軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 3人の共同依頼

いつでも魔法を放つ用意が出来ているとばかりに2人を見るイセリアに対して、即座に状況を理解したレベッカはにこやかな笑みを浮かべながら構えを解き、手に持っていた斧を地面へと放り捨てた。

そのことでイセリアの警戒心が少し薄れた事を察し、レベッカが平和的な攻勢に出る。

「すみません。ちょっと2人でふざけてただけなんで攻撃しようとするのは止めていただけるとありがたいんですが。そうだよね、レン兄」

「本当ですか? 奥の方、私は一応金級の冒険者です。たとえ脅されていたとしてもあなたを助けることは可能ですから、正直に話してください」

全く警戒していないことを示すためか、レベッカがそんな事を言ってアレンを振り向いて無防備な背中をイセリアへとさらす。

それに続いたイセリアの言葉にレベッカが笑みを深め、ラッキー、とばかりに見えないように拳に力を入れるのを眺めながらアレンは嫌な予感を覚えていた。レベッカがなにを考えているのかをなんとなく察してしまったせいである。

とは言え今すべき事をしなければ余計に面倒な事になると、アレンはイセリアの誤解を解く事にした。

「あー、すまん。俺とこいつは兄妹だ。襲われていたわけでも、脅されている訳でもない。誤解させて悪かったな」

ひょこっと顔を出してそう言ったアレンの姿に、イセリアが目を見開いて固まる。イセリア自身、こんな場所でアレンに会うとは思っていなかったせいだ。

その様子にアレンがおやっ、と違和感を覚えたのだが、それが何かまでは思い至らなかった。

そして2人に向けていた手を下げ警戒心の薄まったイセリアに、レベッカがフレンドリーに話しかけながら近づいていく。

「私は鉄級冒険者兼行商人のレベッカで、こっちは兄のアレンです。誤解させてしまってすみませんでした。ええっと……」

「あっ、イセリアと申します」

「イセリア様ですね。すごいですね、その若さで金級なんて。イセリア様ってもしかして有名なパーティの一員とかなんでしょうか?」

「いえ、基本的に私は単独で……」

「なおさらすごいじゃないですか。ソロで金級なんて凄腕の証ですよ。それにイセリア様、美人なのにそんなに強いなんて凄すぎますよ」

「そんなことは……」

レベッカのべた褒めの言葉にイセリアが謙遜しながらも頬を赤く染める。既に2人の間に相手に対する警戒心など微塵も感じられなくなっていた。

するりとイセリアの内に入り込み、まるで知り合いであったかのように話し始めてそんな風にしてしまったレベッカの手腕にアレンが舌を巻く。

そして同時に、そういえばレベッカにはやたらと知り合いが多かったよな、と昔の事を思い出していた。

かしましく、楽しげに話を弾ませ始めた2人の姿を眺めながら、アレンはその場を離れる。奥で半ばまで切れ込みを入れられた状態で放置されたトレントを倒すために。

そして程なくアレンによって切り倒されたトレントの表情は、憎しみや侮蔑などの悪感情のこもったいつもの表情ではなく、どこか穏やかなそんな顔をしていた。

倒したトレントを建材へと加工し終えたアレンが2人のもとへと戻ると、そこにはまるで昔からの友人であったかの様に笑いながら話をするイセリアとレベッカがいた。

「でも、本当にごめんなさいね」

「いえいえー。私たちも誤解されるような事していたのが悪かったですし、イセリアさんにはもう何度も謝ってもらってますから気にしないでくださいって」

謝るイセリアに気楽な調子で返すレベッカの姿を眺めながら、いつのまにか様づけからさんに変わっている事にアレンが気づく。

アレンがトレントを倒してから加工を終えるまでそこまで時間はかかっていないのだが、そんな短時間でそれほど距離を詰めたレベッカに対してアレンは素直に感心していた。

「終わったぞ」

「あっ、レン兄お疲れー」

「お疲れ様です。アレン さ(・) 、 ん(・) も申し訳ありませんでした」

イセリアが妙な場所で言葉を詰まらせたその理由を察したアレンは、あえて気づかないふりをしながら問題ないと手を振って応えた。

「誤解されるような事をしていた俺たちが悪いんだしな。というかレベッカがふざけたのが原因だろ」

「えー、レン兄も笑ってたし共犯でしょ」

「いや、それおかしくね? 笑っただけで共犯とかどこの暴君だよ」

「えっ、レン兄の妹君だよ」

「知ってるわ!」

とぼけた顔でそう言い切ったレベッカにアレンがツッコむ。2人のやりとりがおかしかったのかイセリアがくすくすと笑った。

そんな姿を眺めながらレベッカは小さく首を縦に振り、そしてアレンに向き直るとイセリアに聞こえないくらいの声で話し始める。

「レン兄。イセリアさん引き入れるから」

「いや、さすがにそれはダメだろ。相手は金級だぞ」

「大丈夫だって。厄介ごとに自ら首を突っ込もうとするほど人が良いし、話した限り性格も良いよ。装備とかからしてもお金持ちだし、かといって金持ち特有の傲慢さとか、がめつさみたいのもない。たぶんどこかのお嬢様だったんじゃないかな。なんでそんな人が冒険者をしているのか不思議だけど」

やんわりと本音を隠して断ろうとしたアレンだったが、それはレベッカには通じなかった。

そしてレベッカのイセリアに対する人物評を聞き、良くこの短時間でそこまで判断したなとアレンは思わず笑ってしまう。

それはある程度の付き合いのあるアレンとほぼ同じものだったからだ。

レベッカがアレンからイセリアの方へと向き直り、笑みを浮かべる。

「イセリアさん、もし良ければ私たちの依頼、一緒に受けませんか? ちょっと手が足りなくて 困っている(・・・・・) んです」

「依頼、ですか?」

ほんの少しだけ困っていたという部分を強調するレベッカの話し方に、確かにイセリアには効果的な方法かもな、とアレンは考えていた。

勇者アーティガルドの物語は魔王を倒すのが本筋ではあるが、その道中で困っている人を助けていく場面も多い。それに憧れるイセリアは、基本的には困っている人を放っておけないとアレンは知っているからだ。

