軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 共闘

それからおよそ三か月。あまりスライムダンジョンに出入りするところは見られないほうがいいと判断した『ライオネル』は泊り込みでアレン仕込みのレベル上げを行った。

アレンとは違い、上がった全てのステータスが七以上であれば許容したことと、昼夜問わず行ったことにより、全員のレベルは全て五百に到達していた。

アレンは物資の補給などでそれを補助しながら、冒険者たちへの調薬の指導を行ったり、赴任してきたギデオンのところの研究者の対応をしたり、時にはレベッカとコルネリアのレベル上げに付き合ったりと忙しい日々を送っていた。

家族と触れ合える時間は短くなり、しかしだからこそアレンはその時間を大切に日々を過ごしていた。

そんなある日

「じゃあアレン兄さん。僕はそろそろ帰るよ」

「本当に送っていかなくてもいいのか?」

「い、いや。アレン兄さんも忙しそうだし、僕もちょっとレベルを上げたからきっと大丈夫だと思う。馬車の旅にも慣れないとダメだしね」

早朝の北門で、アレンとジーンは別れの挨拶を交わしていた。少し青い顔でアレンの申し出を拒否するジーンがなにを想像したのかは明らかだった。

アレンとジーンは軽く抱擁を交わし、別れを惜しむ。

「気をつけろよ、ジーン」

「うん。いざというときはちゃんとフーノを連れて逃げるから」

そう小さく言葉を交わして体を離した二人は、少し離れた場所で待っていた馬車に向かう。そこには立派な四頭の馬に率いられた馬車が待機しており、そこで馬をマッサージしていた御者が二人に気づいてにこりと微笑む。

「よっ、マシュー。マシューカたちも元気そうだな」

「ええ。このたびはご指名ありがとうございます」

「マシューの腕は一流だし、マシューカたちもまた一流の馬だからな」

先頭に立つマシューカの首筋を軽くぽんぽんと撫でてやると、ブルゥと頭を振ってまるで当然といわんばかりにマシューカが俺を見つめる。つぶらな綺麗な瞳は以前アレンと旅したときと変わりなかった。

アレンとマシューカのやり取りを微笑ましく見守っていたマシューが、改めてジーンに挨拶する。

「ジーン様ですね。今回御者をさせていただきますマシューと申します。そしてこちらがマシューカ、マシュール、後ろの2頭がマシューテとマシューホといいます。アレンさんから馬車酔いがひどいとうかがっておりますので、細心の注意を払わせていただきますが、なにかありましたらお伝えください」

「ありがとうございます」

「護衛の冒険者たちの準備も終わっているみたいだ。じゃあな、ジーン。研究もほどほどにしておけよ」

「うん、またねアレン兄さん。兄さんも頑張り過ぎないように」

そう言葉を交わし、ジーンがマシューに手助けされながら馬車に乗り込む。そして馬車をぐるりと一回りして異常がないか確認したマシューがひらりと御者台に乗り込み、軽くアレンに手を上げた。アレンもそれに手を振って返す。

ゴトリと動き出した馬車の窓からジーンが顔を出す。その顔は心配そのものだった。

アレンは余裕のある笑みを浮かべ握りこぶしをつくって任せろと伝えたが、ジーンがその表情を変えることはなかった。

馬車が小さくなっていき、ジーンの顔も見えなくなっていく。だが頭を出し続けていることを考えればその心中がいかほどのものかアレンにはよくわかっていた。

「ジーンに俺が心配をかけるなんて、いつもと逆だな」

そんな風に少し笑い、心の中の寂しさを紛らわせながら、アレンは北門から家族の待つ屋敷へと戻っていったのだった。

ジーンが帰って数日後、ライラックのギルド内は異様なほどのざわめきに支配されていた。その中心にいたのは地元の星とも言われる『ライオネル』の面々だ。

数か月前に長期の依頼を終えてライラックに帰還したことは知られていたが、その後はときおりライラックのダンジョンを個人で探索している姿を目撃されたくらいで主だった活動は知られていなかった。

またなにか依頼を受けているだろうと思われていたのだが、それが数ヶ月ぶりに全員集合してギルドに現れたのだから話題にはなる。

だがそれだけではこれほどまでに大きな騒ぎになることはなかっただろう。つまりこの騒ぎの原因は、その隣に立つマスクを着けたクラウンの格好をした冒険者ネラの存在にあった。

