軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 ライラックのダンジョンボス

アレンとライオネルたちのライラックのダンジョンの探索は順調すぎるほど順調に進んだ。

それもそのはずでアレンほど徹底していないものの、ライオネルたちもレベルアップの際に上がるステータスを厳選しているため、常人とは比べられないほどの力を手に入れているからだ。

そもそもレベル五百の人間などほとんどいない。レベルを上げるためには危険を冒してモンスターと戦う必要があり、さらにレベルが高くなればなるほど次のレベルにあげるために必要な経験も増えていくからだ。

冒険者のようにモンスターと日常的に戦う者であっても、レベルが百五十を超えればそれなりの実力者と言われるくらいであり、二百を超えるような者さえ数えるほどしかいない。

例外があるとすれば、スライムダンジョンにあったレベルアップの罠を使って強制的にレベル上げをすることだが、レベルアップの罠を使用するとステータスは1しか上がらない。

それらのことを考えると、今のライオネルたちはこの世界でも有数のステータスを持った実力者となっていた。

本人たちにとっては小走りで、他の者にとっては全力疾走と変わらない速さでアレンたちはダンジョンを進んでいく。

そしてわずか二日目にして七十一階層にたどり着いた。

「これがライラックのダンジョンの最下層か」

「七十二階層にボス部屋があったから、最下層の一歩手前だな」

真っ白な通路を眺めながら感慨深そうに呟いたライオネルの言葉をアレンが訂正する。それに少し不服そうにしながらも、ライオネルは何も言わなかった。

「とりあえず壁抜けの練習だけしたら今日は戻って体を休めよう」

「そうだな。ここまで強行軍だったし、本格的な休息は必要だ。皆もそれでいいな」

アレンとライオネルの言葉に他の面々も同意し、アレンの取り出した壁抜けの道具を使用して壁をくりぬいてはそれを通り抜けるを繰り返していく。

そして道具を使った壁抜けをひととおり終えると、試しに自分の力だけで壁が抜けるかを皆が確認していく。しかし可能性がありそうだったのはライオネルだけだった。

「うーん、やっぱり僕は魔法も近距離も苦手だな」

「ステータス的には問題ないはずなんだが、俺も魔法はちょっとな。教えてくれたアレンには悪いが」

「長年染み付いた習慣は、ステータスが上がったとしてもすぐには変えられないということだろう」

「そうですね。私なんて自分から進んで戦うイメージが浮かびませんし」

四人が自らの結果に苦笑いする様をアレンはライオネルと共に眺める。

たしかに『ライオネル』はバランスのよいパーティだが、戦士のナジーム、弓使いのピート、魔法使いのパーシー、神官のトリンと戦闘に関しては、はっきりと役割が分かれている。

ステータスだけを見れば並みの魔法使いや、並みの戦士よりも高い値をしていても、これまでに培ってきた経験が体に染み付いてしまっているためうまくいかないようだった。

「まあ、その辺はおいおいだな。戦術の幅が広がるから慣れておいて損はないと思うぞ」

「慣れる時間があればいいがな」

「やけに悲観的だな」

「楽観は死を近づけると昔俺に教えたのはアレンだろ?」

「まあな」

試行錯誤して壁を抜けないか試している四人に視線を向けたまま、アレンとライオネルは言葉を交わしていく。

ライオネルの不吉な言葉を、アレンは否定しない。アレン自身、日に日に心がざわついていくのを自覚していたからだ。

このライラックのダンジョン攻略についても、ライオネルたちのレベル上げが終わったからというのもあったが、ダンジョンを攻略することでなにか有用なアイテムや武器が手に入らないかという思惑もあった。

