軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話 トレントの建材の確保

コーン、コーンという音を響かせながらトレントの幹へとレベッカがマジックバッグから取り出した斧を振るっていく。

既にトレントの枝は全て払われており抵抗できないトレントには為す術などなく、ただ恨めしそうな顔でレベッカを見ていた。

その近くでは、アレンが別のトレントの表皮をはぎ、そしてその幹を綺麗にまっすぐ切断して建材を造っていた。

職人顔負けの真っ直ぐで乱れなど無いその仕上がりにうんうん、と満足げにうなずいたアレンは渡されたマジックバッグに出来上がったそれを詰めていく。

「おーい、終わったぞ」

「うん。あともうちょっと!」

レベッカによって振るわれた斧は少しずつその幹へと埋まっていくが、なかなかトレントが倒れる事はない。とは言え既に半ばまでは刃が届いているためそこまで遠くなく倒せるだろうとアレンは考えていた。

今まで数体のトレントを相手に戦い、そして最初の1戦こそ2人で戦ったものの、それ以降トレントを倒していたのはレベッカだった。

倒したトレントを次のトレントのいる場所まで引きずっていき、レベッカが新たなトレントと戦っているうちにアレンが先ほど倒したトレントを加工するという役割分担になったためだ。

アレンとしてはレベッカのレベル上げの助けになれば良いなという思いもあったため、先に加工が済んでしまっても手を出さずに見守ることにしていた。

先ほどとは反対側からレベッカが斧を振るい始め、しばらくしてメリメリっという音を立てながらゆっくりとトレントがその身を倒していく。

その様子を袖で汗を拭いながら見ているレベッカのもとへとアレンは近づき、タオルを渡した。

「お疲れ」

「あっ、レン兄。ありがとう」

受け取ったタオルでごしごしと顔を拭い、そしてレベッカはさっぱりとした顔で大きく息を吐いた。

その表情の中に多少の疲れを感じたアレンが心配そうな顔で提案する。

「ちょっと休憩するか?」

「うーん、そうだね」

少し悩む素振りをした後、自分の状態を冷静に判断したのかレベッカがうなずき、そして先ほど倒したばかりのトレントの上に腰を下ろした。そんなレベッカへと水筒を渡してやりながらアレンもその隣へと座る。

受け取った水筒の口を開け、コクコクと喉を鳴らしながらレベッカが水分を補給していき、そして口を離すと再び大きく息を吐いた。

「いやー、トレントって思った以上に私と相性が悪いね」

「最初に枝さえ払っちまえば、後は力のある方が有利だしな。素早さ重視のレベッカじゃあ確かに辛いかもしれないな」

疲れた表情で手をぶらぶらとさせながらそんなことを言うレベッカに、アレンが苦笑いを浮かべながら同意する。

実際、トレントとレベッカの相性は良くなかった。枝を払うまではそこまで問題なく対処出来るのだが、それが終わった後の幹を切り倒す工程でどうしても時間がかかってしまうのだ。

アレンの言ったようにレベッカの力はあまり強くない。

とは言え、たまにここに来て同じような事をしている一般人のニックと比べれば格段に早いのではあるが。

「私がレン兄の速さに追いつけないと効率がなぁ」

そんなことを呟きながら立ち上がるレベッカに続いてアレンも立ち上がり、座っていたトレントの口だった開いた穴へと手を突っ込む。

そして取っ手のように持ちやすいそこを掴んで引きずり、先を行くレベッカの後をついていった。

先頭を行くレベッカはぶつぶつと呟きながらどうしたら良いのか考えをまとめていた。その顔は冒険者ではなく、商人のものだった。

「そこまで時間をロスしている訳じゃねえし良いんじゃねえか?」

「違うよ。ちょっとした差だって、たくさん集まったらすごい事になるんだから。うーん、もう1人くらい人手が欲しいなぁ。でも分配で揉めたくないし、情報の秘匿も……」

あごに手を当てながら考えを続けるレベッカの姿に、アレンがこっそりと感心しながらも苦笑する。自分と全く違う事で悩む姿に、本当に商人なんだなぁと実感していたからだ。

実はアレン自身ちょっとした悩みを抱えていたのだが、レベッカがそんな状態であるためそれを言い出せる雰囲気ではなく、周囲の警戒を続けながら頭の片隅で考えを巡らせていた。

(これで3セット。つまり俺の取り分は12万ゼニー。これ、本当に大丈夫なのか?)

