軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 愚か者の末路

大盾のジョセフがギルドの奥へと消えていく姿を見送りつつ、アレンは苦笑いを浮かべていた。

「本当に変わらねえな。ジョセフのおっさんは」

「ものすごく基準がはっきりしている人なのは確かよね」

しみじみと言ったアレンの言葉を聞いていたマチルダが同じく苦笑しながら同意する。

ジョセフは普段は温厚で、人に優しい常識のある冒険者だ。

元鉄級ではあるがそれは自らが上を目指すのではなく、新人の冒険者の育成のためにそういった者とパーティを組んでいたためランクが上がらなかっただけであり、実際の実力であれば銀級、もしくは金級に匹敵するというのがもっぱらの噂だった。

そんな慈善活動のようなことをする冒険者ギルドの良心と言っても過言ではないジョセフではあるが、ただ1つ欠点があった。

それはジョセフの中で決められた常識の範囲外となる、してはいけないことをしている者を見ると止めようとするのだ。しかも言葉ではなく、最初に大盾で。

もちろん大盾を人に当てるようなまねはしない。卓越した技術を存分に発揮し、その眼前で寸止めするのだが、それを受けた者はかなりの恐怖を味わう事になる。

なにせ人の体を押しつぶすかのような大きさの盾が当たる寸前で止まり、その風圧を感じるのだ。弱い冒険者であれば生命の危機さえ感じるかもしれない。

そして相手が動きを止めたところで一言、二言何が悪かったのかを告げ、それを相手が理解して止めた事を確認すると満足し、あっさりと興味をなくして去っていくのだ。

初めてジョセフを見たものからすれば、思わずぽかんとしてしまうような切り替えの早さである。

しかしそのせいもあってか、ジョセフが去ってから再びなにか問題が起きるという事は滅多にないため、わざと狙ってそうしているのではないかと一部の者は考えていた。

ジョセフが胸の内を語ることはないため、全ては推測でしかなく本当のところは謎のままであるのだが。

多少の問題はあるものの、基本的にジョセフの中で決められたその常識は冒険者ギルドのルールや人として守るべき事が基準となっているため、普通の冒険者にとっては頼もしい存在である事には変わりなかった。

教え子も多いためジョセフを慕う者も少なくなく、『ライオネル』とは別の意味でライラックの冒険者ギルドを代表する冒険者だったのだ。

ギルドがジョセフをアレンの後任に選んだのも納得の人選ではあった。

「なんなんだよ、お前ら。俺たちは被害者なんだぞ! 仲間も2人死んでるんだ」

ジョセフによって群がっていた冒険者たちがいなくなり余裕が出来たのか、大柄の男がきつい口調でそんな主張をする。

さすが銀級冒険者というべきか、殴りかかろうとする冒険者たちに群がられた影響など全く感じさせない張りのある声がギルドに響いた。

しかし飛びかかりこそしないものの、明らかに殺気立っている周囲の冒険者たちにその言葉が聞き入れられることはなかった。

一部離れた場所で冷静に状況を観察しているような者もいたが、そういった者は嘲るような視線をその男へと向けるだけで、それ以上動きはしない。

一人芝居をしているかのようなその姿に、アレンとマチルダが顔を見合わせる。

「奴は被害者気取りらしいが、ギルドとしての判断はどうなんだ?」

「今はギルド長の判断待ちね。『ライオネル』に不利な判断をするとは思えないし、片方の主張だけでは事実の確認が困難ってことでしばらく保留になるんじゃないかしら」

「ライオネルの帰還待ちってことか。奴はその間待機と」

アレンの言葉にマチルダが首を縦に振る。証拠もないだろうし、確かにすぐに判断できるわけねえか、とアレンは苦笑いした。

モンスターを他の冒険者になすりつけるなどという行為は、明確に冒険者ギルドの規定に反している。もっとはっきりと言うのであれば明らかな犯罪だ。

冒険者同士のトラブルとしてギルド内でとどまっているうちは捕まることはないのではあるが。

こういったことの解決方法としてはギルドを通した上で、パーティ同士で交渉するのが一般的だった。つまり被害者が加害者に受けた損害の代わりとして金を請求することで手打ちにするのだ。

とは言え和解といっても、相手への賠償金の支払いがあるうえに、相応の罰金をギルドにも払う必要があった。

それが出来なければ冒険者資格をはく奪されたうえで奴隷に落とされ、その売上金で賠償金を補填するという厳しい処分が下される事になる。

レベルの上がった冒険者が奴隷として斡旋される場所など大抵がまともな場所ではないので半ば死刑宣告に近い処分といえた。

また交渉が決裂した段階で、なすりつけた側は犯罪者として官憲に通報されて捕まり、結果として全てを失う犯罪奴隷となる事になる。待っているのは通常の奴隷よりもさらに希望などない未来だ。

