軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 夜の森の中で

昼の少し前にふもとの村まで戻ったアレンは、薬草をギデオンに渡すとドゥル山脈の方を監視している者の所へと行き、薬草採取の最中にゴブリンと遭遇した事を伝えた。

ゴブリンに遭遇した程度であれば日常茶飯事なのか驚かれる事はなく、ねぎらい代わりにアレンは見張り台のそばの詰め所でお茶を振る舞われた。

ちょうど良い機会だったのでいくつかの事項について彼らに確認をすると、アレンはさっさと宿の自分の部屋へと戻り作業を始める。

シュッ、シュッという何かを削る音がその部屋の中に響くが、窓を閉め切って作業するアレンが何をしているのかは外からはわからなかった。

護衛の冒険者であるアレンに個室を与えてくれたギデオンに感謝しつつその作業を終え、そして昼食を食べるとアレンはベッドへと横になり仮眠に入った。

そして夜。

部屋を訪ねてきたイセリアのノックの音で目を覚ましたアレンは、宿の食堂でイセリアと一緒に食事をとった。

特に珍しい物などない田舎の村である、このふもとの村の様子をイセリアはとても楽しそうにアレンに話していた。

それに相づちを打ちながら食べる食事は、決して豪勢でも洗練されているわけでもなかったがアレンには美味しく感じられた。

「そういえば村長さんに聞きましたが、学会に臨席する国の使節団の方々がそろそろやってくるそうですよ」

「へぇ、まだ学会まで時間があるのに案外早いんだな」

「村長さんもそんな事を言っていましたね。今年は全体的に早くて大変らしいです。でも野菜の出来も早かったので無駄にならなくて丁度良いって笑っていました」

そう言ってその時のことを思いだしたのかクスクスと笑うイセリアの姿に、張っていた心が少しだけ緩まるのを感じてアレンは内心でイセリアに感謝する。

そして小さく息を吐いて笑みを浮かべると、少なくともこの時間だけは楽しもうと食事を再開したのだった。

「よし、じゃあ行くかな」

イセリアとの食事を終え、部屋に戻って30分ほど経過したところでアレンが立ち上がる。その手にはこの依頼にあたり、雨の中で見張りをする事になるかもしれないと新調しておいたフード付きの真っ黒なコートが丸められ、その中には昼にアレンが削って作った手彫りの仮面が包まれていた。

ちなみにそのコートは馬車の中にずっといるため、日の目を見ることはないだろうな、とアレンが残念に思っていた一品だ。

水を通しにくい性質があるモンスター素材を使ったものであり、それなりの値段がしたのだ。

今後も使用していこうと思って買ったものなので後悔はしていなかったが、まさかこんな風に変装用として使うことになるとはアレンも考えていなかった。

そんな事を考え、アレンが苦笑いを浮かべる。

部屋の入り口の鍵をしっかりと閉め、そして外の様子を確認したアレンは2階の窓からするりと抜け出し飛び降りる。

音もなく着地したアレンは素早く動き出し、夜の闇にまぎれるようにして宿から離れていった。

ライラックのような街とは違い田舎の村であるここには街灯などといったものはなく、外を出歩く人は全くいない。

そんな村の一角にあった物置小屋の物陰で仮面を着けてコートを羽織ったアレンは、村の周囲の堀を軽く飛び越えて村の外へと着地を決めた。

「よし。それにしても自分で作った仮面はやっぱいまいちだな」

普段アレンがネラとして着けているクラウンの仮面は、まるで着けていないかのように自然に顔に貼りつき、さらには暗い所でもよく見えるようになるというアレンが昔ダンジョンで得た特別なものだ。

