軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第23話 ドラゴンダンジョンの情報

ライラックの中心にある貴族街の外縁。自由騎士となったネラの屋敷の隣に位置する、比較的新しく綺麗な屋敷をアレンは訪れていた。

そこはアレンの弟であり、今はライラックの騎士として働いているエリックの屋敷だ。

ネラの屋敷とほぼ同じ造りをしたその屋敷の応接室でアレンはエリックと向かい合わせで座っていた。

「珍しく兄貴が尋ねてきたと思ったからなにかと思ったけど、そういうことか?」

「おう。エリックはドラゴンダンジョンの警備についているんだろ。異常を感じたりとかはなかったか?」

そのアレンの問いにエリックは腕を組んで考え始める。

ライオネルたちがレベルダウンとレベルアップの罠を使用して高ステータスを得たことにより、ドラゴンダンジョンが再びスタンピードを起こすのではないかとアレンは考えた。

ただあくまでそれは推測であり、その参考になる情報はないかと、普段からドラゴンダンジョンの警備を行っているエリックに聞きに来たのだ。

休みが不定期なエリックのことを考えて事前に面会の予約をしておいたせいか、二人の座るソファーの前にあるテーブルには紅茶とお茶請けのマフィンなどの茶請けが用意されている。

それを準備してくれたエリックの妻のジュリアは、二人が気兼ねなく話せるようにという理由もあり別室で休んでいた。

マフィンを口に運び、その香ばしい匂いと優しい甘さに頬を緩めるアレンの前で、エリックが視線を上げる。

「異常はないと思う。そういった報告は冒険者から受けていないし、俺が見回った限りでも変わりはない。探索する冒険者の入れ替わりはあるけど、それはいつもどおりだし」

「とりあえず一安心ってところか」

はぁ、と息を吐いてアレンが胸を撫で下ろす。

前回と同程度のスタンピードであればアレン一人でも対処は可能だ。ライオネルたちに協力を頼めばより安全度は増すだろう。

だが前回はアレン一人に対してだったが、今回ライオネルたちは五人いるのだ。スタンピードの原因と思われるエンシェントドラゴンのミズチがどう考えるか。それはアレンにもわからなかった。

「とりあえず明日からネラがドラゴンダンジョンの探索に入る。なにかあったら報告するから頼むな」

「了解。でも兄貴。なんでもかんでも自分だけでやろうとするなよ。悪い癖だぞ」

「だからこうして聞きに来ただろ」

肩をすくめるアレンの様子に、エリックが渋い顔をする。

以前のドラゴンダンジョンのスタンピード時にネラに助けてもらい、その正体がアレンだとエリックは知っている。

だからエリックは自分が心配するのはおこがましいほどのステータスをアレンが持っていると知っている。だがそれでもアレンの気質を理解しているからこそ、そう言わずにはいられなかった。

「それはそうと、ジュリアさんの妊娠おめでとう。知らせてくれればよかったのに」

「貴族家では生まれてから知らせるのが普通らしい。俺もよく知らないんだが、ジュリアがそう言っていたよ」

「へー」

あからさまなアレンの話題転換に、渋い顔を崩して苦笑を浮かべながらエリックが答える。

先ほど玄関で迎えてくれたジュリアのお腹はぽっこりと膨れており、アレンの経験から考えて妊娠六か月といったところだった。

「だからメイドも雇ったのか」

「ああ。ジュリアの実家の男爵家に紹介してもらったんだ。ジュリアの乳母だった人で経験も豊富だからとても助かっているよ。まあ俺に対してはちょっと小言が多いけど」

「まあ、お嬢様を奪った憎き男だからな」

「違いない」

ジュリアの後ろに控えていた四十くらいの恰幅の良いメイドの姿をアレンは思い出す。

自分の屋敷にいるルトリシアやコルネリアと比べて、どこか大らかな感じのするメイドだったが、身内を迎えるというよりはお客としてアレンを扱っていた。

乳母ということであればジュリアに対する愛情は深いだろうし、今は貴族に戻ったとはいえ一時的に平民に身分を落とす一因となったエリックに対するメイドの思いは複雑なのだろうとアレンは推測した。

