軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話 アレン自身の出来ること

オルランドを鋭い目で睨みつけながらも、アレンは反論を口にする事が出来なかった。そのことを自分の威圧が効いているからだと勘違いし、まだまだ自分も捨てたものではないなと少しだけ得意げにしながらオルランドはアレンから視線を外す。

ギルドの職員のみならず、掲示板付近にいた冒険者たちからも注目が集まっている事を確認し、オルランドは声をあげる。

「既に領主様は兵士を派遣され、周辺のギルドだけでなく国にも救援を依頼してある。まだ確実ではないが付近にオリハルコン級の冒険者が来ているという情報もある」

オリハルコン級という言葉に、冒険者たちが大きくざわめく。上級の冒険者は化け物ぞろいだと誰もが知っているが、その中でも最上位に位置するオリハルコン級の規格外さは吟遊詩人の語り草になるほどなのだ。

もしかしたらなんとかなるかもしれない。そんな意識が皆に芽生え始める。

「ライラックの冒険者諸君。我々はこの地に生きる者として、胸を張って戦い抜こうではないか。実際に諸君らが戦う事はないだろうが、この戦いはいつしか歌となり、世界へと轟くだろう。その登場人物の1人となり、いつか物語を聞きながら美酒に酔いたい者はいないのか!?」

だんっ、と大きな足音を立てて一歩踏み出し、手を広げながらそう言い放ったオルランドの姿に一瞬沈黙が広がる。そしてその直後……

「「「おー!!」」」

まるで熱に浮かされたように数人の冒険者たちが雄たけびを上げながら参加を表明し、そしてそれに引きずられるようにして他の参加者たちも次々と支援要員の緊急依頼への参加を決めていく。

ギルド職員の一部、特に若い職員などは感銘を受けたかのような顔でその受付業務を行っており、ギルドはにわかに活気付き始めていた。

その変化に満足したオルランドが視線をアレンへと戻す。

「前のスタンピードを経験したお前なら、ギルドが果たすべき役割を十分にわかっているだろう。冒険者経験がある職員は貴重だ。立派な調整役としてこれからもここで頑張ってくれ。私自身、そう長くはここにいられないだろうからな」

アレンにだけ聞こえるような小さな声でそう言って、オルランドがポンとアレンの肩を叩く。その言葉と一瞬だけオルランドが見せた憂いを帯びた顔に、アレンは既にオルランドが自らの死を覚悟している事を理解した。

その姿はいつものニタニタと笑いながら業務を振ってくる嫌なギルド長ではなく、冒険者時代の活躍を物語として聞いた疾風のオルランドの姿と重なった。

アレンがもしレベルダウンの罠を使用せず以前のままのステータスであれば、周囲にいる冒険者や職員と同じようにその言葉に同意したのかもしれない。

弟のエリックのことを心配しつつも直接助ける力などなく、その生存確率を少しでも上げるために奔走したのかもしれない。

だが…………もうアレンは力を手に入れていたのだ。

アレンはオルランドに小さく微笑み返し、そして自らの胸にはめられた冒険者ギルドの職員の証であるバッチを外してオルランドの手へと置いた。「今まで世話になった」という言葉をかけて、驚いた表情で固まるオルランドの横を通り過ぎ、アレンはマチルダのもとへと向かう。

アレンのその姿を見たマチルダは泣きそうな顔で首を横に振ったが、アレンが目の前に立って動かない事を察すると、ぎこちなく笑顔を作りながら口を開いた。

「冒険者ギルドへようこそ。ご用件はなんでしょうか?」

「冒険者の登録をしたい。名前はアレンだ」

「アレン様ですね。冒険者ギルドに関する説明は必要でしょうか?」

「不要だ」

アレンとマチルダのやりとりを周囲が見つめる。それは冒険者になる時にギルドの職員と新たな冒険者が交わす定型の言葉。かつてアレンが経験し、幾度となくマチルダが様々な冒険者たちに贈った言葉。

