軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 ライラックのダンジョン攻略報酬

アレンやナジームたちの柔らかい視線を受けていたライオネルが、こぼれた涙に気づき少し恥ずかしそうにしながらうつむき服の袖で目元をごしごしと拭う。

顔を上げたライオネルの瞳には既に涙はなく顔も普段どおりに戻っていたが、その頬の赤みだけは残っていた。

「さて、戦利品の確認をするぞ」

そう言って宝箱へ先頭に立って進むライオネルの姿に、アレンたちは顔を見合わせて無言のまま笑うと、そのまま後を追って歩き出す。

部屋の中央に出現した宝箱は三つであり、赤地に金で縁取られたその豪華な外装からも中身に対する皆の期待は膨らむ。しかしここで即座に蓋に手をかけるほど向こう見ずな者はここにはいなかった。

「アレン、確認を頼む」

「おう。ダンジョンボスの宝箱だし、たぶん大丈夫だとは思うけどな」

宝箱の前に座り込んだアレンが罠の確認を行っていくのを少し離れたところでライオネルたちが見守る。

慎重にアレンは調査を続けているためそれなりの時間がかかっていたが、ライオネルたちは文句一つ言うことなくなにかあったときには即座に動けるように注意しながら待ち続けた。

「ふぅ、さすがに三つ同時には緊張したな」

ついに全ての宝箱の確認を終えたアレンが息を吐き、ライオネルたちを呼び寄せる。そしてやってきたライオネルにアレンは少しだけ開けた状態で止めておいた宝箱を指し示す。

「最初の一つはライに譲ってやるよ。報酬は山分けするけどな」

冗談めかしてそういったアレンに苦笑を返したライオネルが後ろを振り返る。そして皆が自分が開けることを望んでいると理解したライオネルは、宝箱の右斜め前に立つとそっとその蓋を開いていった。

なにも起こることなく宝箱の蓋が完全に開ききる。そして宝箱の中に手を突っ込んだライオネルは、黒く、それなのに虹色に輝いて見える奇妙な金属のインゴットを取り出した。

「まさか、それは!?」

「ああ、たぶんオリハルコンのインゴットだ。実物を目にするのは俺も初めてだが、話に聞く特徴と一致している」

普段の冷静さを失い目を見開いて驚くパーシーの言葉に、ライオネルがオリハルコンのインゴットから視線を外さずに答える。ライオネルの瞳に映るオリハルコンのインゴットはゆらゆらと怪しいきらめきを放っていた。

いや、ライオネルだけではない。そこにいる全員がオリハルコンのインゴットから目が離せなくなっていた。

オリハルコンは伝説の金属だ。冒険者ギルドの最高ランクとして定められているだけあって、その名は良く知られているが実物を見た者などほとんどいない。

その希少さは冒険者ギルドが認めるオリハルコン級の冒険者の最大数が、ギルドの保有するオリハルコン製のギルド証の数を上限としているという裏事情からもわかる。

オリハルコン級の冒険者が本当に突出したごく一部に限られ、その数がなかなか増えない理由がここにあった。

しばらく目を奪われていた一同だったが、正気に戻ったアレンに促され気を取り戻していく。

そしてライオネルは宝箱の中にあった五本のオリハルコンのインゴットを自らのマジックバッグにしまうと、大きく息を吐いた。

「さすがにこれは国に供出だろうな」

「そうだな。オリハルコン製の装備を一度は使ってみたいと思う気持ちもあるが、それが無難だろう」

「褒賞として爵位が与えられるかもな。もしそういう打診が来たらライはどうする?」

「魔王の件が片付いていたら受けるだろうな。俺もそろそろいい年だし」

少し意外なライオネルの前向きな答えにアレンが目を丸くする。

もちろん褒賞として爵位のみが提示され、受けざるを得ない状況になることもありえるとアレンもわかっている。いくら強くてもこの国で生きようとするのであれば、国王を始めとした権力者に逆らうことは得策ではないからだ。

ただライオネルの答えは、自ら望んでそうしているようにアレンには思えたのだ。

「そんな不思議そうな顔をするな。俺もそろそろ身を固めようと思っているだけだ。それなら危険の多い冒険者稼業より安全に暮らせるだろうしな」

アレンから視線を外しながらライオネルが少し顔を赤く染める。その様子に首をひねるアレンに近寄ってきたピートがこっそりと耳元で囁く。

「ライオネルとセリオノーラさん、今、いい感じなんだ」

「えっ、マジで?」

「うん。プロポーズのタイミングをライオネルが考えてるってところかな。セリオノーラさんがライオネルにぞっこんなのは見え見えなのに……まったく困ったリーダーだよ」

にんまりと笑みを浮かべたアレンの様子に、ピートがなにを伝えたのか察しつつもライオネルはなにも言わない。そしてアレンも顔をにやけさせはするものの、それ以上からかうようなことはなかった。