あまりアレンの姿でイセリアと関わりたくないアレンにとってはまずい流れではある。

しかしアレンにはまだ余裕があった。

「はい。トレントを建材にして納品する依頼です。ちょっと数が多くてトレントを倒してくれる人を探していたんです」

「そうですか。でも私も別件で依頼を受けていまして……」

「えー」

「いや、そりゃそうだろ。だから諦めろって」

予想通りのイセリアの答えにアレンが笑みを深めながら、ぐしぐしとレベッカの髪を荒く撫でてそう促す。

諦めきれない様子でレベッカがうなっていたが、引き際も見誤るようなことはしないだろうとアレンはもう終わった気分でいた。

アレンが最初から余裕があったのはイセリアがここにいるのはなんらかの依頼を受けたからだろうと予想していたからだ。

ハンギングツリーの関係であることも少しは考えていたが、それも一段落しているため可能性は低いとアレンは思っていた。

それに加えて最近イセリアは将来のために、勇者の卵ということで入る条件をクリアしたドラゴンダンジョンで戦っている、とアレンは直接本人から聞いていたのだ。

そんなイセリアがわざわざこの場所にいるという事は、なんらかの依頼を受けた結果としかアレンには考えられなかった。

残念そうにしていたレベッカが、気持ちを切り替えて顔を上げる。そして口を開いて諦めの言葉を紡ぐ直前にイセリアがパンッと手を打った。

「そうだ。では私の依頼も手伝ってくださいませんか?」

「依頼、ですか?」

「はい、トレントをなるべく多く倒してその数を報告するという依頼なのですが、1人でやるよりも手伝っていただいた方が多く倒せますので。私はトレントの魔石は必要になりますが、それ以外の部分は必要ありません」

「つまり解体をこっちで行って、魔石はイセリアさんに、その他の素材は私たちに。イセリアさんは解体する手間が省ける上に倒した数も増やせる。私たちもより多くの建材が確保できる、と。良いですね、では交渉成立ということで」

「えっ?」

思わぬ方向に話が進みフリーズするアレンをよそに、イセリアの手を包み込むように両手で握り締めたレベッカが本当に嬉しそうに笑う。それに対するイセリアも優しげな笑顔をレベッカに向けていた。

「と、言う訳だからレン兄、解体よろしくね」

「アレンさん、よろしくお願いします」

「えっ? お、おう」

2人からそう言われ、思わず返事をしたアレンを残しレベッカとイセリアはトレントをそれぞれ倒すためにその場から去っていった。

「なんでこうなった?」

そんなアレンの言葉は誰にも届く事はなかった。

それからアレンにとってよくわからない時間が始まった。レベッカとイセリアが引きずってきたトレントをひたすら解体し、魔石と建材を作っていく、そんな時間だ。

イセリアがトレントを持ってくるペースは早かった。それもそのはずでイセリアのレベルであればトレントなど魔法の一撃で倒せるのだから当然だ。

そしてそれに加えて、レベッカの倒すペースも明らかに上がっていた。

「っていうか、なんで俺といた時より早くなってんだよ」

「うーん、なんか慣れてきた。レベルも上がったし」

「マジか……」

「じゃ、よろしくねー」

そう言って元気に去っていくレベッカの姿を見送り、アレンは懸命に解体を進める。

アレンのステータスをもってすればスピードを上げることなど簡単な事だ。

しかしそれはアレンだけの問題であり、アレンが使っている道具にまでは及ばない。無理をすればアレンの愛剣のように折れて使えなくなってしまったりするのだ。

そうでなくても道具を使えば損耗するのは当然なので、切れ味の鈍くなった刃を砥石で研いだり、角度を調整したりそれなりの整備が必要なのだ。

ドルバンの工房で学んだアレンだからこそ最適な整備が最速で行えているのだが、それでも持ち込まれるトレントのペースと合わせると本当にギリギリのラインだった。

アレンが解体を終えると新たなトレントが持ち込まれる。解体し、少しの余裕を見つけては道具を整備し、その間に持ち込まれたトレントを再び解体する。

もはやアレンにはここがダンジョンであるという意識はなくなっていた。というより自分がなぜこんな事をしているのかさえはっきりとわからなくなっていた。

1回、レベッカのマジックバッグがいっぱいになり、アレンも正気を取り戻しかけたのだが自分のマジックバッグを使っても良いというイセリアの提案によりその機会は失われた。

そして時刻はいつの間にか午後10時を回っていた。

アレンのもとへ戻る途中で出会ったイセリアとレベッカは今日の戦果をお互いに報告しあっていた。

周辺のトレントは根こそぎ討伐されているので警戒する必要すらなく、まるで普通の森の中を散歩するかのように2人は歩いていく。トレントを引きずりながらではあるが。

「やっぱりイセリアさんはすごいですね。私の2倍ですよ」

「でもレベッカさんもすごいじゃないですか。鉄級の人が戦うのを見たことがありますけれど、その人ならきっとレベッカさんの半分くらいしか倒せないと思いますよ」

「それなりに努力してますから」

お互いに褒めあい、そしてしだいに世間話に移行していった2人の歩みはそれまでトレントを運んでいた時よりも格段に遅かった。

その結果、アレンのもとに戻った2人はそろって口をぽかんと開けて固まるという間抜けな顔をさらすことになったのだった。