軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話 レベッカの推理

しばらく考えてみたが特に何も思いつかず、わっかるかなー、と楽しげにアレンを見ているレベッカに降参を伝えようとして、アレンがふと気づく。

「俺から直接買ったからか?」

「その心は?」

思いついた言葉をそのまま出してしまったアレンに、レベッカが少し驚いた顔をしながら聞き返す。

アレンは自分の頭の中で考えを整理しつつ、ゆっくりと説明を始めた。

「いや、大工の工房なんだから普段取引している材木商がいるだろ。そこを通さずに俺から直接買い付けるってのは下手すりゃ信頼関係にひびが入る行為なんじゃねえか? まあまあな量を売ったし」

「……」

「そんな危険を冒したとしても、建材の確保を優先したって事は取引先の材木商が納得できる正当な理由があるってこと、例えば領主からの依頼があるから入手の機会を逃す事が出来なかった、とかな。どうだ?」

じっと黙ったままアレンを見つめ続けるレベッカの姿に、ちょっと不安になりつつもアレンが自分の考えを言い切る。

商人や職人の世界についてはそこまで詳しくないアレンであったが、冒険者の経験から信頼関係の大切さについては非常によく理解していた。

信頼関係があれば、その次の依頼に繋がるという事は珍しくないからだ。ギデオンの薬草採取の依頼のように。

逆に、それが壊れてしまったときの厄介さもアレンは十分身にしみていた。コツコツと積み上げてきたのにもかかわらず壊れるのは一瞬で、そしてその信頼関係が深かった分だけ後に尾を引くのだ。

アレンの脳裏に1人の男の顔が浮かんだが、軽く頭を振ってそれを追い出す。ねじれにねじれてしまった関係はいまさらどうしようもないとわかっていたからだ。

アレンの考えを聞いたレベッカは、しばらく神妙な顔でうんうんとうなずいて溜めをつくると、パッと表情を嬉しそうなものへと変えた。

「レン兄も商売のことがちょっとはわかってきたみたいだね。おおむね正解だよ」

「おおむね?」

「うん。だってレン兄が売った量って、個人としては結構な量になるけど専門の商人からしたら端数とまでは言わないけど無視できる量だよ。それにブラント工房がレン兄からトレントの建材を買ったのは砦の建築のためじゃなくて、職人たちにその加工を練習させるためだしね」

パチパチと拍手をしながらレベッカが褒めてくるが、それを受けるアレンは微妙な顔をしていた。

「いや、おおむね正解っていうか、ほとんど違ってねえか?」

「考え方の方向性は合ってるし、知識と経験がないのにそこまで考えられれば正解だよ。レン兄は意外と商売の才能があるかもね」

そう言ってニコリと笑ったレベッカにアレンが苦笑を返す。

才能があるかどうかはわからないが、こんな面倒くさいことを考えて働かなくちゃあいけない商人になんて絶対にならねえぞ、と内心で思いながら。

そして改めてレベッカの言葉を思い出したアレンが、そのおかしさに気づく。

「なあ、なんでお前はブラント工房が職人たちに加工を練習させるために買ったって知ってるんだ?」

アレンが気になったのはその点だ。建材の取引なんかに関してはそういった工房と商会の取引量に関する一般的な知識があったからで説明はつく。

しかしブラント工房がなぜ建材を買ったのかについては経験でわかるはずがないのだ。

それなのにレベッカはその理由を断定していた。そこから導き出される結論は……

「お前、まさか?」

「うん。3つ目の理由、ニックさんを買収した」

「あいつ、なにやってんだ!?」

親友の呆れた行動に、アレンが思わず頭を抱える。

砦の建築については未だに公表されていないのだ。おそらくそれを受注する予定のブラント工房には知らされているが、本来外に漏らしてはいけない情報だろうとアレンにも簡単に想像がついた。