そして残り二つのうち、一つの宝箱をナジームたちが開けていく。その宝箱にはレベッカのような行商人が使うようなリュック型のマジックバッグが入っていた。

その容量の程はわからないが、見た目と出た状況から考えても少ない可能性は低く、さらにバッグの左右に二つついたポケットもそれぞれ別のマジックバッグになっているという珍しい造りのものだった。

「おっ、これは当たりだな。分ける前の物資の管理なんかに便利そうだ」

「アレン。これはトリンに預けてもいいか?」

バッグを掲げ、嬉しそうに笑うナジームの横でパーシーがアレンに尋ねる。

アレンは少しも迷うことなく首を縦に振った。

「ああ、俺は単独行動が多いし、自前で持ってるマジックバッグで十分事足りてるからな」

「ありがとうございます、アレンさん。大切に使わせていただきます」

トリンの丁寧な感謝の言葉に、アレンは気にするなと伝えて笑みを見せた。

実際、ここにいる全員がマジックバッグを各自で保有している。ダンジョンで食料などの物資を持たずに誰かに預け、移動することの危険性を皆が知っているからだ。

ただ稼いでいるとはいえ『ライオネル』は金級冒険者のパーティだ。そのマジックバッグの容量は決して大きなものではなかった。

大容量のマジックバッグを保有していれば持ち運びできる物資も増え、とることの出来る手段も変わる。基本的にパーティで活動する『ライオネル』にとって、このマジックバッグは非常に有用な物だといえた。

「んじゃ、最後は俺が開けますかね」

残った宝箱の前にアレンが立つ。そして皆が見守る中、慎重にその蓋を開けるとその中をのぞきこみ手を伸ばした。

そして引き抜かれたアレンの手には、親指ほどの大きさの青白い宝石がトップにつき、それを囲うように二重のリングで覆い、そこから銀色のチェーンが伸びたネックレスがあった。

「魔道具っぽいな」

「そうだな。どうする、アレン?」

「とりあえず試してみるか。効果がよくわかんなかったらギルドに依頼するわ」

アレンがネックレスの止め具を外し、自らの首にかける。そして首の後ろで止め具をかけた瞬間、アレンの体がぼうっとした青白い光に包まれた。

突然の出来事にライオネルたちがビクッと反応するが、アレンが何事もなさそうにしているため、ほぅっと息を吐いた。

「どうだ。効果は実感できそうか?」

「んー、ちょっと待ってくれ」

アレンが首をひねりながら体を動かし始める。常人であれば目に見えないほどの動きをライオネルたちはしっかりと追っていた。

そして一通り確認を終えたアレンがゆっくりとその動きを止める。

「うーん、能力強化系かと思ったけど変わってないような気がするな。お前らから見てどうだ?」

「おそらく変わっていないな。もし上がっていたとしてもほんの僅かだろう」

「じゃあ次は魔法か。『ファイヤーボール』」

そう言ってアレンはいつもどおりに『ファイヤーボール』を出そうと唱えた。しかし火球が目の前に現れることはなく首をひねるアレンに、少し慌てた様子でライオネルが声をかける。

「おい、アレン大丈夫なのか?」

「なにがだ?」

「いや、お前の周りの光が赤に変化したから」

「おおっ、マジだ」

先ほどまでは青白い光に包まれていた体が、今は赤白い光に包まれていることをアレンが自分の手を見て確認する。

そしてアレンは次々に属性の違う魔法を唱えると、それに呼応するようにアレンの体を包む光の色が変わっていった。

そしてアレンはもう一度『ファイヤーボール』を放ち、光を赤に変えると持っていたステッキを壁に向け本気で素振りする。

轟音が鳴り響き、ステッキの軌道をなぞるように赤い炎が現れ、そして消えていく。まるでこれこそが正しい使い方だと示すかのように、はらはらと美しく散っていく火はどこか幻想的にも見えた。

アレンの口の端が上がる。

「悪いがこれは俺が使ってもいいか?」

振り向いてそう言ったアレンに、ライオネルたちはいい笑顔を浮かべ、迷うことなくうなずいて返した。