軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話 風雲急を告げる

スライムダンジョンからレベルアップ予約者をライラックの街へと連れて帰ったアレンは、ギルドへと続く大通りを機嫌良く歩いていた。

朝ということもあり本格的な店の呼び込みなどはないものの、いつもよりなぜか活気に満ちた人々のやりとりをアレンが笑顔で眺めている。

普段であれば、深夜のスライム潰しという面倒でつまらない仕事の後であるため不機嫌というわけではないが、どちらかと言えば気だるげなことが多いのだが今日は違った。

その訳はアレンの腰に吊られた愛剣のせいである。

長年共に戦ってきたからこそというべきか、それともアレンの思い込みかはわからないが、修復したアレンの愛剣がそこにあることがとてもしっくりときていたのだ。

今まで試作で打った剣を吊ったときには感じた事のない感覚に、アレンの頬は緩みっぱなしだった。

「あー、なんかこいつと冒険したくなってきたな」

愛剣の鞘を撫でながらそんなことをアレンが呟く。本人は気づいていないが、その後ろをたまたま歩いていた人がそれを聞き、少し顔を引きつらせながらすっと進路を変えた。

朝っぱらからそんな事を言って街中の大通りで鞘をさすっている者など不審者極まりないため仕方がない。通報されなかっただけマシである。

ギルドへと続く道を歩きながらアレンの妄想は続いていく。愛剣と冒険をするのならどのダンジョンが良いかというものだ。

「順当に行けばライラックのダンジョンなんだが、せっかくなら頂点に挑みたいって気もするよな」

スライムダンジョンは論外として、何度も攻略してしまった鬼人のダンジョンもすでにアレンにとっては冒険の範疇には入っていなかった。

どちらかと言えば今は魔法などの訓練場というイメージなのだ。

冒険となると、40階層で足止めになっているライラックのダンジョンの深層に行くというのが順当だとアレンは考えた。

今の実力であれば40階層まで行く事は可能だし、さらに前人未到の41階層以降に行く事も不可能ではないんじゃないかと考えたのだ。

しかし一方で、ライラック周辺にある4つのダンジョンの最後の1つ、冒険者たちが最後に行きつくダンジョンと呼ばれる場所にも行ってみたいとも思っていた。

「でもなー、あそこは入場制限がかかってるんだよな。確か個人ランクが金級以上のみだったか? 冒険者でもないネラじゃあ入れねえしなぁ」

そんなことを言いながらアレンがため息を吐く。妄想であるため意味はないはずなのだが、その表情は本気で残念がっているように見えた。

実際、そのダンジョンに行くというのはライラックの冒険者にとっては一種の夢であり、そこに未だアレンも引きずられている部分もあるのかもしれなかった。

冒険者のランクは、木級から始まり、銅級、鉄級、銀級、金級、ミスリル級、そして最高位であるオリハルコン級に分けられているのだが、冒険者の約8割が鉄級以下のランクなのだ。

ちなみに冒険者時代のアレンのランクは鉄級であり、その上位の実力だった。つまり冒険者の中ではなかなかの実力者だったのだ。あくまで一般の冒険者の中ではとの注釈がつくのだが。

残りの2割、いや金級以上ともなれば冒険者の1割以下の者しか入場すらできないということからもそのダンジョンの特異さが伝わるだろう。

それなりの実力がなければ、ただ死ぬだけだということで唯一入場制限がかかっているそのダンジョンの名は、ドラゴンダンジョン。

出現するモンスターがドラゴン系のモンスターのみであるという凶悪すぎるダンジョンだった。

妄想が一段落したところで冒険者ギルドへと到着したアレンは、職員用の裏口から中へと入りスライムの魔石を通りかかった職員へと渡し、さっさと帰ろうとした。

「んっ?」

しかしギルド内の雰囲気がいつもと少し違う事に気づき足を止める。

開門からしばらく時間が経ったこの時間であれば冒険者達は既に依頼を受け終わっており、ギルド内にいるとすればパーティが休暇中で小遣い稼ぎに簡単な依頼を受けようとする者や事前の情報収集する者などその数は多くないはずなのだ。

