軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話 取引の対価

「ふふっ、ついに完成だな。いやー、つい細部にこだわっちまったせいでもっと時間がかかるかもとか思ってたが、地下室を作るのが大幅に短縮できたおかげで予想より早く終わっちまったな」

満足げに部屋を見回しながらアレンが独り言を呟く。つい先日までの隙間風が吹き込むほどボロかったその部屋は、様子を一変させていた。

いつも片隅ばかりにゴミのたまっていた床は、均等にそして水平に並んだ床板が敷き詰められている。雨漏りはしょっちゅうで、隙間風の入っていた壁や天井は一新されただけではなく、木目を生かし、落ち着く空間を醸し出している。

飛び込もうものなら壊れてしまうのではないかというほどミシミシと音を立てていたベッドを始め、使っていた家具の多くが新品の頑丈そうなものに変わっていた。

外見は大雑把な補修をしただけなので、まるで新築のような内部の様子を知っている者はアレンしかいない。まあそうなるようにアレンが構想を練って建築計画を立てたのだから当たり前なのかもしれないが。

とは言え、全てが全て新しいわけではなく、いくつもの傷が刻まれた柱など以前の姿を思い起こされる物は残されていた。

それはかけがえの無い大切な思い出のかけら。弟や妹がここに住んでいたことを示すそれらをアレンはわざと残したのだ。時間がかかったのはその選別にアレンが迷いに迷ったせいだとも言える。

歩いても凹んだりしない床をアレンは進み、そして部屋の隅、一見すると何も無いように見える床板に力をかける。するとその床板はカコッという音をたてて斜めに沈み込み、そしてその反対に盛り上がった床板をアレンが引っ張ってスライドさせた。

「おぉー、なんと言うか何度見ても良いもんだな」

床下に隠されていたのは地下へと続く階段だ。型取りして造ったのではないかと目を疑うほどに、でこぼこの無い均一な高さの階段をランプを持ったアレンが楽しそうに降りていく。

少し黒光りする木材で補強された、横幅1メートル程度の狭い階段をしばらく進み、アレンは開けた空間へとたどり着いた。

そこは高さ3メートル、横幅5メートル四方ほどの空間だ。その部屋の中央には壁を囲んでいるのと同じ黒光りする木材で作製された机と椅子が設置されている。

アレンはランプを壁際のフックへと引っ掛けると、椅子へとどかりと腰を下ろして部屋を見回す。

壁際に設置された棚には、ネラとしての変装衣装一式やオーガキングの討伐報酬などが無造作に置かれており、それと並んでボロボロのおもちゃや、同じくボロボロの本などが丁寧に並べられていた。

「ふぅ、流石に地下は暗い……あぁ、そういえばうってつけの魔法があったな。ライトサークル」

アレンがそう唱えると円形の光の輪が天井に現れ、そして真昼のような光を放ち始める。先ほどまでの薄明かりに照らされた地下室は確かに明るくなったのだが……

「まぶしすぎだな。とりあえず今のは破棄してっと。ライトサークル」

浮かんでいた円形の光が消え、そして今度は柔らかな光の輪が現れる。その出来に満足そうにうなずき、席を立ったアレンが壁際の棚から分厚い一冊の本を取り出す。

一目で金がかかっているとわかる重厚な表紙に手を滑らせ、そこに刻まれた言葉を目視する。

魔法大全、と書かれたその文字を。

「うん、大層な名前だと思ったがこれマジでヤバイ内容だよな。普通なら禁書扱いなんじゃねえか?」

そんな事を言いながらぺらぺらとアレンがその魔法大全をめくっていく。一度読んだだけで内容を全て記憶してしまったアレンだったが、これほどの魔法書を読む機会などもうないだろうことを考えるとなんとなくもったいなくて、何度も読み返していた。

魔法書が一般に出回る事はまずない。アレンも含めて冒険者の中には魔法を覚えている者も少なくないのだが、それは基本的に先達などから直接教えてもらって覚えたものであり、その先達も同じように教えてもらったということがほとんどなのだ。

そういった経緯もあり、普通の冒険者が扱える魔法のレベルは似たり寄ったりで程度が低いのが一般的だ。

中級以上の魔法が使える者は魔法研究を行う学園の卒業生であったり、まれに貴族の生まれだが何かしらの理由で冒険者になったというような特異な者しかいなかった。

当然その数は少なく、切り札ともなりえる威力の魔法を覚えるものは引っ張りだこであり、中級以上の魔法が使えれば冒険者として生活するのに困る事はないと言われるほどなのだ。

