軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 悩める木級冒険者

初めてのマチルダの自宅訪問において、あっさりとネラであることがバレていることを知らされ、そしてスライムダンジョンにその秘密があることまで見抜かれていたアレンはそれから折を見ては考え続けていた。

アレンが発見したレベルアップとレベルダウンの罠、そしてスライムを利用したレベル上げの方法についてどう扱うのが最も良い事なのかを。

アレンがまず考えたのは、この方法をアレン以外の者が知っている可能性がないかということだった。それによってとるべき方法が全く変わってくるからだ。

ダンジョンはなにもライラックにのみある訳ではなく、国中どころか世界中に存在している。

たまたまアレンはスライムダンジョンでそれを発見しただけなのだ。他のダンジョンで同じ条件が揃うという可能性もない訳ではなかった。

(でも、それはたぶん近場ではねえんだよな。秘匿されてるのかもしれねえけど)

そんな風に考えながら足元にうごめいていたスライムをアレンは踏み潰す。

少しじっくりと考えたかったため、アレンはスライムダンジョンへレベルアップの罠の使用者を護衛する依頼を受けていた。もちろん既に冒険者なので夜ではなく昼の時間だ。

現地に来れば少しは何か良い案が浮かぶかと考えて受けた事もあり、思考を整理しながらアレンは歩いていく。

アレンが自分の発見した方法が他では見つかっていないと考えたのは、そもそも浅い階層になど滅多にないレベルアップの罠とレベルダウンの罠がスライムダンジョンのような極小ダンジョンに同時に存在している可能性が非常に低いということがまずある。

加えて戦争が始まり英雄が生まれた、とか突如現れた凄腕の冒険者などといった話が全くないからだった。

アレンが得た五千を超える圧倒的なステータスがあれば、大抵のことは可能になってしまう。それはネラとして活動してきたアレンが誰よりもよく知っていた。

そんな者が活動していれば普通は噂になるものだ。しかしそんな話をアレンは聞いた事が無かったし、各地の話が集まる冒険者ギルドに勤めるマチルダにもそういった話がないか聞いてみたが、それらしい話はないとのことだった。

だから少なくとも話が入ってくる近隣においてはない、とアレンは判断したのだ。

(逆に言うと知ってて秘匿しているような奴がいたらネラの噂を聞いて気づく可能性もあるんだよなぁ)

アレンは頭をかき、大きく息を吐いた。

スタンピードでの活躍のせいでネラの噂はライラック以外にも広がっている。ライラック周辺のダンジョン素材や、それを使って造られた物を目当てに商人がやってくるし、その護衛やダンジョンを目当てにやってくる冒険者もいる。

そういった者たちがライラックから出ていった後で、不可思議な冒険者であるネラの噂を話題に出さないはずがないのだ。

いったいどこまで広がっているのか、そんなことを陰うつな表情で考えていたアレンだったが、首を振って無理矢理それを思考から追い出す。

(それについても備えたいとこだが、正直どこから手をつけてよいのかわかんねえし、とりあえずネラの正体を見破られないように注意するくらいか。それよりもヤバそうな事に気づいちまったことだし)

アレンが立ち止まり、そして上を見上げる。当然ながらそこにはスライムダンジョンのなんの変哲もない岩の天井があるだけだった。

それを見上げながらアレンが再びため息を吐く。

アレンが気づいた事。

それはレベルダウンの罠を利用してからモンスターを倒し、レベルアップするということを繰り返せば、自分の望むステータスをアレンのように10伸ばす事も出来るのではないかということだった。

むろん走っただけで素早さに特化してステータスが上がったアレンの経験からいっても、普通にモンスターと戦ってレベルアップすれば、スライムを踏み潰したときと同じように全てのステータスが一律で上がるような事はない。

しかし逆に言えば上げたい項目を絞ってそのステータスが上がるような行動をしてモンスターと戦えば、その項目のステータスに限っては10上げることも可能のようにアレンには思えた。

普通に戦ってレベルアップして、その上昇する数値が気に入らなければそれを繰り返せば良いのだ。

それなりの高レベルになってなかなかレベルが上がりにくくなったらレベルアップの罠のある別のダンジョンへと行けば良い。

罠を踏んでレベルを上げ、レベルダウンの罠のあるダンジョンへと戻って同じ事を繰り返せば地道にモンスターと戦うよりよほど早くレベルを上げられる。

しかもステータスの上昇数値をコントロールした上でだ。

むろん効率はスライムダンジョンと比べるべくもないのではあるが。

(こっちは既にやってる奴がいそうだよな。時間がそれなりにかかる分だけ普通に成長しているのと見分けるのは難しいだろうし)

