軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 依頼達成などの報酬

結局その場で数時間待ち、昼もだいぶ過ぎた頃に上機嫌で帰ってきたギデオンにアレンは予想通り薬草の納品を拒否された。

採取方法や、時間など自分には一切非はないので納品を拒否された時はそれなりに文句を言ったアレンだったが、ギデオンの「その分の金は払っておる。それにお主も依頼を受けたくせにここ数日は薬草を納品に来なかったじゃろ」という返しにそれ以上言葉を続けられなかった。

なぜなら依頼は取り下げも修正もされていないので、アレンが納品しなかった日数分の報酬が払われるのは確かだからだ。

今までアレンは依頼を受けたらすぐに納品するべく動いていたのでそこまで気にならなかったのだが、今回はレベッカと出かけた日を含めれば4日間納品していない。

つまりなにもせずに12万ゼニーを受け取ることになっていたのだ。

ダンジョンでの話の流れでそうなってしまったのだが、アレンとしてもそこは気になっていた。だからこそレベッカを街へと送り届けてすぐにダンジョンに戻ったのだ。

金を返すといっても拒否されるのが目に見えていたため、納得はいかないもののアレンは再びダンジョンへと向かい、そしてなんとか指定された1か所で薬草を採取し、それを納品した。

なんとか5日連続で納品なしを回避できたアレンはほっと胸をなで下ろしていた。

「はぁ、結構遅くなっちまったな。レベッカが自分で飯を食べるって聞いておいて良かった」

家に帰る道中の店で適当に持ち帰りの食事を買ったアレンは、既に日が落ちて人気の少なくなった通りを早足で歩いて家路を急いでいた。

そしてほどなく家へとたどり着いたアレンがドアを開けて見たのは、机につっぷして燃え尽きているレベッカの姿だった。その姿にアレンが慌てて駆け寄る。

「お、おい。大丈夫か?」

「あっ、レン兄お帰りー。大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れただけで、むしろ大成功な部類だから。じゃあ、レン兄の顔も見たことだし、私は休むね」

のっそりと体を起こしながらそう言ったレベッカにアレンが心配げな視線を向ける。アレンの不安を和らげるかのように少しだけニッと笑みを浮かべ、そしてよたよたとしながらレベッカは自分の部屋へと戻っていった。

アレンはその姿が消えるまでその場で見送る。その心配そうな表情はレベッカの強がりを見ても変わらず、むしろ深まっていた。

「顔見るためだけに起きてないで休めよな」

そんな愚痴とも言えなくもない心配の言葉を呟き、そしてアレンは持ち帰ってきた食事をあまり美味しくなさそうにもそもそと食べたのだった。

翌日、アレンが起きたときには既にレベッカは家を出ていた。

しかしテーブルに置いてあった手紙の文章の最後に書いてあった、レン兄をあっと驚かせてあげるから期待しててね、という言葉から考えるに昨夜の状態から復活している事をアレンは確信する。

そしてほっと気持ちを落ち着けたアレンは、自身の依頼をこなすためにダンジョンへと向かった。

薬草採取の依頼でアレンのネックとなるのは、採取方法や運搬方法などではなく採取してから納品までの時間制限だった。

もちろんその時間は長いとはいえないものの、採取する階層から出る時間、そしてライラックの街まで帰る時間も考慮されている。1か所ずつ採取するなら大して問題にはならないくらいには。

だが効率よく依頼をこなそうとすれば、それは結構な障害になる。納品するために街とダンジョン間を何度も行き帰りすることになるので、結果として依頼達成までの日数がかかってしまうからだ。

しかしその解決方法をアレンは既に見出していた。

昨日の採取時は時間もなく、ギデオンにそれで問題が無いか確認も出来なかったため行わなかったが、昨夜の納品時に既にその採取方法でも問題ないことをアレンは確認済みだった。

ギデオン自身は本当にそんなことが出来るのかと疑問視していたようだが。

「行くか」

ライラックのダンジョンに入ったアレンは、依頼で採取場所として書かれた条件に合致する場所に生えている薬草を探していく。

冒険者としての経験が長く、最近では薬草採取の依頼のために階層の様々な場所を探索したこともあり、条件に合致する場所を迷いなく探すアレンはほどなくして納品に足る薬草を見つけた。

「よし、じゃ次だな」

しかし、アレンはすぐに採取することなく場所を記憶するにとどめて別の条件に合致する薬草を求めて探し始めた。

そしてその作業はどんどんと下の階層へと場所を移しながら続けられていき、ついに今回の条件の中で最下層の10階層へとアレンはたどり着いていた。

10階層での採取条件にあう薬草を目の前にし、アレンがふぅ、と息を吐いて頭の中を整理する。

自分がとるべきルートをはっきりと思い描き、そしてアレンは楽しげな笑みを浮かべた。

「じゃあ、連続採取開始しますか」

そう呟くと、アレンは目の前の薬草の採取を開始した。

根も葉も傷つかないように丁寧に採取しつつも、その速度はありえないほど速い。そして採取した薬草を丁寧に包装した上で鞄へと入れると、先ほど頭に思い描いたルートの通りに走り始める。

そして次の目的の場所で薬草を見つけたアレンが先ほどと同様に薬草を採取し、再び走る。その先には当然のように条件にあう薬草が生えていた。

アレンが考えたのは単純な事で、時間に制限があるなら先に目星だけをつけておき、制限時間の長い下層の採取から始めて、帰る途中で多少寄り道にはなるがその薬草たちを採取していけば一度に納品が出来るという方法だった。

