軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 贈り物選び

レベッカからトレントの建材の報酬を受け取った翌日の朝、アレンは1人でぷらぷらと街を歩いていた。

一応目的がない訳ではない。レベッカに渡す餞別の品を探すためである。

まあアレンが自主的に考えたわけではなく、本人自ら言い出したことで、しかもお世話になっているマチルダさんにも渡して上げなよ、という一言を付け加えられた上で半ば強引に送り出されたのだ。

「いや、言われなくてもなにか用意するつもりではあったんだが、自分で言うあたりレベッカらしいっちゃあらしいか」

そんなことをぼやきながらアレンが適当に開いている店をひやかしていく。

そろそろ店が開く時間帯ではあるのだがその多くは食事を提供する店であり、店から漂う匂いに先ほど朝食を食べたはずのアレンのお腹がぐー、と音を鳴らす。

そのことに苦笑したアレンは近くにあった一軒のパン屋に入ると、朝食用として売られていたパンに野菜や肉を挟んだ軽食を買い、それをもぐもぐと食べながら店めぐりを再開した。

「うーん、旅をするってことを考えれば小さい方が……いや、レベッカはマジックバッグを持っているしある程度の大きさは大丈夫か? でも商売に使うのが第一だからあんまりかさばるものは駄目だよな」

ぶつぶつと言葉を漏らしつつアレンは色々な店の商品を見ていく。

そもそも贈り物を買うなどといった経験がアレンにはほとんどなかった。数少ないその経験にしても、相手は大抵冒険者であったりしたので相手に必要そうな物の予想はある程度出来たのだ。

しかし、今回選ぶのはレベッカへの送別の贈り物、そしてマチルダへの感謝の贈り物である。そちらの方面に関しては経験が不足しすぎていた。

なにか良い物がないかな、と考えて探すのだが、いつの間にか実用的な物にばかり目が行ってしまうのだ。これがあれば旅が楽になりそうだよな、掃除とかに使えそうだよな、とかそういった感想が出るような品々である。

むろんアレンも馬鹿ではない。望まれているのがそういった物ではないことはわかっている。しかし何が良いのかが全くわからないのだ。

「あー、いっそのこと店員に丸投げしてえ」

かれこれ朝から2時間近く色々な店を巡り、迷い続けていたアレンが少しやつれた顔で先ほどまで見ていた店から出てくる。

その表情は鬼人のダンジョンの最下層まで行き、ダンジョンのボスであるオーガキングを相手にした後よりもひどいものだった。

「あれっ、アレンさん?」

「んっ。イセリアさんか。今からダンジョンか?」

「ええ、訓練がてら軽く探索する予定です。それよりどうしたんですか? だいぶ疲れていらっしゃるようですが」

声をかけてきたイセリアに、アレンが軽く返す。ダンジョンに行く時の軽鎧などの装備を身につけているので、イセリアが今からダンジョンへと向かうというのは明らかだった。

その時、アレンの頭にある考えが浮かぶ。同じ女性であるイセリアならば良い贈り物アイディアがあるのではないかということだ。

(イセリアは金持ちっぽいし、贈り物とかもらった経験もけっこうありそうだよな。うん、良いんじゃねえか?)

アレンは首を一度縦に振り、自分のアイディアに納得するとさっそくそれを頼もうとしようとして……それをすんでのところで踏みとどまった。

イセリアは自分の目標のために頑張ろうとしているのだ。むろんイセリアの性格からして頼めば親切にアドバイスしてくれるだろうというのはアレンもわかっていた。でも、そういう人の時間を使わせるのは駄目だろ、と自制したのだ。

(それに贈る俺が選ばねえと意味がないしな)