「引き続き頑張ってくれ」

「ああ」

それからしばらく近況の報告や、子どもが産まれたときの気構えや用意しておいたほうがいい物などを二人は話し、二時間ほどしたところで自然に話が止まる。

すでに用意された茶菓子も紅茶も空になっている。せっかくのエリックの休みをこれ以上奪ってしまうのはどうかと考えたアレンはそろそろお暇しようかと考えていたのだが……

「なあエリック。お前、騎士か家族か選ぶならどちらを選ぶ?」

「唐突にどうした、兄貴?」

「いいから。いざという時にどっちを優先するって話だ。どっちだ?」

その意図を理解できないながらも、エリックはアレンの真剣な表情から重要なことだろうと察し深く考え始める。

これまでエリックは兵士として真面目に勤め続け、功績を評価されて騎士にまでなることができた。

今の騎士という立場はエリックにとってこれまでの自分の努力の結晶であり誇りだ。しかし……

「俺は家族を選ぶよ。ジュリアとこれから生まれてくる子どものために俺は生きる。その大切さを俺は兄貴から学んだからな」

「そうか」

真っ直ぐにアレンを見つめ、迷いなくそう答えたエリックの言葉に、アレンが嬉しそうに頬を緩める。

そしてちょいちょいと手で招いてエリックに顔を寄せるように伝えた。

「俺が強くなった方法をお前に教える。ただこの方法を広めるのは危険なんだ」

「つまり領主様にも秘密にしろと?」

「ああ。大切な家族のためにもな。それと俺がもしこの街を離れている間にスタンピードが起きたときに対応できる人材を残しておきたい。いざというときに逃げるにも役に立つしな」

その言葉にエリックはしばらく悩み、そして最後にはアレンの申し出を受けることに決めたのだった。

その翌日、アレンはドラゴンダンジョンに戻る予定のエリックを早い時間に連れ出してスライムダンジョンに案内し、隠し通路の場所とそこにあるレベルダウンの罠を利用して強くなる方法を伝えた。

いきなり全てのステータスが十上がったエリックは呆然としていたが、アレンの言っていた言葉の意味を改めて理解すると、決して誰にも話さないと改めてアレンに誓った。

エリックは自分の勤務の予定に合わせて、冒険者ギルドでスライムダンジョンのレベルアップの罠の利用を予約すると、どこか決意を秘めた表情でドラゴンダンジョンに向かっていった。

いつの間にか大きくなったそのエリックの背中を、アレンは嬉しそうにしばらくの間見送り続けた。

その後、アレンはネラの姿でライラックの街を出るとドラゴンダンジョンに向かい、半円状に造られた砦を通ってその中に入った。

エリックの姿を見かけなかったことを少し残念に思いながら、通路の先にあるドラゴンダンジョンの一階層に足を踏み入れたアレンがぐるりと周囲を見回す。

ドラゴンダンジョンの一階層は森のフィールドだ。罠はほとんどないが、出てくるモンスターは最低でもワイバーンなどの強力なモンスターばかりである。

(ここに来るのも久しぶりだな)

アレンが前回ドラゴンダンジョンにやってきたのは、イセリアに冒険者の心得を教えている頃であり、そのころアレンは結婚すらしていなかった。

三年以上ぶりのドラゴンダンジョンはそのころと変わらず冒険者の姿などほとんど見えず、上空にワイバーンが数頭優雅に羽ばたいていた。

(とりあえず五階層まで行って様子を見るか。そこまでなら大体覚えているし)

軽く体をほぐしたアレンは、くるりとステッキを回すと走り始める。その速度はライラックのダンジョンを探索していたときよりもはるかに早い。

(たしか八十一階層から竜の谷があるって話だが、さすがにそこまで行く必要はないよな? ひとまず日帰りできる程度で探索していくか)

そんなことを考えながら、アレンは襲いかかってくるワイバーンなどを一突きで倒しながら進んでいったのだった。