悩めるアレンをよそに、ごそごそと自分のマジックバッグを探っていたレベッカが机の上に可愛らしいフリルのついた髪留めをいくつか乗せる。

顔を上げてそれを見て、なんでそんなもんを出したんだ、と疑問に思うアレンに、レベッカはすかさず追撃を行った。

「王都で流行の髪留め、3つセットで1500ゼニー! リリーちゃんにきっと似合うと思いますよって勧めたら一瞬だったね」

「安っ!」

「いやー、これ人気商品なんだ。私の選んだ利益度外視の客寄せ商品で地方の女の子の心を鷲づかみ。ついでに他のものも買わせて親から私がぼったくり!」

「いや、ぼったくるなよ」

良い顔をして堂々とそんなことを言い放ったレベッカにアレンが思わずツッコミを入れる。

それを受けて嬉しそうにしながら、レベッカは首を横に振った。

「あっ、買収したっていうのは嘘だからね。髪留めをプレゼントして口を軽くしたし、話題を誘導したのは確かだけどニックさんはちゃんと一線は守ってたよ。砦の建築に関しては何も言わなかったし」

「……ニック、すまん」

アレンは一瞬でもニックが情報を漏らしたんじゃないかと考えてしまった自分を恥じ、そしてここにはいないニックへと謝罪する。

わざわざ直接本人に謝るような事はするつもりはないが、ちょっと金も入ったことだし何か差し入れるか、飲みをおごってやるくらいはしようとアレンは考えていた。

続けられたレベッカの言葉を聞くまでは。

「うん、でも結構重要な事をぽろぽろ話すから、その細切れの情報をつなぎ合わせればバレバレだったね」

「あいつ、うかつすぎんだろ!」

にこっと笑顔でありながら、その裏にどこか人をそそのかす悪魔が笑っているような表情をするレベッカの言葉にアレンが再び頭を抱える。

確かに買収されて情報を漏らしたというよりはマシだが、結局レベッカに情報を抜かれたことに変わりはなかった。むしろ本人がその事に気づいていないので、こちらの方がよほど問題かもしれないのだ。

そんなアレンの姿をひとしきり眺めて楽しみ、レベッカが話を進める。

「あとは街の商店で金物とかが値上がりしていないか調べたり、材木商で世間話にまぎれさせて裏取りしたりしたけどね。いやー、丈夫な建材が欲しいなら近々トレント材が大量入荷するから少しだけならお嬢さんにも売っても良いですよって教えてくれた店員さんに感謝だね」

「なんで皆、そんな重要な情報を漏らしてんだよ」

「私の魅力のせい?」

わざとらしく、しなを作るレベッカの頭にアレンは軽くチョップを落とし、それを受けたレベッカはべっ、と舌を出して笑った。

その子供っぽい仕草に、たぶんこういう部分が相手に警戒心を抱かせないんだろうなと思いアレンが苦笑する。

そうして油断した相手の懐にレベッカはするりと入り込んでいくのだ。

レベッカの距離の詰め方の上手さは天性のものだった。人が嫌がらないギリギリのラインを見極める嗅覚が並外れていると言っても良い。

それが商人として一定の成功を収めることが出来ている要因の1つであることは確かだった。

「それで急にダンジョンに行こうとした訳だな」

「うん。まだ入荷にしばらくかかりそうではあったけど、私と同じ事を考える同業者もいると思ったし。現に9階層にいたしね」

「まさかイセリアの依頼って?」

「たぶん出所は商人じゃないと思うけど、動機は似たようなものかな。9階層でトレントの素材をどのくらい確保できるのか調査したかったんだと思うよ」

9階層は不人気層すぎて、その実態の調査についてはほとんど知られていない。と言うより昔に調べたものから情報が更新されていないのだ。

だから現況がどのようなものなのかを調査したかったということなんだろう、とアレンは考えた。そしてその推論は実際間違っていなかった。

「でも、そんなことしてお前が恨まれるんじゃあ……ああ、そういうことか」

「うん。レン兄も気づいたみたいだけど、私が売った量って全体から見ればほんの一部なんだ。多少は面白くないと思われるかもしれないけど、大商いで大もうけできる訳だから恨まれることはないし、逆に目ざとい奴だなって思ってもらえることの価値の方が高いから」

