作品タイトル不明
第21話 検証
王族との会談という思わぬ試練があったものの、アレンはなんとかそれを無難にやりすごし無事にオリハルコンを献上することができた。
また冒険者ギルドに保管してあった『ライオネル』たちの取り分であるオリハルコンは、シャロリック王子ではなく近衛騎士が使いとしてやってきてつつがなくオリハルコンの献上は終わった。
その話を聞いたアレンはがっくりと肩を落とし、気の毒そうにライオネルたちが慰めるという一幕はあったが、アレンもここ最近の問題であったオリハルコンが手を離れたのはいいことだと気持ちを切り替えていた。
これまでもアレンの屋敷やライオネルの実家の商店の周辺をナヴィーンの計らいによって騎士が巡回してくれてはいたが、それでもネラのような実力を持った者がいれば意味などほとんどない。
家族へ危害が及ぶ可能性が低くなったことをアレンは純粋に喜んでいた。
とはいえライラックのダンジョンをネラと『ライオネル』の合同パーティである『ネラ』が攻略したという情報は街中どころか他領にまで広がっている。いちおうそのメンバーの中にはアレンも含まれているのだ。
『ネラ』にアレンが所属しているというのは、ギルド職員以外にはほとんど知られてはいないが。
ドゥラレでの経験もあり、街中でも絶対に安心とはいえないと考えたアレンは、保険として昔からの知り合いの冒険者を指名して屋敷の警備を依頼し、ライオネルにもそうするようにすすめた。
ライオネルは大げさだと言いながらも、真剣な様子を崩さないアレンに従うことにした。
そうして憂いをなくしたアレンたちは、やっとのことで本来の目的である対魔王のためのダンジョン攻略による有用なアイテム探しに戻ることができた。
ライラックのダンジョンの最短経路をネラの姿をしたアレンとライオネルたちが駆けていく。他の冒険者の邪魔にならない程度に抑えられてはいるものの、休むことなく下層を目指して進んでいるため、その速さは他を隔絶したものだった。
六人が通ったあとには、運悪く彼らと遭遇してしまったモンスターが切り捨てられた状態でぽつぽつと残されている。
それらは運よく見つけたほかの冒険者によって解体されるか、そのままダンジョンに吸収されるかして姿を消していく。
そしてアレンたちがライラックのダンジョンに入って二日目の遅く。最下層の手前、白い壁の通路が続く階層でアレンは青白い光に包まれながら呼吸を整えていた。
アレンの胸には前回ライラックのダンジョンを攻略したときに手に入れたネックレスが提げられており、それに視線を落としたアレンが小さく息を吐いて、すっと前を向く。
「『ファイヤーボール』」
通常であればその言葉とともに現れるはずの火球はどこにもその姿を見せない。その代わりにアレンの全身がぼんやりとした赤い光に包まれる。
アレンは手を軽く握って具合を確かめると、持っていたステッキをくるりと回す。するとその軌道をなぞるように炎が現れ、そして消えていった。
満足げにそれを眺めたアレンは、深く息を吐いてステッキを構える。そして白い壁に向けて目にも止まらぬ一撃を放った。
腹にまで響くような重い音が周囲で見ていたライオネルたちにまで届く。
ステッキを白い壁に突きたてた姿勢のままアレンは動かない。
その視線の先には傷どころか凹みすらしていない白い壁が悠然と立っていた。
「この見た目で魔法じゃないのか。ライ、そっちから見てどうだった?」
「アレンが動いた部分が炎で包まれているように見えた。だが壁は全く傷ついていなかった」
「そうか。とりあえず他の魔法も試していくぞ」
アレンは気を取り直し、次々と魔法を唱えてはその身を様々な光に包み検証を繰り返していく。
火、水、風、地、光、闇。
様々な属性をまとい動くその姿は、どこか観客を魅了する見世物であるかのように美しかった。
アレンの動きがゆっくりと止まる。