しかし今、ギルドのホールには多くの冒険者の姿があり、掲示板の前で集まってせわしなく何かを話し合っていた。

「アレン!」

「おお、マチルダか。何かあったのか?」

「何か、じゃないわよ!」

珍しく焦りの表情を見せるマチルダの姿に、アレンも緊急事態が起きているのだと察して駆け寄る。そしてマチルダの机に広げられたその紙を見てアレンは顔を引きつらせた。

「スタンピードの兆候あり、だと? しかもドラゴンダンジョン? これは確かなのか?」

「嘘なら私達全員の首が飛ぶわね。ミスリル級パーティの『焔』の斥候が命からがら持ってきた情報だし、その心配は必要ないわ。まあ命の保証がないという意味ではどちらにせよ同じだけれど」

「マジか。12年前の悪夢の再来じゃねえか」

アレンが愕然とした表情でそう呟く。

アレンの言う12年前の悪夢とは、ドラゴンダンジョンのスタンピードによりライラックの街が壊滅的な被害を受けた出来事である。

幸いにも街中の被害はそこまでではなかったのだが、街を守る防壁の一部が崩れ、冒険者や兵士に多くの犠牲者が出た痛ましい事件だ。

その事件の結果として兵士の大量募集があり、弟のエリックが兵士になることが出来たという良い事もあったのだが、その一方知り合いの冒険者が死んでしまったり、厚遇で雇われていた勇者の卵のパーティとの縁が切れてしまい貧乏生活に逆戻りになったりとアレンにとっても苦々しい記憶の残る事件だった。

「現状は『焔』を中心に、上位の冒険者が食い止めているようだけれど……」

「スタンピードはどんどん敵が強くなるから、どこまで時間を稼げるかってことだな」

「ええ。だから支援要員の緊急依頼をかけてる最中よ。逃げ出さずに受けてくれる冒険者がどれだけいるかはわからないけれど。既にギルド長が領主様に伝えて、入場制限の解除と兵士の派遣を依頼したらしいわ」

「一匹でも外に出たらまずいからな。領主様も兵士を……兵士が派遣されるのか!?」

突然のアレンの大声に驚いて声を出せず、なんとか首を縦に振ったマチルダの答えにアレンが顔をしかめる。

スタンピードが起きてしまい、その結果ドラゴンが外へと出てしまうことになれば街へと被害が及ぶのは明らかだ。

だからなんとしてでもダンジョン内でそれを止めようと考えるのはアレンにも理解できる。出入り口が限られているダンジョン内の方がはるかに戦いやすいからだ。

しかし理解できているからといって、兵士が派遣されるという事実はアレンには受け入れがたかった。

ドラゴンと戦うともなれば兵士の中でも実力者ばかりが選ばれるはずだ。そうでなければいたずらに被害が増すだけなのだから。

ギルドが緊急依頼で支援要員を募集しているのもそういった理由からだ。実力のない者を戦わせても死ぬだけであり、むしろ邪魔になる可能性さえあるのだから。

ドラゴンと戦う事の出来る実力のある兵士など多くはない。そしてその中には確実に……

「エリック!」

アレンの弟のエリックがいるはずだった。

アレンはいてもたってもいられず、その名を呼んだ次の瞬間、ギルドの裏口へと走り出そうとした。手を伸ばして止めようとするマチルダの姿を認識していたが、アレンの意識はすでにそこにはなかった。

「どこへ行こうというのかね?」

圧倒的な威圧感と共にかけられたその言葉に、アレンがその足を止め視線をそちらへと向ける。階段をゆっくりと、そのぶよぶよと太った体を揺らしながら降りてきたのは……

「ギルド長」

「もう一度聞こう。ギルドが一丸となって対応すべきこの非常事態に、どこへ行こうというのかね?」

このライラックの冒険者ギルドを取りまとめるギルド長、元ミスリル級冒険者のオルランドだった。