軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 イセリアが得たもの

いつも通りにスライムダンジョンのレベルアップの罠がある場所へと、アレンは罠の予約者たちを連れていった。

最初は何も無いただのダンジョンの一角だったその場所には、待ち時間が多少でも快適にそして安全に過ごせるようにと簡易的な小屋が建てられている。そしてその小屋の近くには娯楽品や食料、そして酒まで販売する露店が1軒だけだが出ていた。

露天商がやってきた最初の頃はこんな人数も限られた場所に出して本当に商売になるのか? と疑問だったアレンだが、その考えが間違っているのを証明するかのように今日も露天商の男が小屋へと入っていく予約者たちに声をかけている。

確かに予約者を連れてきた後のスライム潰しのお仕事をしている最中に通りかかり、露店で何かを購入する予約者をアレンはしばしば見ていた。

はっきり言って待ち時間は暇でしかないのでそれも当然か、と最近はアレンも考えるようになり、そしてそんな予測を最初からし、商売に繋げるなんてやっぱ商人って俺たちとは根本的な考え方が違うんだなと露天商を見直していた。

罠の監視役のギルド職員に予約者たちを引き継ぎ、アレンはスライム潰しを開始する。基本的にダンジョン内を歩き回り、スライムを見つけたらただ踏み潰すだけの簡単な仕事だ。

アレンにとってノルマであるスライムの魔石200個など本気になれば簡単に集まる数であるし、レベルアップの際に集めた魔石を使えば数日サボったところで問題は無いのだが、アレンは真面目にスライムを踏み潰していた。

心の中でマチルダの言葉を反芻しながら。

(国の上層部に目をつけられている、ね)

ネラとしてイセリアに聞いた「底なし沼」という言葉がアレンの頭をよぎる。もしマチルダの予想が正しいのであれば、確かに底なし沼だな、とアレンは苦笑した。

ただの平民で、並みの冒険者だったアレンにとって、国の上層部、王侯貴族は雲の上の存在だ。貴族というくくりで見れば弟のエリックの件で多少知っていると言えなくもないが、エリックの妻であるジュリアンは男爵家の令嬢だ。

男爵は貴族の中で下から3番目、国の上層部などとは全く言えない末端の貴族である。

(男爵家ですら俺の理解の範疇外なんだぞ。勘弁してくれ)

エリックのごたごたが起こった当時、なんとか助力できないかと色々と手を尽くしたアレンだったが、その結果わかったのは貴族という生き物が平民とは全く違う考え方をしているんだということだった。その行動がアレンには完全に理解不能だったのだ。

誰に向けられたわけでもないそんなクレームを思い浮かべながら、アレンはスライムを踏み潰し、せっせと魔石を拾い集める。

マチルダにその話を聞いてからアレンは2つの予測を立てていた。

可能性が高いのは、イセリアを無理矢理レベル999にした奴らが国の上層部であり、今もなおイセリアに目をつけているというものだ。この場合、イセリアと関われば悪い方向へと向かってしまうだろうことはアレンにも簡単に予想がついた。

その悪い方向がどの程度なのかは皆目見当がつかなかったが、イセリアの今の状況に鑑みればろくな目にあう事はないだろうとはわかっていた。

もう1つの可能性、アレンとしてはこちらの方が望ましいと思っているのだが、イセリアのおじい様が冒険者としての活動を邪魔するように手を回しているというものだ。

イセリアへの贈り物から考えれば相当な人物である事は間違いないため、可能性は0ではないとアレンは考えていた。

(とは言え、もうがっつり関わっちまったんだよな。ネラとしてってのが、救いと言えば救いなんだが)

スライムを踏み潰しながらダンジョンを進み、そして最奥のボス部屋へと続く通路から一本それた道へとアレンは入っていく。何も無い突き当りまでたどり着き、アレンは背負っていたリュックからマジックバッグを取り出し、そしてその中に入っていたクラウンの衣装へと着替えていく。