白い壁、そしてライオネルたちに協力してもらって黒い壁に対しても同様の検証を行ったことでこのネックレスについて、ある程度の見当がアレンにはついていた。
破壊した黒い壁が徐々に修復されている姿を眺めながら、アレンは首の後ろに手を回してネックレスを外そうとする。
しかしアレンの手は見えない力で弾かれているかのようにネックレスに触れることすらできず、しかたなくアレンはそのままの姿でライオネルたちに向き直った。
その動きを追うように炎が舞う。
「答えあわせでもするか?」
そう聞いてきたライオネルに、アレンは肩をすくめて苦笑する。今回の検証結果を見ればこのネックレスの効果は明らかだ。
「ライ、くず紙を投げてくれ」
「わかった」
ライオネルがマジックバッグから取り出したくず紙を投げ、それに向けてアレンは腕を動かす。
くず紙はアレンの跡を追うように現れた炎に包まれ、そしてアレンの手のひらの上に落ちる。その形状を一切崩すことなく。
「やっぱ幻影だな。あー、魔法と一体化した攻撃ができるようになるかと期待したんだけどな」
「しかし面白い装備なのは確かだ。おそらくだが魔法の属性で『火』は攻撃力、『風』は素早さが上がっている。それぞれの属性ごとにステータスアップする種類が違うんじゃないか?」
ライオネルの推理にアレンは首を縦に振って同意した。
先ほどの検証で、火魔法系列を使ったときは明らかに攻撃力が上がっており、風魔法系列を使ったときは素早さが早くなっていた。
魔法の属性は、火、水、風、地、光、闇の六種類。
それに対してステータスは七項目あり、攻撃力、防御力、生命力、魔力、知力、素早さ、器用さに分かれている。
装備すると魔法が放てなくなるので魔力は上がらないと考えれば、ステータスも六項目になる。
検証でわかった二つの属性とそれぞれ上がったステータスの関係性を考えれば、あながち間違った推理ではないだろうとアレンも考えていた。
「とはいえそれ以外は検証が面倒そうなんだよな。なんとか出来そうなのは防御力くらいか?」
「たしかに防御力なら俺が攻撃して、アレンが防げば多少は違いがわかるかもしれないな」
さっそくということで、アレンは切り抜いた白い壁を持って構えると、残った水、地、光、闇の属性魔法を唱えてライオネルの攻撃を受けていく。
その結果、明らかに当たった時の衝撃が和らいだのは地属性の魔法だった。
「とりあえず戦いに使えそうなのはこれくらいか。残りはおいおい研究するとして、明日に備えて今日のところは休もうぜ」
「そうだな」
そう言って検証を切り上げたアレンたちは、明日のボス戦に備えるために七十一階層から七十階層に戻り、体を休めることにしたのだった。
翌日。交代で長い休息を取り、体力も気力も完全に回復させたアレンたちは、七十一階層をなにごともなく通過し、ボス部屋のある七十二階層に到達していた。
巨大な扉を前に、ほどよい緊張感が六人を包む。
「「いくぞ」」
アレンとライオネルの声が重なる。それに応じたナジームたちの声を背に受けながら、アレンとライオネルはその扉に手をかけて開いていった。
前回はあったはずの王座のような椅子はそこにはなく、始まりを告げる者と自らを称した悪魔の姿もどこにもない。ただがらんとしたホールがそこには広がっていた。
アレンたちは慎重に中に踏み込み、全員が入ったところで扉が徐々に閉まっていく。そして扉が完全に閉まったその瞬間、ホールの中央に半径二十メートルはあろうかという巨大な魔法陣が現れた。
そして床からせり上がるように姿を見せたのは……
「ドラゴンかよ」
「なあ、アレン。あいつと悪魔、どっちが強いと思う?」
「さあな? まあ、試してみりゃわかるだろ」
「それもそうだな。いくぞ!」
「「「「おう!」」」」
黄金の瞳で真っ直ぐにアレンたちを睥睨する青い鱗の美しいドラゴンに向け、アレンたちは各々の武器を向けて駆け出したのだった。