「そっか。商人ってやつはたくましいな」

ふふん、とアレンの褒め言葉に鼻を膨らませるレベッカの頭を撫で、アレンが立ち上がる。

おおまかな事情は聞けたし、レベッカが色々と考えて頑張っていた事を知る事が出来たのでピーナスづくしはやめて、好きなものでも作ってやろうとしたのだ。

しかしそんなアレンに待ったをかけたのは、他ならぬレベッカだった。

「あっ、あとレン兄。2、3日中に私、街を出るつもりだから」

「はぁ? 急すぎるだろ。それに来てからまだ間もないのに」

「うーん、さっきの話なんだけど、儲けが出る前は普通に恨まれる可能性もあるんだよね。ほら、目先の利益にとらわれる小物っているでしょ」

「いや、まあそれは否定しないが、酷い言いようだな」

あっけらかんと暴言を言い放ったレベッカに対してアレンが苦笑する。とはいえ言っている事は正しいとアレンも思っていた。

冒険者にもいるのだ。目先の事にとらわれすぎて大惨事になる者が。少し方向性は違うが、先日のライオネルを囮にして逃げた冒険者パーティのことをアレンが思い出して納得していた。

「まっ、落ち着けば大丈夫だろうし、少ししたらまた来るよ。という訳で、明日の晩は外で豪華なディナーです」

「唐突だな。というか自分で企画すんなよ」

「えー、別に良いでしょ。ちなみに冒険者ギルドで依頼履歴を見る時にお世話になったマチルダさんも誘ったので来る予定だよ」

「完全に俺の予定とか無視してるよな。まあ別に良いけどよ」

アレンの事情を無視して完全に決まった事として話すレベッカのドヤ顔に、はぁーとアレンが大きく息を吐く。

とは言え本当にレベッカが街を出るという事であれば、アレンとしてもなにかしてやりたいところではあったのだ。

行商人として動くレベッカに再び会えるのはいつになるのかわからない。下手をすればまた数年後という可能性もあるのだから。

自分でそれを企画してくるとはさすがにアレンも考えてはいなかったが。

「という訳で、レン兄はお財布係ね」

「いやまあ元から出すつもりだけど、もうちょっと言葉を選べよ」

お財布係という直球の言葉に、アレンがげんなりしながらレベッカを注意する。しかし注意されたレベッカはしゅんとするどころか、逆に目を輝かせてしてやったりという顔へと変わった。

その様子にアレンの全身を嫌な予感が駆け巡る。

「ふふっ、言質はとったからね。明日の会場は『木漏れ日の庭』で、料理はその最高級コース。なんと1人あたり5万ゼニー! しかも飲み物は別料金ね」

「ちょっ!」

「あれれー、男に二言はないよね、レン兄」

あまりの内容に声を上げて抗議しようとしたアレンの事を、ニヤニヤとしながらレベッカが覗き込むようにして見る。ご丁寧に指先で机の上に載った金貨の入った袋を指差しながら。

その意味を理解し、今回稼いだ金額に比べればその金額でも問題はないと理解しつつも、イラッとした気持ちを抑えきなかったアレンは一度深呼吸し、レベッカに向けて満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ、今日はレベッカの苦手克服のために頑張ろうな。明日は豪華なディナーが待ってるんだし、出来るよな」

「あっ、私ちょっと外に……」

椅子からするりと抜け出し逃げようとしたレベッカの肩を、余裕でアレンががっしりと掴む。

「大丈夫だ。きっと調理から手伝えば美味しくおもえるはずだ」

「レン兄はやっぱ魔王だー!!」

嫌がるレベッカをずりずりとひきずりながらアレンは台所へと向かっていく。

そして夕食後、燃え尽きたかのように椅子で放心するレベッカの姿に、アレンはこっそりと笑みを浮かべたのだった。