視線で警戒を続けつつ少しだけ首をひねり、アレンはそんなことを考える。

1体のトレントからレベッカの指定する規格の建材はおよそ4本から6本作製できた。7体倒した現在では30本の建材が出来上がっており、レベッカの指定した依頼の報酬を考えると24万ゼニーになる。その半分の12万ゼニーがアレンの取り分だ。

この9階層にたどり着いてまだ3時間程度であるのに12万ゼニーも稼いでしまっているのだ。

半日これを続けたらおよそ50万ゼニー。もちろん休憩などを全く考慮していない大雑把なものなのだが、1日の稼ぎとしては破格過ぎる金額なのだ。

それは以前のアレンの 年収(・・) が300万ゼニーであったことからもよくわかる。

しかもレベッカはこれを何度も繰り返すと言っていた。その結果どれだけの金額がアレンの手元に入ってくるのか、アレンには全く想像がつかなかった。

(まさか俺に金を渡すためにこんな依頼を……ってそんな訳ないよな)

一瞬浮かんだそんな考えをアレンは即座に打ち消した。

そういった意図が全くないかはわからないが、目の前で真剣な表情で効率化について考えているレベッカの姿からは仕事に本気で打ち込んでいる者特有の凄みが感じられたからだ。

そんな見た目より大きく感じられる肩へとアレンは手を置き、レベッカの歩みを止める。そして発見していた右斜め前方のトレントを指差した。

「とりあえず頑張ってこい」

「うん」

勢い良く走り出したレベッカの背中を見守りつつ、アレンは引きずってきたトレントの加工にとりかかるのだった。

そして2人はそのままトレント狩りを続け、既に日付は変わり昼の12時に近くなっていた。

こまごまとした休憩や食事休憩、そして2人合わせて4時間ほどの仮眠をとった以外はトレントを倒し続けたおかげで、合計で12セット。報酬金額にして96万ゼニーの仕事を2人はやりとげていた。

とは言えレベッカの場合は自己依頼であるため、自分の持っているお金が自分に入ってくるだけなのだが。

アレンの様子は最初の頃とほとんど変わりがない。実際、トレントとも戦っておらず木材の加工にしてもかなりの手加減をしており、スピードを落として丁寧に行う事を心がけているためほとんど疲れないのだ。

一方でレベッカは……

「うがー!!」

「おうおう、溜まってるな」

意味不明の叫び声を上げる程度には鬱憤がたまっていた。

この階層には動く事のないトレントしか出てこないため、そのせいで周囲のモンスターを呼び集めるなどといった事が無い事を知っているアレンはレベッカの姿を見ながら苦笑する。

そんなアレンの姿に気づいたのか、斧を持ったままレベッカがアレンへと近づいてくる。

半ばまで切れ込みを入れられて放置されたトレントの表情が、えっ、生殺しですか? とでも言わんばかりの悲しげなものに感じられたアレンだったが、斧を肩に担いで仁王立ちしたレベッカにその視界を遮られた。

「やっぱり、か弱い私じゃ無理!」

「いや、か弱いって……ニックとかよりかなり速いペースだぞ。鉄級冒険者の面目躍如だな」

「比較する対象が違うよ。レン兄がもう1人いたら良いのに」

頬を膨らませながらそんなことを言い始めたレベッカに、アレンが苦笑いを深める。レベッカの言いたい事はわからないでもないが、もう1人自分がいたらなどとアレンは考えたくもなかった。

現状の破格のステータスを持った相手と対峙するという恐怖も少しはあるのだが、その大部分は生理的なものだった。

「レン兄ならスパーンといけるのにね」

「いや、構えをとるな、構えを。それとその言い方は俺がスパーンと切られてそうだぞ」

アレンがトレントへと斧を振るっているところを真似たのか斧を構えるレベッカに、アレンが手を差し出してやめさせようとする。2人とも笑っているのでそれが冗談なのは一目瞭然だ。

だが、それがわかるのは向き合っていた2人の表情が見える者だけだった。

「その斧を下ろしなさい! 妙な動きをすれば無理矢理にでも止めます」

そんな警告を発しながら飛び出してきたイセリアの姿をレベッカの体越しにアレンが確認する。

そして、意味がわからずに振り返ったレベッカに見えないように、なんでこんな場所で会うんだよ、と思いながらこっそり頭を抱えたのだった。