軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 共同依頼の終わり

そして翌日から2日間、アレンとレベッカは、継続して数日間トレントを倒し続ける必要があるというイセリアに付き合い、トレントを倒しては解体を続けていた。

イセリアが協力してくれたおかげで初日だけでアレンとレベッカが3日かけて集めるような量の建材を確保できていたため、それに報いるためにもアレンも解体は最低限にし、トレントを倒すつもりだった。

しかしイセリア自身に、初日と同じくらいの数だけ倒せれば良いと断られてしまい、結果アレンは初日と同じようにトレントを解体しては魔石採取と建材を造るという生活を続ける事になったのだ。

初日と同じ、つまり約半日で倒した数を1日かけて倒すことになったため、初日のように半ば意識を失うような事もなく余裕を持ってアレンはトレントの解体を続けることが出来ていた。

その合間には2人の食事を作ったり、孤児院に寄附できるような簡単なおもちゃを作成したりとなかなかに充実した生活だ。ダンジョン内にいる冒険者の生活としてはどうかと思うようなものだったが。

横長のベンチのように切った端材の上に座り、孤児院の小さな子が怪我をしないようにとおもちゃの角が丸くなるようにアレンが削っていると、トレントを引きずりながらレベッカが戻ってくる。

「レン兄、追加だよ」

「おっ、了解。こっちにきりがついたら解体するからそこらへんに置いておいてくれ」

「わかったー」

レベッカの返事を聞き、アレンは元の作業へと入ろうとしたのだが目の前に出来た影に顔を上げる。そこには身をかがめ、アレンの手元を見ながら懐かしそうな顔をするレベッカの姿があった。

「レン兄って本当に過保護だよね。私たちが昔使っていた積み木にも同じことしてたし」

「あー、そういえばあったな。ニックにもらったあの積み木のことだろ」

「形がばらばらで積むのにコツがいるんだよね」

「もらったのってあいつがまだ見習いの時だったしなぁ」

そんなことを言い合って笑ったアレンとレベッカは懐かしく思い出に浸る。

もう15年以上前になるがブラント工房に弟子入りしたばかりのニックが、アレンの家族のために端材を使って積み木を作ってくれたことがあったのだ。

とは言え、その当時のニックは素人に毛が生えた程度の腕前しかなかったため、その形は不揃いで、ささくれ立っていたり、角もそのままだったりと安全性などほとんど考えられていないようなものだった。

さすがにただでもらった手前、注文をつけるわけにもいかず感謝をニックには伝え、危なそうな角はアレンが自分で地道に削ったのだ。そのせいで余計にバランスが崩れてしまう結果になったのだが。

「でもあいつももう1人前の職人だしな。結婚して一児の父にもなってるし」

「レン兄は、いいの? その……結婚とか、子供とか?」

「結婚かぁ……まっ、縁があったらだな。1人でどうなるもんでもないし。子供は、俺にとって子供みたいなお前たちがいたから、いまいちよくわからないんだよな。苦労はしたけど、今思い返してみるとそれなりに楽しかったし、皆が独り立ちして嬉しい反面寂しかったり、これが親の気持ちなのかなぁ、とか思ったりはするんだが」

珍しく遠慮がちに聞いてきたレベッカに笑い返し、その頭をぐりぐりと撫でながらアレンが正直な気持ちを答える。

確かに弟妹を育てるためにアレンは身を粉にして働いてきた。でもそれが全部辛かった訳ではない。先ほどの積み木のように兄弟と過ごした楽しかった思い出がアレンの中にはたくさん残っていた。

