軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 依頼を受ける者

仏頂面したアレンの視線を受けつつも2人はひとしきり笑い、そして老人がとりつくろうように1つ咳をする。

「そういうわけでこの依頼についてはこれで良いんじゃ。アレンなら勝手にプレッシャーに感じて早く依頼を終わらせようとするじゃろうしな」

「わざわざ依頼に穴があるって言いに来ちゃうくらいですしね」

「うむ。アレンが木級であるから指名依頼は出来んが、まあ指名料代わりと考えればさほど不思議ではあるまい。専属で雇うといってもこやつは聞かなそうじゃしな」

仲良さそうにそんなことを話す2人を見ながら、アレンが大きくため息をつく。

確かに今言われている事はその通りだった。いくら金を払うと言われても老人のために薬草を専属で採取する仕事に就くつもりはアレンにはない。

そして働かずにお金をもらうという事に抵抗があるため、そうならないようになるべく早く薬草採取をしようとするはずだ。

なにからなにまで老人の読みどおりと言える。

「仲良くなって良かったな。じゃ、俺の用件はそれだけだ。老い先短いじいさんのためになるべく仕事は早く済ませてやるよ」

「老い先短いは余計じゃ!」

首をぐりんと動かし、先ほどまで笑ってレベッカと話していた姿が嘘であったかのように鋭い視線を老人がアレンに向ける。その顔からは静かな怒りが滲み出していた。

その豹変具合に困惑しつつ、アレンが言葉を続ける。

「いや、自分で時間が無いって言ってたじゃねえか?」

「言ってないわい。儂が言ったのは金より時間の方が価値は高いという事だけじゃ。金なら腐るほどあるし、これからも勝手に増えていくからのう」

「うわっ、勝手に金が増えるってすげえ言い様だな」

「商人にとっては夢のような言葉だね」

自分の言葉に同意するレベッカの声を聞きながら、アレンは老人の言った事についてそうだったか? と記憶を探る。

そして考えてみると確かに老い先が短いから時間は貴重だとは一言も言っていない事に気づいた。ただアレンがその見た目と言葉を結びつけてしまっただけだった。

(寿命があるから時間が貴重ってのも間違ってない気がするが、それを言うと面倒そうだな)

鋭い視線を向け続ける老人の姿に、アレンはそう判断した。そしてこれ以上この件に触れるのは危険だと考えて、とっとと撤退する事に決める。

既にアレンがしたかった用件は全て終わっているのだから。

「さて、じゃあレベッカ行くぞ。なるべく早く薬草は持ってくる」

「ふんっ」

レベッカを促し、そう言いながら立ち上がったアレンに対して、老人はそっぽを向きながら鼻を鳴らして返事をした。

その事に苦笑するアレンの隣で、立ち上がったレベッカがにこりと笑みを浮かべながら老人を見た。

「またね、おじいさん」

「うむ。また来るがええ」

「いや、俺と対応が全然違うじゃねえか」

「礼儀知らずの男と愛想の良い可愛い娘、同じ対応をすると思う方がおかしいじゃろ」

さっと優しげな表情に変えてレベッカにそう返した老人の姿に、思わずアレンが反論しようとする。

しかし続けられた老人の言葉がすんなりと胸に落ちてしまい逆にアレンは感心してしまった。

「おー、確かにそうだな。さすがじいさん、真理を捉えているな」

「まあ特殊な例外がいない訳ではないが、大方の男などそんなもんじゃ。嬢ちゃんは器量が良いしの」

「確かにレベッカは可愛いからな」

老人の言葉にうんうんと満足そうにうなずくアレンの手を、顔を赤くしたレベッカが掴んで強引に引っ張る。

「行くよ、レン兄!」

「おっ、おう」

半ば引きずられるように歩きながら、レベッカに掴まれているのと反対の手を上げてアレンが老人に挨拶をし、老人も苦笑しつつ軽く手を振ってそれに応えた。

レベッカはずんずんと先へと歩いていく。部屋を出て、玄関を通り抜け、そして門を抜けてもそれは止まらず、そろそろなんか声をかけた方が良いかとアレンが思い始めたその時、唐突にその足が止まった。