ボスの強さと手に入る物しだいでは、何度も攻略することもアレンは視野に入れていた。

「なあ、ライ。魔王ってどんくらい強いんだろうな」

「少なくともダンジョンのボスよりは強いだろう。魔を統べる王なのだからな」

「だよなぁ」

はぁー、と大きくため息を吐き、アレンが天を見上げる。そこには白い天井があるだけでなにが見えるわけでもなかった。

「んじゃ、さっさとダンジョンボスを倒して本番の準備を整えますか?」

「そうだな、しかし……」

ふいにライオネルが四人から視線を外し、なにもない真っ白な通路へと視線を向ける。そして首をひねりながらアレンに向き直った。

「ここは嫌な感じがする」

「おっ、ライもそうか。実は俺もなんだよ。だからここではいつも休んでないんだ」

顔を見合わせた二人は、再び真っ白な通路へと視線を戻す。そこにはモンスターは存在せず、罠もない。安全なはずなのに、どこか胸がざわめくのを二人は感じていた。

「そろそろ戻るか」

「そうだな。明日に備えよう」

そう結論を出した二人は、壁抜けの練習を続けるナジームたちに声をかけると階段を昇り七十階層に戻っていったのだった。

翌日。

それぞれ十分な休息を取ったアレンたちは、七十一階層を進んでいた。壁抜けの道具は最も慣れたアレンが使用し、それを素早くライオネルたちが潜り抜けていく。

そしてなんのトラブルも起こることなくアレンたちは七十二階層にたどり着く。そこは以前アレンが見つけたときと変わらず大理石のようにつるつるとした素材で造られた大きな広場であり、その最奥には光沢のある黒で設えられた巨大な扉があった。

威圧感を発するその扉を前に、ライオネルたちはしばしそれを眺めながら動きを止める。

そして顔を見合わせると無言のままに皆がうなずいた。

「「いくぞ」」

アレンとライオネルの声が重なり、二人が扉に手をかけてそれを開けていく。ゆっくりと開かれていく扉の奥には王座のような椅子があり、そこに一匹のモンスターが腰掛けていた。

羊のような二本の折れ曲がった角を頭に生やしたそのモンスターの金色の瞳がアレンたちを捉える。

ライオネルたちが最大限の警戒を向けるそのモンスターを眺めながら、アレンは驚きに目を見開いた。

そして入り口の扉がゆっくりと閉まり、それが合図だったかのようにそのモンスターは優雅に立ち上がると背中の翼を大きく広げてみせる。

「ちっ、悪魔か」

ライオネルがその悪魔に愛剣を向けながら悪態をつく。

悪魔はモンスターの中でも頭が良く、魔法、近接共に得意な難敵である。さらに個体によっては特殊な能力を保持している者も少なくなく、単純なステータスだけでは測れない強さを持っていた。つまり油断のならない相手だということだ。

その悪魔は自らを誇示するように浮き上がると、アレンたちに向けて手を広げ、その尖った歯を見せて笑った。

「世界の変革を告げられし者どもよ。我は……」

「始まりを告げる者」

「ふむ、なかなかに博学な者がいるようだ。そう、我は始まりを告げる者。新たな世の始まりを、魔を統べる者の復活を告げる地獄の使者。来るべき絶望の未来を嘆くがいい、人間ども」

自らに陶酔するかのような表情で口上を垂れる悪魔を眺めながらアレンは首をひねっていた。そんなアレンに、視線は悪魔に向けたままライオネルが尋ねる。

「あいつを知っているのか、アレン?」

「知っているというか。ドゥラレのダンジョンで倒したな」

「「はぁ!?」」

アレンが当然のように返した答えに、ライオネルと悪魔の言葉が重なる。

アレンがイセリアとドゥラレのダンジョンのボス部屋に初めて突入したときにいたのが、この始まりを告げる者と証する悪魔だった。

マチルダの危機を直感で察したアレンが瞬殺してしまったためその強さはよくわからないが、その不吉な名前だけはアレンの記憶に強烈に残っていた。

アレンの言葉に驚きを露にしていた悪魔だったが、少しすると余裕を取り戻し不敵に笑う。

「なにを言っている。そんな奇妙な格好をした変人に我が倒されるはずがなかろう」

「……っぷ」

「だ、そうだぞ、アレン」

悪魔の言葉にアレンの背後で誰かが我慢しきれずに噴き出す声が聞こえ、ライオネルが少し笑いながらアレンに追撃をかける。

マスクの下で無表情をしていたアレンは、ゆらりとその体をゆらすと次の瞬間その場にアレンの姿はなかった。

「なっ!」

悪魔にはほとんどなにも見えなかった。アレンの姿がぶれたと思った瞬間、ふわりとした浮遊感を覚え、それとほぼ同時に自身の背後で何かが壁にぶつかるような鈍い音が聞こえたのだ。

そして自分の意思とは関係なく視界がどんどんと低くなっていき、ついには地面へと接する。その直後、ミシッと音を立てながら視界の片方がアレンのブーツによってふさがれた。

「首切られたぐらいじゃ死なねえんだよな、お前。ドゥラレのときも細切れにしないと倒せなかったし」

「ひいっ」

笑顔のマスクの奥から感じられる異様な圧力に、思わず悪魔が悲鳴を漏らす。

一閃して斬り飛ばした首を踏みつけるアレンの姿は、まさしく悪魔と呼ぶに相応しかった。