軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 愚かな冒険者たち

20階層でブルファングを蹂躙し、ライオネルがこもった穴の周辺にいた数十体だけを残したアレンは急いで9階層を目指した。

異常な数に膨れ上がっていたブルファングの始末に自分が想定した以上の時間がかかってしまったため、ゆっくりと戻ると薬草の納品を考えていた昼過ぎに間に合わなさそうだったからだ。

そしてたどり着いたライラックのダンジョンの9階層、冒険者にとって儲からないトレントばかりが出現するせいで不人気層となっているそこで、アレンは倒したトレントをのこぎり等の大工道具を使用して建材に加工していた。

トレントについて、倒した状態のまま普通に持って行こうとすれば1本から2本が限度であり、それではろくな稼ぎにならないのはこの階層が不人気である事からも明らかだった。

今回に関しては自宅の室内が様変わりしている理由を示すために、レベッカにアレン自身がトレント材を使って何か造るところを見せるのが一番の目的だ。その技量を見せる事で、改築をアレン自身が行ったという事を立証するために。

時間があったので寄り道した結果、大事に巻き込まれてしまったが本来の目的が変わることはない。

技量を見せるだけであれば、そこまでの量を用意する必要はないのだが、同時にトレントを狩っているのがお金になることも見せた方が良いとアレンは考えていた。

その方がレベッカも納得しやすいだろうと思ったからだ。

レベッカは商人になったことからもわかるように、非常にお金に関してシビアだ。出ていくまではアレンの家の家計を最も幼いレベッカが管理していた事からもそれがわかる。

その厳しさは出ていった後もアレンが非常に簡単にではあるが家計簿をつけ続けていることからもうかがえる。まあ受けた依頼書の控えを月ごとにまとめて集める程度のずさんさではあるのだが。

アレンが室内の改装に使ったトレントの建材を定期的に取りに行っていた事の裏づけとして使うつもりの、ニックの所属するブラント工房へトレントの建材を売ったお金については、ちゃんとそこに控えてあった。

その金額はまるまる1本のトレントを持ち帰るよりもはるかに高かった。

その金額で売れるのであれば、トレントを持ってくるのも不自然ではないとレベッカも納得するであろうそんな金額だ。なぜそんな事になるかと言えば……

「ふぅ、このくらいか。ちょっと周囲がもったいない気もするが、今回は我慢だな」

トレントの加工を終えたアレンが大きく息を吐く。アレンの目の前には150ミリ角に正確に切られた4メートルほどの長さの建材が数本並んでいた。

この150ミリ角とはこのライラックの街で柱として使われる一般的な基準の太さであり、ブラント工房に納品した時に最も喜ばれる建材である。

それもそのはずで、モンスター由来の建材であるトレント材は丈夫で長持ちし、虫食いなどにも非常に強いという特性を持っているのだが、難点があるのだ。

それは加工のしにくさ。普通の木材よりはるかに堅いため、それを加工するためにより多くの手間をかけなければならないのだ。

アレンが持ち込んだトレントの建材が高く買われたのは、その加工が既にされて使える状態のものだったからだ。つまり加工賃が加味されていたという訳だった。

「これだけあれば数万ゼニーにはなるはずだし問題ねえだろ。さて薬草採取してとっとと帰るかな」

束ねてトレント1本分ほどの太さになった加工した建材を肩に担ぎ、アレンが歩き出す。既に目的の薬草がある場所は見つけており、採取すればすぐに帰る事が出来るようにしていたのだ。

薬草が生えていたのは、9層から10層へと向かうルート近くであるため採取されてしまっていないか少し心配だったアレンは多少早足でそちらへと向かう。

そしてその付近までたどり着き、薬草が採取されていなかった事に胸をなでおろしたアレンだったが、その直後に聞こえてきた、言い争っているかのような声に思わず身を隠した。

(って、なんで俺は隠れちまったんだろうな。まあ良いか。なんかトラブルの匂いがするし)

木の幹の裏に隠れながら気配を消していたアレンの耳に、だんだんとその内容までがはっきりと聞こえてくるようになる。

本人たちは声をひそめているつもりなのかもしれないが、人気が無い事で油断したのかその声は徐々にヒートアップし大きくなっていた。

「だから、仕方ないだろうが! ピエールとミロシュが死んだんだぞ。その上、俺たちまで奴隷落ちになろうって訳かよ!」

「それは俺だって嫌だ。でもせっかく助けてくれた恩人を見捨てるなんて……」

「見捨てるも何も、もう死んでるだろ。いまさら良い子ちゃんぶるんじゃねえぞ、てめえ!」

「落ち着け、2人とも。声が大きい」

その内容が気になったアレンがチラリと木の陰から視線を向けると、ボロボロの装備を身につけた4人の冒険者たちが歩いていた。少し気弱そうな冒険者の胸倉を掴んでいた大柄の男が、ふんっ、と鼻をならしながらその手を離す。

2人をとりなしていた背の高い男が大きく息を吐き、そしてその隣を消沈した様子でとぼとぼと歩いている若い女を心配そうに見つめた。

その4人の姿にアレンは見覚えがあった。20階層でブルファングたちに追いかけられていた冒険者たちなのだから見覚えがあって当然だ。

そのことがわかった瞬間、胸の内にその冒険者たちに対する怒りの炎がともったが、ゆっくりと静かに深呼吸する事でアレンはそれを抑える。

実際ブルファングのほとんどはアレンが始末したので既に『ライオネル』の危機は去っている事を知っていたし、戻ってきた『ライオネル』たちが裁くのが筋だろうと考えたのだ。

それでも若干のイライラを残しつつ、アレンは4人が去っていくのを見送った。

そしてそれを振り払うように軽く頭を振ると、大きく息を吐いて気持ちを切り替える。

(いつの間にか追い抜いていたみたいだな。昼過ぎの納品に間に合うように急いで戻ったから、そこで……あっ!)