もちろんアレンが目星をつけていた薬草が他の誰かに採取されてしまう可能性はあるのだが、それでも多少の手間は省けると考えて試してみることにしたのだ。

結果としてそれは大成功だった。

2階層のみアレンの目星をつけていた薬草は採取されてしまっていたが、それについてもたまたま1階層へと向かう途中で条件に見合う薬草を発見するという幸運にも助けられ、アレンは一度で全ての依頼の薬草を納品するということに成功したのだ。

納品した時のギデオンの驚く様子に得意げにニヤリと笑ったアレンだったが、そのすぐ後に本気で研究をせねば、と顔色を変えたギデオンに追い出されてしまい、その笑いを苦笑へと変えた。

依頼達成の証書についてはなんとか受け取っていたので冒険者ギルドを目指して上機嫌でアレンが歩いていると、横道から見覚えのある姿が出てくるのを見つける。

そしてそれは、その相手であるイセリアも同様だった。

「アレンさん」

そう呼びかけ近づいてくる、落ち着いた印象の私服姿をしたイセリアの姿に、一瞬ネラの姿じゃないのに来るなよ、と考えたアレンだったが、そういえば既にアレンとしても接点があったのだと思い出した。

気安げなイセリアに、少しだけ頬を引きつらせた笑顔を向けながらアレンが返す。

「よっ、イセリアさんは依頼帰り、じゃなさそうだな?」

「はい、今日は休日なので街をぶらぶらしていただけです。ついでにアレンさんを探していたって言ったら、どうします?」

少しだけ身をかがめて、頬を染めながら覗き込むような仕草で見つめてくるイセリアの姿にアレンが苦笑いを浮かべる。

普通の男ならドキッとするような可憐な姿なのだが、多少イセリアと付き合いの長くなったアレンには、その表情の中にからかいの色が含まれているのがはっきりとわかってしまうようになっていたのだ。

「マジックバッグを持ち逃げなんてしないから安心してくれ」

「むっ、効果無しですか。レベッカさんに教えていただいた男を虜にする仕草、その3だったのですが。それはさておいて……」

つれなく返したアレンに、少しだけ残念そうにしながらイセリアが微笑む。

そしてそれで終わりとばかりに別の話へと切り替えようとしたイセリアだったが、その言葉はアレンによって止められた。

「いや、あいつなんてもん教えてんだよ。っていうかその3って他にもあるのか?」

「ええ、初級編ということでその10まで教えていただきました」

「なに考えてんだ、あの馬鹿」

片手で頭をおさえて顔をしかめるアレンの姿に、イセリアが小さく声を漏らしながら笑顔を見せる。先ほどまでの作られた笑顔ではなく、自然な笑顔を。

少しの間、アレンの様子を眺めていたイセリアだったが、言うべき事を思い出してアレンへ再度声をかけた。

「とりあえずそれはおいておいてですね。ギルドに顔を出してほしいそうです」

「んっ、今から行く……ってあっちの方か?」

「はい」

暗にネラとしてということを伝えたアレンにイセリアがうなずく。

話はわかったが、ネラとして依頼を受けている訳でもないため特になにか行く必要があったかと頭をひねるアレンに、イセリアが小さな声で言葉を足す。

「例の素材の売却が決まったそうです」

「あー、あれか」

その言葉にアレンはすぐになにか思い出した。

例の素材とはアレンがドラゴンダンジョンのスタンピードの時にアイスコフィンの魔法で凍らせて倒したドラゴンパピーなどから取れる素材のことだった。

アレンとしては放置したつもりだったのだが、その後にちゃんと回収され売却が決まったらその代金を振り込むと聞いていた。

元よりないと思っていたものであるし、回収から解体まで全てお任せだったためアレンの印象は非常に薄かったが。

「ええ。だいたい6億ゼニーなのでギルドも預かっておきたくないそうで、知り合いである私が伝言を依頼されました」

「っ!?」

思わず声をあげそうになったアレンだったが、なんとか必死に口をつぐんで声を出すのをこらえた。

もちろん提示された金額がアレンの想像をはるかに超えていたからだ。

「いや、高すぎだろ」

「高く買ってくださる人がいたそうですよ。スタンピードを防いだ英雄が倒したということと、傷のない素材という点が高評価だったらしいです。では確かにお伝えしましたから」

そう言ってイセリアはアレンとは別方向、自分の宿がある方向へと歩き去っていった。

その後姿を見送り、そして許容範囲を超えた金額に頭をふわふわとさせながら、アレンはギルドへと依頼達成の報告を行い、そして報酬を受け取り忘れそうになったりしながらギルドを出ていった。

なんとか自宅へと帰ってきたアレンは、部屋でのん気にくつろいでいるレベッカを見つけてやっと正気を取り戻す。

心の安寧のためにも、とりあえず問題を先送りしようと決めたアレンに、帰宅に気づいたレベッカが駆け寄ってきた。

「おかえり、レン兄」

「おう、ただいま」

「はい、これ今回の報酬。レン兄の分ね」

レベッカが後ろ手で隠していた袋を受け取り、そしてそのずっしりとした重みを感じたアレンが頬を引きつらせる。

そんなアレンの姿にニシシと笑いながら、レベッカは止めの一言を発した。

「10本、1セットで報酬が8万ゼニー。今回達成したのが461セットだからレン兄の取り分は1844万ゼニーだよ。いやーイセリアさんのおかげで予想以上に儲かっちゃった」

先ほどイセリアから聞いた6億ゼニーという金額からすれば、てへっと笑いながらレベッカに告げられたその数字ははるかに軽いはずだ。

しかしその妙に現実感のある数字と手に持った重みはアレンの心に的確に突き刺さり、そしてその思考を完全に停止させたのだった。