「んっ、ここは?」

レベッカを気にかけるあまり、あまり周囲の状況を確認していなかったアレンが目の前の景色を認識して声を上げる。

そこにあったのはギルドだった。とは言えアレンが通いなれた冒険者ギルドではなかったが。

「じゃあ私、手続きしてくるからレン兄はちょっと待ってて」

「おう」

掴んでいた手を離し、そう言って中に入っていったレベッカをアレンが見送る。

入り口にいては邪魔になるかもしれないと考えたアレンは、その明らかに冒険者ギルドよりも品が良く、立派なそのギルドの壁際に設置されていたベンチへと腰掛けた。

「商人ギルドかぁ。こういう場所に入る姿を見るとレベッカも商人なんだなと実感するな」

そんなことをしみじみとしながら呟いたアレンが何気なく入り口を見つめる。

商人ギルドの入り口は人を迎えるという心意気が冒険者ギルドとは違うためか専属のドアマン兼守衛がおり、礼儀正しく挨拶をしては人々の出入りを助けている。

商人ギルドだけあって、出入りする者はいかにも商人といった者も少なくないのだが、その多くは商家の従業員と思われる者や、きっちりとした服を着たどこかの使用人のような者だった。

また少数ではあるが冒険者のような姿をした者が出入りする事もあった。

「商人ギルドの依頼は美味いんだけどなぁ。そのせいで争奪戦が激しいんだよな」

そんなことを思い出しつつアレンが昔を懐かしむ。

商人ギルドが依頼主となっている依頼は冒険者たちに人気があるのだ。

商人ギルドの依頼ということはそのものの供給が不足している状態であることを意味しており、その分報酬が高くなる傾向にあるからだ。

またそれ以外にもトラブルとなる可能性が低い事や、事前に正当な理由をつけて申請すれば報酬の一部を先払いしてくれたりと、何かと便宜を図ってくれるという点も人気の理由の1つだった。

ただその分だけ依頼の争奪戦は激しさを増す。特に昔のアレンのような貧乏な冒険者にとって割の良い商人ギルドの依頼はぜひとも受けたい依頼だからだ。

そのため掲示板に依頼が貼り出される朝早くから冒険者ギルドへと行くわけだが、そう考えるのは他の者も同じであり、その結果生まれるのが争奪戦である。

まあ実際に殴ったりといったことまでは起こらないが、もみくちゃにされるくらいは当たり前だった。

(あれは場所取りが全てだからな。貼り出す職員の癖を探して研究したりとかしたなぁ)

冒険者になりたての頃のそんな思い出に苦笑いをアレンが浮かべていると、視線の先でちょうどレベッカが外に出てきたところだった。

キョロキョロと周りを見回すレベッカに、アレンが手を振りながらその名前を呼ぶ。

それに気づいたレベッカが近寄ってきたので、アレンも立ち上がりそちらへと向かった。

「用事は終わったのか?」

「うん。次は冒険者ギルドに行くよ」

「忙しいな。さっきのトレントの依頼の件だよな。わざわざ冒険者ギルドを通さなくても別に良いぞ。手数料取られちまうし」

依頼主がギルドへと払うのは冒険者への報酬だけではない。ギルドへ払った金額の一部が冒険者の報酬になるのだ。

その事を心配してアレンはそう言ったのだが、レベッカは笑いながら首を横に振った。

「うーん、レン兄の申し出はありがたいんだけど、そうすると手続き関係がかなり面倒になっちゃうんだ。税とか特にね」

「へー」

んべっ、と嫌そうな顔で舌を出してそんなことを言ったレベッカに、アレンが感心する。

今まで冒険者としてギルドを通しての仕事ばかりしてきて、それ以外の仕事などほとんどしてこなかったアレンにとって、ギルドが肩代わりしてくれているそういった手続きの話を聞くのは新鮮だった。

じゃあ仕方ないな、と納得しかけて、アレンはふとあることに気づく。

「なあレベッカ。依頼を受けるのは別に良いんだけど俺が受けられる保証はねえぞ。じいさんの薬草採取みたいな不人気依頼ならいざ知らず、普通の依頼は掲示板に貼り出されるんだし」

アレンの言うとおり、基本的に依頼を受けた冒険者ギルドは翌日の朝に掲示板にそれを貼り出し、それを見た冒険者が依頼を受けるという流れになる。

つまり誰が受けるかは現段階ではわからないのだ。

最悪朝から並んで昔みたいに争奪戦することになるのか、とアレンは考えていた。

アレンが思案する様子に考えていることをおおよそ察したレベッカはニヤリと笑い、狙い通りとばかりにうんうんと首を縦に振った。

「大丈夫だよ。ちゃんと指名するから」

「いや、俺はもう鉄級じゃなくて木級なんだが」

指名依頼が可能なのは鉄級の冒険者からだ。以前のアレンであれば可能だったが、現状で受けることは基本的に出来ない。

それは間違っていないのだが、レベッカの表情が変わることはなく、むしろ笑みを深めながら口を開いた。

「うん。指名するのはレン兄じゃなくて、鉄級冒険者のレベッカにだから」

「はぁ!?」

とっさにその意味が理解できずに間抜けな声をあげたアレンを見て、レベッカは楽しそうに笑ったのだった。