しかしアレンが切り倒した木を使って手彫りした今着けている仮面はそんなわけがない。

一応出来うる限りフィットするようにしてはいたが、それでもぐらつきはあるし、暗闇がよく見えるようなことも当然ない。

デザインに関しても、シンプルな楕円形に目、口、鼻の穴が空いているだけであり、それが暗闇から現れれば子供であればトラウマになりかねないものだった。

まあ、デザインに関してはそもそもこだわった訳でもないので、アレンはそこまで気にしていなかったが。

アレンは仮面を着けるために結んだ紐の具合を調整すると、ふぅー、と一息吐いたあと、本気で走り始める。

見張りに気づかれないようにかなり大回りをしてアレンが目指したのは、朝にカミアノールと出会ったドゥル山脈のすそ野に広がる森だった。

アレンがわざわざこんな変装の準備までして夜中に森を確認に来たのにはいくつかの理由があった。

というより何者かに後を尾けられていた時点で厄介ごとの匂いは感じていたのだが、それに追い打ちをかけたのがカミアノールから矢を射かけられた事だった。

カミアノール自身は追っていた獲物と間違えたと言っていたし、アレンも表面的にはそれで納得したかのように見せていたが、内心ではそんなはずがないと考えていた。

矢の狙いは正確にアレンの急所となる頭を捉えていたのだ。体より明らかに的の小さい頭を。

そのことからアレンは、カミアノールがアレンを認識した上で、殺害する意図をもって矢を放った可能性は高いと推測したのだ。

「全部俺の勘違い、ってのが一番楽なんだがなぁ」

そんなことを小声でぼやきながらアレンは夜の森を静かに、しかしかなりの速度で進んでいく。

追跡者がいたということはカミアノールの最後の言葉からしても勘違いであるはずがなく、自分の望む展開にはなりそうにないことを十分にアレンは理解していたのだがぼやかずにはいられなかったのだ。

アレンが受けたのはただの護衛依頼なのだ。しかも護衛とは名ばかりで実際には依頼人であるギデオン、そしてイセリアと一緒に馬車の中で議論を交わすことが昨日までアレンがしていた仕事だった。

現状、アレンがしていることはその依頼の範疇とは言いがたい。正体不明の追跡者とか二つ名つきのエルフとか、いままでと落差がありすぎだろ! というのがアレンの正直な気持ちだったのだ。

しかし長年冒険者として生きてきたアレンの勘が、このことを放置すれば面倒な事になると明確に伝えていた。

そしてそれは、アレンが村へと戻る前に切り倒した木の丸太までたどり着いたところで現実となってアレンの耳へと届くことになった。

「誰かが戦ってやがるな。しかも人同士かよ」

アレンが進んできた先から聞こえる戦闘音、しかも金属同士を打ち合わせた時に響くような高い音の混じったそれに、アレンが深いため息を吐く。

しかしすぐに気を取り直し周囲を見回し最も背が高そうな木へと足をかけると、アレンはひょいひょいと枝を使って上へ上へと登り始めた。そしてほどなく着いた頂上に近い位置でアレンが争う音の聞こえた方向を眺める。

「どんな状況なんだよ、これ?」

首をひねりながらアレンはそんなことを呟く。

およそ500メートルほど先、少しだけ木々がなく開けた場所において争っていたのは、大量のゴブリン、冒険者らしき装備を身に着けた数十人の男女、そしてカミアノールを始めとした6名のエルフという3つの勢力だった。

ゴブリンに対抗するために冒険者とエルフが協力しているのかと思えばそうではなく、エルフが冒険者らしき者たちに矢を射かけたり、逆に冒険者がエルフに切りかかったりしており完全に自分たち以外は敵といった様相だ。

おそらくゴブリンがいなければ2つの集団は凄惨な殺し合いになっていただろうが、無差別に襲ってくるゴブリンのせいで均衡が保たれている、そんな状況のようにアレンには見えた。

「うーん、どっちかを手助けして解決ってのは無理だな。事情がわかんねえし」

やるとすれば全員無差別に制圧した後に縛り上げるなりして動けないようにした上で事情を聞くくらいか、と検討を始めたアレンは争いの場から少し視線を外して、その戦場へと次々に走っていくゴブリンの列をさかのぼっていく。

そしてその先に粗末ながらも柵と呼べなくもない木に守られたぼろ小屋ばかりの集落と、その奥にぽっかりと空いた穴を見つけたのだった。