つまり実質的には和解しか道はないといえる。

「事実関係の確認のために今日にも調査隊が出るかもね。アレンも志願したら?」

「熱烈な信者がいるからそいつらに任せるわ。報酬もたいしてうまくないし」

覗き込むようにして楽しげに聞いてきたマチルダに、首を横に振ってアレンはすげなくそれを断った。

そのアレンの反応が想像通りだったのか、マチルダが少しだけくすくすと笑いを漏らす。

「というか、あいつらなら自分で帰ってくるだろ。一応金級の期待の星なんだし」

「信頼してるわね。さてと、おしゃべりはこのくらいにしてアレンは今日の分の報酬の受け取りで良いのよね?」

「おう、頼む」

「了解」

軽くウインクして依頼の処理を始めたマチルダの姿にふっ、とアレンは笑みを浮かべ、そして視線を戻して元気に妄言を吐き出している大柄の男へと向けた。明らかに事実とは異なる事を言い続ける男の姿に、アレンが首を傾げる。

(なんでわざわざ自分の首をしめるような嘘をつくんだろうな。『ライオネル』が帰ってきたらすぐにバレるだろうに……んっ、ああ。帰ってこないと思って欲が出たわけか)

大柄の男が嘘をつく理由を考えていたアレンだったが、その途中で思い当たる事があった。

現場を見ていたアレンだからよくわかる。一面のブルファングに包囲されたあの状況で生還するなどありえないと、大柄の男は考えているのだろうと。

そういえば9階層でもそんな事を言っていたような気がするなとアレンはその時聞いた会話を思い出していた。

大柄の男はブルファングをなすりつけたパーティである『ライオネル』に罪までなすりつけ、『ライオネル』が地上に残しているであろう資産を合法的に奪おうと計画したのだとアレンは予想した。

片方が全員死んでしまっていれば、死人に口無し。ダンジョン内で証拠が見つかる可能性は低いし、やりたい放題とは言わないが確かに金を手に入れることの出来る可能性は高い。

(うっわ、ゲスだな。いっそのこと聞いたこと全部暴露してやろうか)

周囲の反応が悪くても主張を繰り返すその行為が、そういった考えに基づいているとすればアレンも納得できた。そしてどこかその男に余裕が感じられるその訳も。

「アレン、報酬の用意が……すごい顔してるわよ。どうしたの?」

「あー、まあちょっとな」

アレンの依頼の処理が終わったマチルダが、アレンの渋い顔に目を見開いて驚く。そのことで我に返ったアレンは大きく息を吐いて首をぶるぶると振ると、マチルダが差し出していた報酬の3万ゼニーを受け取った。

そしてその報酬を受け取ると同時にマチルダの耳へとアレンが顔を寄せる。

「マチルダ。俺、9階層で薬草採取している時にあいつらのパーティが言い争っているのを聞いたんだ。今の主張とはまるっきり反対のことをな」

「それって!」

「とりあえず今はそれだけ伝えとく。『ライオネル』が帰ってきたらあいつらが話すだろうから、そうしたらこの話は忘れてくれ」

それだけ言い残し、アレンがひらひらとマチルダに手を振ってギルドの出口へと向かって歩いていく。

出て行く直前、未だに主張を続ける大柄の男に少々鋭い視線をなげかけ、そしてアレンがギルドの出入り口のドアを開けようとしたその時、目の前の扉が急に内側へと開きアレンへと迫った。

「うおおおっ!」

アレンが再び抱えた料理の材料を守りつつ、必死にドアを避ける。風を感じるほどギリギリで避けたアレンが安堵の息を吐き、そしてその相手へと文句を言おうとして口をつぐんだ。

そこにいたのはライオネル本人だった。

アレンとライオネルが至近距離で視線を合わせる。

ライオネルの顔が徐々に渋くなっていくのに比べ、アレンはニヤニヤと笑みを深めていった。

「よう、ライオネル。お前、そこの冒険者にブルファングけしかけたんだって?」

「あっ? 半端者がなにを言ってやが……てめえ!!」

からかうような口調でそう言ったアレンに文句を返そうとしたライオネルだったが、アレンが指差した先にいた大柄の男を見て、突然走り出した。

死んだはずの人物が目の前にいるのが信じられないのか、驚愕の表情のまま固まっていたその男の頬にライオネルの拳が当たり、鈍い音を響かせながら大柄の男は吹き飛んでいった。

ライオネルの登場にワッとギルド内が沸き、次々と冒険者たちがライオネルへと声をかけていく様子を眺め、アレンが頬を緩める。

そして出入り口で取り残されていた『ライオネル』のメンバー4人にアレンは向き直った。

「よっ、お疲れ。なんか大変な事があったみたいだな」

「アレン……」

「ギルドで起きてた事の事情はその辺の奴に聞いてくれ。あと、いらないと思うがお前たちの事情について、俺が証言できることがある。詳しくはマチルダに聞いてくれ」

それだけを言い、アレンは4人の肩を叩いてその間をすり抜けてギルドを出ていく。

『ライオネル』のメンバー4人はその後姿をなんとも言えない表情で見送ったのだった。