しかしこの魔法大全には中級どころか上級、本来であれば戦争時などに集団で使われる戦術級魔法まで記載されていたのだ。

そしてランク以外にも通常知られている、『火』、『水』、『風』、『地』という基礎魔法以外の『光』や『闇』といった特殊な魔法も記載されていた。

先ほどアレンが使ったライトサークルもその光魔法である。

ついでに言えばこの地下室の作成があり得ないほどの速さで終わったのも、魔法大全に書かれていた地属性魔法のおかげだった。

特に新しい発見も無く魔法大全をありえないほどの速さで読み終えたアレンがぐぐっと背伸びをする。

そして目の前の本をイセリアへと託したというおじい様って、かなりヤバイ奴なんじゃないかと考え、ぶるっと身震いした。

イセリアと行った取引において、アレンは魔法書を貸してもらう事を対価にした。一流の魔法使いが扱う、その精密で、時に圧倒的な魔法を使ってみたいという願望がアレンにあったからだ。

とは言えイセリアからちょうど魔法書の話が出たため、それに乗っかっただけというのが本当の理由だったのだが、その結果アレンはとんでもないものを借りる権利を得てしまったのだ。

魔法書の理論などを一読で理解してしまったアレンは、この魔法大全に書かれた魔法を全て扱う事が出来るようになってしまった。凄腕の魔法使いたちが集団で扱う戦術級魔法までも単独で行使可能なのだ。

はっきり言って歩く危険物である。まあステータスが全て5000を超えている段階でそうなのかもしれないが。

「魔法は覚えたけど、実戦の中で有効的に使えないと意味がないんだよな。まっ、これからしばらくダンジョンに潜ることになるし、そこで慣れるしかねえか」

魔法を覚えて使えるようになったが、まだ実戦において使ったことの無いアレンはそんなふうに気楽に考えて背もたれへと体重を預けた。

以前の椅子では折れてしまわないか心配でそんな事はできなかったのだが、ハンギングツリーの素材を使用して作った椅子がその程度ではびくともしない事は製作者であるアレン自身が誰よりもよく知っていた。

しばらく秘密の地下室の雰囲気を楽しんでいたアレンだったが、お腹が減ってきたために地下から出て昼食を食べ、そして少しだけ仮眠を取ってからマジックバッグに色々と詰めてから家を出た。

今日は夜のギルドの仕事がある日なのだ。いつも通りの装備を身につけてアレンは冒険者ギルドへと顔を出す。

「アレン」

「おう、マチルダ。そっちは少し落ち着いたか?」

声をかけてきたマチルダに、気さくにアレンが言葉を返す。

最近は勤務時間が微妙にすれ違っていたりしたことも関係して、こうして会ってちゃんと話すのも教会の修繕の依頼をアレンが受けたとき以来だった。

一時期はレベルアップの罠の使用に関する調整やごたごたなどによって目に隈が出来ていたマチルダだが、今は多少の疲れは見えるものの相応の美しさが戻ってきている。

マチルダが苦笑し、そしてアレンを手招きした。何か用事か、と思いながらアレンが近づいていくとマチルダは窓口から離れ、ギルドの奥の職員しか使わない通路へと向かい、そしてその後をアレンが何も聞かずに付いていった。

そしてギルド職員でもほぼ誰も来ない最奥の物置部屋へと2人は入る。

その時点でアレンはなにか厄介ごとだろうと予想していた。そうでなければこんな場所に来る必要などないのだから。

「で、どんな厄介ごとだ? この後仕事だからそこまで長い時間はとれないぞ」

「厄介ごとって……ある意味厄介ごとではあるんだけど、アレンが巻き込まれないように情報提供ってところね」

「そのくらいなら別にここまで……ってもしかしてその情報を知る事自体がヤバイやつって意味だよな」

こくりとうなずいたマチルダに、アレンが大げさに肩を落とす。本音で言えばそんな情報など聞きたくないアレンだったが、信頼するマチルダがそう判断したのであれば聞いた方が良いのは確実だと考え、視線を上げた。

マチルダが神妙な顔をし、その顔をアレンへと近づける。なんと言うかキスするみたいだなと現実逃避ぎみに考え、そして自分の考えに赤面するアレンにマチルダが囁いた。

「イセリアっていう最近この街に来た冒険者、知ってる?」

「……直接の面識はないが耳にしたことはあるな」

「微妙な沈黙が気になるわね」

じろりとした目で見つめられ、内心動揺しながらもアレンは首を横に振る。ネラではなくアレンとしては、イセリアと面識はないので確かに嘘じゃないよな、となぜか心の中で弁明しながら。

そんなアレンの気持ちが伝わったのか、マチルダが表情を真剣なものに戻した。

「冒険者とは思えないほど可愛い娘なんだけど、絶対に関わったら駄目よ」

「えっ?」

驚き、短く聞き返したアレンに、マチルダが表情を変えないまま告げた。

「その娘、たぶん国の上層部から目をつけられてるわ」