「まあ、仕方ねえな。取引を持ちかけたのは俺だし、魔法書を借りたおかげで新しい魔法も使えるようになったんだから、こっちも対価はしっかりと払わねえと」

自分自身に言い聞かせるようにそんな事を呟き、そしてアレンはネラの姿で来た道を戻っていった。そしてボス部屋へと続く道を再び歩き始め、しばらくしてダンジョンの最奥、ボス部屋へとたどり着いた。

そこにはスライムダンジョンのボスであるヒュージスライムの姿はなかった。もちろんアレンの目的はそちらではないので特に反応もせず、そのまま巧妙に隠された隠し扉へと向かいそれを開けると、そのまま奥へと向かって歩いていく。

「あっ、ネラ様でしたか」

人の気配を察したのか、剣を構えて待ち受けていたイセリアがアレンの姿を認め、ふぅ、と安堵の息を吐く。そして手に持っていた剣を丁寧に鞘へとおさめ、床に置いた。

「頑張ってるか?」

「はい。とは言っても基本的には待っているだけなんですけれどね」

「待ってる時間が辛いだろ。することもないし」

アレンの言葉に、イセリアが苦笑して返す。それは言外に大当たりと言っているようなものだった。

「あっ、そろそろ時間ですね」

そんな事を言いながらイセリアは慣れた様子で部屋の中央へと歩いていき、そこにあったレベルダウンの罠が発動し魔法陣が現れる。アレンには何も聞こえてはこないが、イセリアの頭の中ではレベルがダウンした証拠である音が鳴っていた。

イセリアにとっては福音に聞こえるその音が。

アレンが提案した取引は、今のイセリアの姿を見ればわかるとおりレベルダウンの罠を使用して強制的に上げられてしまったレベルを1に戻すというものだった。イセリアの願いを叶えるためには最大まで上がってしまったレベルというのは邪魔でしかないからだ。

「順調そうだな。今は何レベルくらいなんだ」

「えっとさっきので……30レベルになりましたね」

「はっ、30? まだ5日目だぞ」

アレンが仮面の下で目を見開く。アレンがイセリアと取引をし、レベルダウンの罠があるこの隠し部屋を教えたのが5日前。その時点のレベルは999であったことは間違いない。

そこから考えると1日あたり200レベル以上落としていることになるのだ。毎回欠かさずレベルダウンの罠を発動させたとしても、再設置までのクールタイムが3分あるため最低10時間、微妙なラグの積み重ねなどを考えるともっと多くの時間を費やさなければそれは達成できない数値だった。

「門の閉鎖する時間もあるのにどうやって……」

そこまで言葉に出して、そして部屋の片隅に敷かれた毛布などを発見したアレンは理解した。イセリアはこの5日間一度も街へと帰らず、ずっとここに泊り込んでいたのだと。

アレンの視線で何を見ているのか察したのか、イセリアの顔が赤く染まる。特に乱れているという訳でもないし、冒険者であれば当たり前の光景とも言えるのだが、イセリアにとって自分の寝ている場所を見られるという経験はあまりなく、なんとなく気恥ずかしかったのだ。

「ええっと、あまり見ないでください」

「おっ、おお。悪い」

視線を逸らされながらそんな事を言われ、ぐりんと音が鳴りそうな勢いでアレンが顔をそむけた。いけないことをしてしまったような気持ちになり、ドキドキと心臓が胸打つのを感じながらアレンは話題を逸らすべく口を開いた。

「じゃあ今日中に第一段階は終わりそうだな」

「はい。とは言え流石に少し疲れたので明日は宿でゆっくりしたいと思います。夜の見回りのギルド職員の方がいらっしゃいますので、今日はここに泊まるしかないですし」

「お疲れ様。じゃあ俺は行く。明後日会おう」

そう言ってアレンは背を向けて歩き出した。

「ありがとうございました」

背中ごしに聞こえたそんな言葉に振り返らずに片手を上げて応え、少しだけその表情をやわらかくしながら。