追い抜いたのかもな、と続いたであろうそんな考えの途中で、ある事実に気づいたアレンはみるみるうちにその表情を情けないものへと変えていく。

「ブルファングの肉忘れた。凍らせて適当に切って持ち帰るつもりだったのに」

そう言ってアレンはがっくりと肩を落とし、大きなため息を吐いたのだった。

慎重に採取した薬草の納品をし、どうせなら今日もポーション研究を見ていけという依頼主の勧誘を、妹が久しぶりに帰ってきているからと断ったアレンは一度自宅へと戻ってトレントの建材を部屋の隅に置いた。

テーブルの上にはアレンが出かけるときに置いておいたメモがそのまま残っており、レベッカがここへやってきた様子はなかった。

「うーん、もしいたらなにかトレント材で作るところを見せるか、一緒に買出しでもと思ったんだが。……よし、とりあえず歓迎のために夕食の材料でも買いに行くか。ついでにギルドで今日の分の報酬を受け取っても良いし」

家に入るときには少しばかり緊張していたアレンだったが、レベッカがいなかったことでその緊張は消えていた。

せっかく帰ってきているのに家にいないレベッカの様子に少し残念な気もしたアレンだったが、商人になったレベッカにも色々とあるのだろうとすぐに気持ちを切替え、再び家を出る。

街を歩いて店をめぐり、歓迎のためのレベッカが好きだった料理を思い浮かべながらいつもよりちょっとお高めの良い野菜などを購入したアレンは、軽い足取りで冒険者ギルドへと足を向けていた。

薬草採取の依頼の日当である3万ゼニーを受け取るためだ。

いつもどおり冒険者ギルドの扉をアレンが開け、そしてマチルダのもとへと向かおうとする。

その瞬間、前方から1人の冒険者がまるでアレンを狙ったかのように飛んできた。

「うおおおっ!」

買った材料を守りながらアレンがそれを回避する。思わず声が出てしまうほど必死に避けたおかげもあり、レベッカのために買った材料は傷1つつかずに無事だった。

「おい、なにしやがる!」

思わず怒鳴ったアレンが、視線の先で倒れている冒険者の顔を見て少しだけ首をひねる。それは今日数度見た、ブルファングに追われていた冒険者たちの1人であり、9階層で言い争って仲間の胸倉を掴んでいた大柄の男だった。

アレンは状況を把握するために左右に視線を走らせ、ギルド内が異様に殺気立っている事にすぐに気づいた。

そしてカウンターの奥でマチルダが手招きしているのを発見し、巻き込まれないようにそそくさとその場を離れる。

「どうしたんだ?」

マチルダのもとへと着いたアレンが開口一番そう聞くと、珍しくマチルダが眉根を寄せ、言いにくそうな顔をしながら口を開いた。

「さっきの冒険者、1週間前にライラックにやってきた銀級パーティなんだけど20階層でブルファングに仲間をやられたらしいの」

「大方調子にでも乗ってたんだろ。自業自得じゃねえか」

「それが、別の冒険者にブルファングの大群をけしかけられたって言ってるのよ。それで、そのパーティっていうのが聞いた限りでは『ライオネル』なのよね」

「あー、そういうことか」

マチルダの言葉に、アレンが大体の事情を察する。

なに嘘を言ってやがるんだ、という怒りがアレンの中にない訳ではなかったが、それよりも完全に墓穴を掘りやがったなこいつら、という思いの方が強かった。

そしてそれを証明するかのような光景がアレンの目の前で広がっていた。

「ライオネルさんがそんなことする訳がねえだろうが!」

「あのパーティはな、この街出身の冒険者にとって憧れなんだよ! モンスターをなすりつけられただと……たとえ銀級だとしても許しちゃおけねえ!」

ギルド内にいた冒険者たちが立ち上がろうとしている大柄の男に向かって殴りかかっていく。

ギルド内での争いは禁止されているはずだが、それを言い出せるような雰囲気ではとてもなかった。

「どうすんだ、これ?」

「知らないわよ。それよりアレンは心配じゃないの? お友達のライオネルのこと」

「せめて腐れ縁って言えよ。というか木級の俺が心配してどうなるもんでもないだろ」

他人事のように会話を交わしながら1対複数の乱闘をアレンとマチルダが眺める。本当にどうするんだろうな、とアレンが考え始めたころゆっくりとギルドの扉が開き、そこから姿を現したのは大きな盾を装備した壮年の男だった。

その男は周囲を見回し、そして乱闘を続ける男たちへと視線を向ける。

「ジョセフのおっさん、良いところに来たな」

「夜の部のレベルアップの罠の使用者の案内の仕事が今日からあるしね」

「おっ、その話、もうまとまったんだな。でも、まだまだ時間には早いだろ。クソ真面目なおっさんらしいけど」

そんな会話を続ける2人をよそに、大盾を構えたジョセフが乱闘を続ける男たちへと向けて駆ける。

その動きは46という年や大盾の重さを感じさせないほどに軽く、そしてそれほどの速度でありながらも盾をほとんどぶれさせていないその姿からは熟練の技術を感じさせた。

そして乱闘する男たちの眼前で、ジョセフは押し出した大盾をピタリと止めてみせた。

大盾によって起こされた風圧が男たちの髪を揺らす。

「ギルド内での争いは禁止だ」

短いが年長者特有の重みのあるその言葉に、頭に上っていた血が冷めたのか殴りかかっていた冒険者たちがしぶしぶながら身を引く。

それを確認し満足そうに小さく2度うなずいたジョセフは表情を緩め、そしてそのままギルドの奥へと何事もなかったかのように入っていったのだった。