「試験を受ければ銅級からの登録も可能ですが、どうされますか?」

「木級で構わない」

「わかりました。では後日冒険者の証であるギルド証を交付いたしますので受取りに来てください。ようこそ、冒険者ギルドへ。私たちはあなたを歓迎します」

短いそんなやり取りが終わり、2人の間に沈黙が落ちる。それ以上の言葉を2人は交わさなかった。しかし確かに2人の間では何かが通じ合っていた。

今にも泣きそうな顔をしながらも、なんとか笑顔を保ち続けているマチルダに、アレンが優しく微笑む。

「悪いな、マチルダ。やっぱ俺、エリックを放っておけねえわ。これまでありがとな」

そう言ってアレンはマチルダへと背を向けて歩き始めた。職員になってからは使うことのなかったギルドの正面入り口を目指して。その後姿をマチルダは滲む視界の中で見つめ続け、そしてその姿が消えたところでその瞳から涙が零れ落ちていく。

「知ってたわよ、そんなこと。ずっと見てたんだから……」

そんなマチルダの声はアレンに届く事はなく、冒険者たちを受け付ける雑音に紛れて消えていったのだった。

ギルドを出たアレンは自宅へと急いで帰ると、地下室へと向かいマジックバッグに必要なものを全て詰めて、それを愛用のリュックへと入れてドラゴンダンジョンへ向かうのに最も近い東門へと向かった。

そして走ること数分、東門へとたどり着いたアレンが見たのは厳重に閉鎖された出入り口とそこを固める大勢の兵士の姿だった。

「ちっ!」

その事に舌打ちしながらアレンが方向を切り替える。さすがにここまで早く東門が封鎖されるとはアレンも思っていなかったのだ。一瞬、別の門へと向かうべきかと考えたアレンだったが、即座にその考えを否定する。

確かに他の門は封鎖されていない可能性は高い。しかしそこはスタンピードの噂を聞きつけ街から逃げようとする者でごったがえしているだろうことはアレンにも容易に想像がついた。

「ギルド証を見せれば……そういや交付は後日だったな。しかも依頼も受けてねえし」

そう言いながらアレンが周囲を見回す。既に門付近は厳戒態勢が敷かれており、避難もすすんでいるせいか人気はほとんどなかった。アレンは即座に決断を下し、わき道へと入り込んでしばらく進む。

そして奥まった路地の一角にあった人家の物置の扉を躊躇なく破壊すると、その中へと姿を消す。

しばらくしてそこから出てきたのはネラの格好をしたアレンだった。アレンは小さく息を吐き、そしてマジックバッグからいくらかの金貨をその物置の壊れた扉の下へと置くと即座に走り始めた。

そして東門へと向かったアレンは、警告を発しながら止めようとする兵士たちを無視して大きくジャンプをし、ライラックの防壁を飛び越える。兵士達はその後姿を唖然としながら眺める事しか出来なかった。

ドラゴンダンジョンはライラックの街の東に位置するダンジョンであり、東門から普通に歩いて2時間程度の場所にある。その入り口は巨大な一枚岩にあり、まるで獲物を飲み込むドラゴンの口を表現しているかのような形になっていた。

現在その入り口を囲むように兵士たちや魔法使いたちによって土が盛られ、着々と陣地が築かれ始めていた。ここにいる兵士はまだまだ経験の浅い者が多く、いつ出入り口からドラゴンが出てくるのかとびくびくしている者も少なくなかった。

しかしそれでも動きを止めないのは、ここが最終防衛ラインになるとわかっており、そしてなにより自分たちの仲間が中で足止めをしてくれていると知っているからだった。

「入り口が封鎖できたら良かったんだけどな」

「ダンジョンに吸収されるだけだぞ。無駄口叩いてないでさっさと手を動かせ。先輩達は今も命がけで戦ってるんだ」

「ああ」

そんな会話を交わしながら懸命に陣地を形成していく2人の兵士に砂埃と共に突風が襲い掛かる。突然の出来事にきょろきょろと警戒し、辺りを見回した2人だったがそこには何もなく、砂埃が落ち着いたところで作業へと戻っていった。

それは魔法でその姿を隠しながら、普通の兵士には認識できないほどの速度で通り過ぎていったアレンの残滓だった。