レベルダウンの罠は珍しい罠ではあるが、その存在は一般の冒険者にも広く知られている。影響が大きいレベルの高い冒険者のみならず、ほとんど影響のない新人の冒険者にもだ。

まるでレベルダウンの罠の有用性に気づいた誰かがこれ以上その方法が広まらないように考えて、実際にレベルダウンの罠を踏む冒険者を減らすために……

「さすがにそれは陰謀論が過ぎるな」

自分自身の考えに苦笑し、アレンは再び歩き始める。

その後も考え事を続けながらスライムダンジョンを歩き続けたアレンだったが、全てが解決するような良い考えが浮かんでくる事はなかった。

(しかし本当に俺はなにも考えてなかったんだな)

そんなことを不意に思い、アレンが今日何度目かわからないため息を漏らす。

マチルダに言われて改めて現状を真剣に考えてみると、次々と問題点や疑問点が浮かんできたのだ。そして冒険が出来ると浮かれていて見逃してしまった、自分の傲慢さにもアレンは気づいた。

(俺はレベルアップしても大丈夫だけど、他の奴は危険だから駄目って、どこの暴君だよって感じだしな)

恥ずかしさをごまかすようにアレンはがしがしと頭をかいたが、それで何が変わるわけでもない。

むろんこのレベルアップの方法が広まるのは危険だというアレンの考えが変わった訳ではない。しかしならばなぜアレンはそれをしたのか、なぜ自分だけは大丈夫と思ってしまったのか?

自分が発見したのだから、自分がするだけなら問題はない。そんな特権とも言える考えが無意識の内にあったのではないかという事に思い至ったその日、アレンは布団の中で数時間は悶えることになった。

若い冒険者が陥りがちな、自分だけは特別で何もかもが自分の望みのままに進んでいくと勘違いしてしまう、いわゆる英雄症候群に自分もかかっていたことに気づいたのだ。

しかも生きるのに必死で誰もが若干そうなりがちな時期にはならなかったのに、良い年になった自分が、そう考えるともう駄目だった。

それから数日経った今でも、そこを考えてしまうとアレンの顔が羞恥で赤く染まることは変わらない。一生この傷が癒えることはないのかもしれないが。

「あー、やめやめ!」

あえて声に出してそう宣言し、半ば無理矢理にアレンが思考を切り替える。

スライムダンジョンに実際に来てみたが、自宅にいるのと変わりはなく結論が出ることはない。その事実にアレンは首を振り、そして呼び出したステータスボードを眺める。

そこにはアレンの500というレベル、そして五千を超える各ステータスの数値が変わらずに表示されていた。

(知力も五千超えてるんだけどなぁ)

疑問や問題はすぐに浮かぶのだが、答えが一向に浮かばないという日々を過ごすうちにアレンは1つの予想を立てていた。

そもそも自分に知識がないから知力のステータスの意味がなくなっているんじゃないかと。

アレン自身これまでの人生で勉強をしたことなど、基本の読み書きなどを除けばダンジョンやモンスターなどの冒険者として必要な知識についてばかりだった。

生活していく事に伴う知識などは実体験として得ているのだが、それはあくまでアレンの生活の範囲内という狭いスケールでの話である。

だからこそ、それを超えた問題になっている現状では、それが自分の範疇を超えていることはわかっても、それに対する解決方法が思いつかないのではないのかと。

(勉強するって言ってもどこで? って話だしな。街の本屋で売ってるような本で間に合うわけねえし)

街にある本屋に少し前まで散々通っていたアレンなので、その背表紙のタイトルはなんとなく覚えている。その中に、参考になりそうな文言は記憶の限りでは見当たらなかった。

「あー、頭脳担当は俺じゃねえだろ」

そんなことをぼやきながらアレンが弟について思い出す。次男のエリックではなく、最後まで家に残っていた三男の顔を。

「ジーンが居てくれれば……いや、あいつに相談したら状況が悪化する気がするな」

そんなことを言ってアレンが微笑む。

仮にそうした場合に、ジーンがするであろう行動がありありとアレンの頭の中で再生されていた。

頭は誰よりも良かったのに一番の問題児であり、妹のレベッカにダメ人間のレッテルを貼られたジーンだったが、アレンには大切な家族の1人に変わりはなかった。

「あいつ、俺がいなくても大丈夫だよな?」

そのアレンの呟きに当然ながら応えるものは誰も居なかった。