そんなことを考えてアレンが微笑む。その様子に不思議そうにしているイセリアへとアレンが手を振って応えた。

「いや、気にしないでくれ。じゃあ無理はするなよ。金級冒険者に言う事じゃねえけど」

「お気遣いありがとうございます。頑張ってきます」

ぐっ、と力こぶしをつくってやる気を見せて去っていくイセリアを少しの間見送り、アレンも店めぐりを再開した。

そして昼近くになっても結局決まらず、イセリアにアドバイスを求めなかった事を少しだけ後悔したのだった。

「先に行ってるって、別に一緒に行けば良いだろうが」

昼から夕方へと移り変わるそんな時間、夕食の準備のためか食材などを買い込む人で賑わう通りを、アレンはそんなことをぼやきつつ『木漏れ日の庭』に向けて歩いていた。

なんとか贈り物を決めて、昼過ぎに買って帰ったアレンだったが、家にはレベッカはおらず置手紙がテーブルへと置いてあったのだ。

そこに書かれていたのは

『私は用事があるから、それを済ませて先に行くね。

レン兄はしっかりとした服装で時間通りに『木漏れ日の庭』に行く事。その方が特別な感じがするでしょ。

あと贈り物、絶対に忘れちゃ駄目だよ』

という伝言だった。

その伝言の指示に従い、今日のアレンの服装はいつもと違っている。

普段の動きやすさや着心地の良さを優先したものではなく、文官が着ているようなパリッとしたフォーマルに近い服装だった。

エリックが貴族になったため、今までのように気軽に会えないこともあるだろうと考えてアレンが散々悩んだ上で購入した一品だ。

ちなみに魔物素材なので防御性能も折り紙つきという店員の一言が最後の決め手だった。

買ってすぐに、こんな服装で戦うはずがねえだろと気づいて、アレンがちょっと落ち込んだのだが。

そのアレンの服の内ポケットにはレベッカとマチルダへの贈り物が入っている。

アレンが散々迷った上で2人に購入したのは、ペンダントトップに小さな宝石のあしらわれたネックレスだった。

一応アレンがそれぞれをイメージして、レベッカには黄色の宝石を、マチルダには空色の宝石のついたネックレスを選んでいる。

むろん宝石などに全く詳しくないアレンには、その宝石の種類さえわかっていない。一応食事代と同じ金額である5万ゼニー辺りで似合いそうなものを選んだだけだった。

アレンがネックレスを選んだ理由は小さいので場所をとらないといったものもあったのだが、一番の理由は気に入らなかったら売ってもらえば良いやと考えたからだ。

基本的にこういった宝飾品は価値が下がりにくく、時には現金代わりに使われることもあるとアレンも知っていた。

散々迷いに迷って疲れ果てたときに、ふと宝飾店が目に入ってそれを思い出し、ここしかない! となったのだ。入った後も、どの程度の値段が適正なのかなど散々迷う事になったのだが。

内ポケットに感じるほんの僅かな重みから、そんなことを思い出しつつ歩いていたアレンだったが、約束の時間の少し前に『木漏れ日の庭』へとたどり着いた。

普段着でも問題のなかった昼とは違い、その店内にはアレンと同じようなフォーマルに近い服装をした人々が楽しげに会話を交わしながら食事をとっていた。

内心、レベッカに感謝の言葉を贈りつつ、それが当たり前かのように自然に振舞い、名前を告げたアレンが案内の男の後へと付いて行く。

そして案内されたテーブルにはマチルダだけがいた。その姿にアレンが目を奪われる。普段のギルド職員の制服や、つい先日教会へとベッドを取りに行った時とは全く違ったのだ。

濃い紺色のノースリーブのワンピースにベージュのバックチュールボレロを羽織っただけというシンプルな正装でありながら、それはマチルダの大人の魅力をぐっと引き上げていた。

マチルダがそういった服装の上、特に装飾品なども身につけていないのは、今回の主役がレベッカであると考えてのことだったが、アレンにはそんな事は知る由も無い。

「あら、アレン。珍しい格好をしているわね」

「お、おう。ちょっと必要があってな。まさか今日着るとは思ってなかったが」

「そうなの。なかなか似合ってるわよ」

「マチルダも、その、似合ってるな」

「ふふっ、ありがと」

案内役の男に椅子を引いてもらい座りながら、マチルダとアレンが言葉を交わす。余裕のあるマチルダに対し、アレンは動揺してしまいうまく言葉を返す事が出来なかった。

せっかく似合っていると言われたのだから気の利いた返しをすれば良いのに、オウム返しに褒めただけなのだからその動揺具合がわかる。

動揺していなくてもファッションに疎いアレンには同じかもしれないが。

席に座り、用意された水を一口飲んだ事でだいぶ落ち着いたアレンが周囲を確認する。

レベッカの姿はどこにもなく、アレンたちのテーブルに1つある空席にも何も置かれていないため少し席を外しているだけという事もなさそうだった。

「レベッカは来てないのか?」

「ええ。私はてっきりアレンと一緒に来るものとばかり思ってたけど」

「いや、あいつは用事があるから先に行くって置手紙に書いてあったぞ。その用事が長引いてるのかもな」

仕方のない奴だ、と苦笑するアレンに、マチルダが微笑む。そんな2人のテーブルへと先ほどアレンを案内した男性店員がやってきた。

「お飲み物はいかがいたしましょうか?」

「俺は適当にコースに合うものを、マチルダはどうする?」

「私も特にこだわりはないからアレンと同じで良いわ」

「かしこまりました」

先日昼間に来た経験を生かしアレンは無難に注文を終え、それを聞き終えた店員が、そのついでとばかりに1つの空席に用意されていたナイフやフォークなどを引き下げていく。

それに慌ててアレンは待ったをかけた。

「すまない。遅れているがもう1人来る予定なんだ」

そう伝えたアレンに、その男性店員はにっこりと微笑み返し、そして動きを止めることなくその空席に置かれていたものを全て回収する。

そして胸元からすっと1枚の紙を取り出してアレンへと差し出した。

「レベッカ様よりお預かりしたものです」

「あ、ありがとう」

「では、私はお飲み物をお持ちいたしますので失礼いたします」

そう言って微笑みを残して去っていた男性店員を見送り、そしてアレンが受け取った手紙へと目を通してそれを思わずくしゃっと握りつぶす。

その手紙に書かれていたのはアレンの完全に想定外のことだった。

『この手紙をレン兄が読んでいる時、私は既にこの街を出ていることでしょう。なーんてね。私が来なくて驚いた? あっ、街から出ているのは本当だよ。

手紙に私は用事があるから先に行くって書いてあったけど、どこに、とは書いてなかったでしょ。それに私が『木漏れ日の庭』に行くとは一言も言ってないからね。ちゃんと注意したんだから。

ちなみにマチルダさんにもレン兄が行くって事は言ったけど私が行くとは一言も言ってないから。だから私は、嘘は言ってないよ。勝手に2人が勘違いしただけで。

そんな訳でお邪魔虫はいないから、2人で食事を楽しんで。じゃあ、またね。

我が最愛の魔王様へ 気遣いの出来る可愛い妹より』

テーブルに何も用意されていない空席をしばし見つめ、そして意味がわからず首を傾げてアレンを見つめるマチルダにアレンは苦笑いを返し、大きなため息を吐いたのだった。