わせると微妙なところだけど。

「買ってしまった以上、そう思わないと辛いのかも」

「その可能性はありますね。貴族はプライドが高いので、『失敗した!』と思いつつも、見栄を張ってエレベーターがないマンションの高層階に行き、窓から小さな王城を見下ろして満足するのだと思います」

見栄を張るために、涙ぐましい努力する貴族もいるってことか。

「階段の上り下りだけで疲れそう」

「引っ越しは、お金を出せば人足たちが重たい家具や調度品を運んでくれますが、自分の部屋に行く度に人に運んでもらうのは面倒ですし、わざわざ現地にそういう人を連れて来ないといけませんからね」

あの高級高層マンションのあるエリアはほぼ無人なので、貴族を背負って高層階まで階段を上ってくれそうな人足を現地で雇えない。

王都から来てもらうと、余計にお金がかかりそうだ。

「そんな仕事を引き受ける人がいるかどうか、ちょっと疑問ですしね」

仕事場への移動が面倒なので、安いお金だと引き受けてくれないだろう。

「実は、高層階にある自分の部屋まで人足に運んでもらっている貴族はいるみたいです。出張費込みで、かなりの日当を払っているとか……」

自分の部屋に行くために、自分を背負って階段を登ってくれる人に高い日当を払うなんて、まさに貴族だと俺は思ってしまった。

「高いエレベーター代わりだなぁ。エレベーターをつけろって言えばいいのに……」

「当然アークサリ不動産には言ってますけど、向こうは『付けるのに時間がかかる』と」

「でしょうね」

アークサリ不動産は、リネンハイム不動産とは違って魔族へのツテがない。

ヘルムート王国には、あれだけの高層階をカバーできるエレベーターを作る技術がない。

なによりいくら魔族でも、すでに完成した建築物に新しくエレベーターを付ける工事は難事だろう。

「あの構造では、新たにエレベーターをつけられませんよ。リネンハイム不動産の主が言っていましたよ。エレベーターを付けるスペースが、建材やコンクリート、鉄筋で埋まっていて、これを取り除くと建物の強度が一気に落ちると」

「やっぱり……」

アークサリ不動産は、最初から高層マンションにエレベーターを設置する予定がなかったのだ。

そんなこと、あり得ないって?

アークサリ不動産はリネンハイム不動産の高級高層マンションに似た、いやそれを超える(見た目だけ)高級高層マンションを売りたいのであって、技術的な面も考えてどうやって作るかとか、そこに住む人の利便性など欠片も考えていなかった。

だから俺は胡散臭いとよく口にしているが、おかしな不動産物件を販売したことがないリネンハイムだけに仕事を頼んでいた。

実は本当に怪しい不動産屋なんて、いくらでもいるのだから。

リネンハイム不動産が作った高級マンションと似たものを作れと言わた大工や職人たちにしても、エレベーターが必要な高層建築を作った経験なんてない。

エレベーターが手に入らなければ最初から設置しない前提で、なるべく頑丈な建造物を作ろうとしたはずだ。

その結果、魔族の建築会社の人たちが『自分たちなら絶対に住まない』という、最悪の高級高層マンションが完成した。

「これ、倒れないのかな?」

「今すぐどうこうはならないですね。エレベーター設置部分も補強されてますから。それでも、我々がリネンハイム不動産と一緒作った高級マンションの方が安全ですけど」

今すぐ倒れないってのも考えものだ。

それなら、完成前か直後に倒れてくれた方が……それだと死者が出るから駄目か。

「リネンハイム、この高層マンション。相場は?」

「さすがに落ちてますね」

場所悪い。

エレベーターない。

よく見ると、作りが雑だからなぁ。

リネンハイム不動産の高級マンションと比べたら、安くなっても仕方がないと思う。

「相場が下がると、ますます売りにくくなりますからね」

「今のうちに売ってしまって、損失額を減らすという手もあると思う」

他に、この物件を購入する人が存在するかどうかわからないけど。

「……バウマイスター辺境伯様、そんな決断ができる人は、確認もしないでこんな物件買わないですよ」

「だよなぁ」

その後の田舎タワーマンションだが、やはり相場は下がり続け、購入した貴族たちは損切りもできず……というか、誰も買ってくれず、そのうち出入りもしなくなり、廃墟マンションとなってしまった。

リンガイア大陸にマンションというものが魔族の国の技術で作られ始めた時、多数あった失敗例の一つであったわけだが、この物件はのちに大逆転を果たすことになる。

「お困りでしょう。このマンション、もし二万セント払っていただけたら引き取りますよ」

「……このマンションは亡くなった父が購入したものだが、場所が不便。エレベーターはない。水道は出ない。作りは雑で誰も利用しないのに管理費ばかり出ていくんだ。二万セント支払うから、引き取ってくれ」

「お任せください」

俺もいい年になり、リネンハイムもお爺さんになった頃。

例の高層マンションは無料でも引き取ってよらえず、所有者の負債となっていた。

それどころか、相続した子孫にまで嫌われる始末。

するとそこに、白髪頭のリネンハイムが現れ、有料でなら引き取ると話を持ちかける。

このマンションにずっと困っていた貴族たちは、こぞって二万セントを支払ってリネンハイムにマンションを引きってもらった。

「では、改修をお願いします」

そして、魔族の建築会社にイノベーションを依頼。

技術力に定評のあるところだったので、高層マンションは立地以外は劇的に改善された。

「実はこの高層マンションの倒壊を恐れて、この地区の開発が進んでいなかったんですけど、これで大丈夫でしょう」

「マンションも周辺の土地も、とっくにリネンハイム不動産のものなんだろうけど……」

「みなさん、困っていらしたので情熱価格でお引き取りいたしました。リネンハイム不動産は、この地区の開発を責任持って進めていますから」

リネンハイムは、廃墟高層マンションと共にその周辺の土地も安く買い取っており、高層マンションのリノベーションが終わると周辺地区の大規模な開発を推進。

すでに王都はかなり広がっており、その郊外は人気のエリアとして生まれ変わり、リネンハイム不動産は高級高層マンションを高値で売り抜けることに成功したのであった。

「で、この高層マンションを分譲したアークサリ不動産は、とっくに潰れていると」

「不動産業って、大変なんですね」

「リスクを取って商売しているからなぁ」

貴族に金を払わせて引き取った負動産を、見事収益物件にしてしまう。

リネンハイムのやり口にエリーゼは若干引いていたが、別に違法なことはしていないのし、今回に限ってはあんなマンションを買う貴族が悪いとしか思わない。

ただ、俺でもリネンハイムの真似は難しいだろうな。

そのくらい、彼は胡散臭いがやり手なのだ。