「そっか」

アレンになされるがままに頭を撫でられていたレベッカが柔らかく笑い、そして立ち上がる。その顔はどこかすっきりしたものに変わっていた。

そしてレベッカはアレンの横に無造作に置かれているマジックバッグへと目をやり、少し困ったような表情をする。

「しかしレン兄、イセリアさんのマジックバッグってすごいね」

「ああ、この2日で作った建材を入れてもまだ余裕があるしな。どんだけ容量があるんだって話だよな」

「うん。行商人からしたらうらやましくてたまらない一品だよね。値段も洒落にならない金額だろうけど」

「確かになぁ。俺には想像さえつかん金額なんだろうな」

そんな貴重なものが無造作に置かれている状況に、顔を見合わせた2人がどちらからともなく大きく息を吐く。

信頼されていると言われれば聞こえは良いが、さすがに信頼で足るような金額の話ではないだろうというのが2人の共通認識だった。

実際このマジックバッグを買おうとすれば、数億ゼニーを優に超えるのだからその認識は間違っていない。

「まっ、俺たちが気にしても仕方ねえだろ」

「そだね。でもやっぱりレン兄も憧れる?」

「マジックバッグの話か? そりゃあ一流の冒険者の証みたいなもんだしな。ダンジョンの探索も楽になるし、持ち帰れる量が増えるから報酬も増える。行商人にとってそうであるように冒険者にとってもマジックバッグは欲しい一品だな」

「そっか」

そんな事を言ったアレンの姿を見て、レベッカがニッと笑みを浮かべる。

「私は持ってるけどね」

「知ってる」

「いくらレン兄でもあげないよ。そんな、もの欲しそうな顔をしてもダメだからね」

「してねえよ!」

自分の腰に提げられたマジックバッグを隠すようにしながらアレンから距離をとるレベッカに思わずアレンがツッコミを入れる。その反応に満足したのか、笑みを増したレベッカはくるりとその身を翻した。

「じゃ、トレントの採取に行ってきまーす」

「せめて討伐とか倒すって言ってやれよ」

気楽な調子で手を振って去っていくレベッカにそんな言葉を返しながら微笑み、アレンは先ほどレベッカが持ってきたトレントの解体を始めるべく立ち上がった。

そして3日間の調査が終わった翌日、3人はライラックの街へと戻り、お互いに感謝の言葉を交わして別れた。

ちなみに大量の建材が入っているイセリアのマジックバッグは今レベッカの手元にある。その方が都合が良いでしょう、とイセリアに渡されたからだ。

渡された時、レベッカの表情が引きつるのをアレンは見逃さなかった。

直接手渡された訳ではないのでその時はまだ余裕があったアレンだったが、その返却先として指定された場所を聞いてアレンの頬も引きつる。

返却先のイセリアがこの街で住居としている宿が、最低ランクの部屋であっても1日10万ゼニーするようなこのライラックでも随一の宿であることを知ったからだ。

基本ネラとしてイセリアに会うときはダンジョン前で集合していたため、イセリアがどこに泊まっているかなどアレンは全く知らなかったのだ。

受け取ったマジックバッグの方が金額ははるかに大きいのではあるが、宿の値段という現実的な金額の方に驚いてしまうことがアレンの金銭感覚をなにより物語っていた。

丁寧に挨拶をして去っていくイセリアの後姿を、アレンとレベッカが半ば呆然としながら見送る。そしてぽつりとレベッカが漏らした。

「なんか、住む世界が違うってああいう人のことを言うんだろうね」

「だな。俺だったら宿に泊まる金で美味いもん食った方が幸せになれる自信がある」

「いや、それってどんな自信なの、レン兄? というか宿の料理もやっぱり一流なんじゃない?」

「食える量が違うだろ?」

そんなとりとめのない会話を交わしながら、イセリアの姿が消えるまで見送り続けた2人だったが、いつまでもこうしている訳にもいかないのでそれぞれが動き出す。

「じゃ、レベッカを安全に街まで連れて帰ってこれたことだし、俺はダンジョンに戻る。じいさんの薬草採取の依頼がだいぶ遅れちまってるしな」

「了解。ご飯は適当に食べるから私のことは気にしないで。私も私でやることがあるし」

「おう。くれぐれも気をつけろよ」

「うん、わかってる」

短く言葉を交わし、街の外へと再び出ていくアレンをレベッカは見送った。そしてくるりとその向きを変えると、少しだけ目を閉じてふぅ、と息を吐く。それだけでその表情は先ほどまでとは違う、商人としての顔に切り変わっていた。

「じゃあ、私も行こうかな。おじいさんの依頼もあるしね」

小さく宣言するように呟いてからレベッカは歩き始める。その足が向かう先は、数日前アレンと一緒に行った薬草採取の依頼主である偏屈なじいさんの家だった。