同じ窓口に並んで立つ両者に周囲の冒険者が好奇の視線を飛ばし、話が速やかに広がっていく。

「おい、ネラと『ライオネル』がライラックのダンジョン攻略で協力体制をとるってよ」

「マジかよ。最深層の攻略に手間取っているって話じゃなかったか?」

「だから『ライオネル』と協力するんだろ。それだけネラも本気ってことさ」

「しかし『ライオネル』でいいのか? うちではトップクラスだが、ドラゴンダンジョンを攻略しているミスリル級パーティとかもいるはずだろ?」

「なんか考えがあんのか?」

そんな話をしていた冒険者に、ちらりとネラの姿をしたアレンが視線をやる。その冒険者たちは慌てて口をつぐみ、ぶんぶんと首を振って敵意はないと示した。

「あんまりいじめてやるな。以前の俺たちなら確かに深層に行ける実力はなかった」

アレンと同じく話が聞こえていたライオネルは、苦笑しながらそう認めた。貫禄さえ漂うライオネルの姿にアレンは視線を切ると、受付での手続きに戻る。

「それではこれで手続きは完了しました。パーティメンバーは七名。パーティ名は『ネラ』でよろしいですね」

「ああ。とりあえずこのメンバーで行動するときはそうしてくれ」

「承知しました。『ライオネル』についても継続しておりますので、今後は依頼を受けるときにどのパーティで受けるのか確認させていただきます」

「うん、よろしく」

手続きを進めていたピートとパーシーが振り返り、行こうと合図を出す。ネラを先頭に『ライオネル』の面々が堂々とギルドの出口に向かって歩き始めた。

「頑張れよ、『ライオネル』。生粋のライラックの冒険者の意地を見せてやれ」

「ダンジョン踏破してくれよ! ネラ、『ライオネル』たちを頼むぞ」

「ナジーム、帰ってきたら酒おごれ」

「おお、そりゃあいい。ライラックのダンジョンなら、うなるほどの金を手に入れられるだろうからな。俺も皆を応援してるぞ」

「お前は酒が飲みたいだけだろ。ライオネル、気をつけろよ」

笑いながら明るく声をかけてくる冒険者たちに、『ライオネル』の面々が思い思いに言葉を返していく。

その光景だけでも、どれだけ『ライオネル』が愛されてきたかがわかるようだった。そんなギルドを抜け、街の外に出たアレンは周囲に人の気配がないことを確認すると大きく息を吐いた。

「誰も俺の心配してなくね?」

「ネラを心配する必要がどこにある? 今でさえ単独で最深層まで探索しているんだぞ」

「そうそう。スタンピードを止めた実績もあるし、ライラックでネラの実力を疑う人はいないんじゃないかな?」

「いるとしたらにわかぐらいだな」

アレンのぼやきに、皆が笑う。こうして同じパーティとして歩くのはずいぶんと久しぶりだな、などと感慨にふけるアレンに、ライオネルが声をかけた。

「しかしアレンをパーティメンバーに入れる必要があったのか? ギルド職員はともかく、他の冒険者たちは俺たちが触れ回らない限りアレンの存在に気づかないと思うが」

「あー、それな。もし例の奴が現れたら俺はネラとして戦いにいくだろ。そのときにアレンに別の依頼が入るのがまずいんだよ。だからアレンは同じパーティで、斥候かなにかとして情報を集めて回っているって感じにしようかと思ってんだ」

「それなら姿が見えなくても問題ないということか」

「たぶんな。特に俺は有名になるつもりはないし」

「ポーション作りの名人としてライラックの一部で有名だけど?」

「知るか!」

冗談で混ぜっ返すピートに、アレンが笑いながら反論をする。昔懐かしい空気を感じていたのはアレンだけではなく、『ライオネル』の皆もそうだった。

ダンジョンに近づき、人が増えてきたのでアレンは言葉を発しなくなったが、それでもその空気は変わらない。

ダンジョンの入り口前でアレンとライオネルが目を合わせ、皆の方に向き直る。そこには自信満々な顔をしたナジームが、緊張感などまるでないように笑うピートが、不敵な笑みを浮かべるパーシーが、柔らかく微笑んで見返してくるトリンがいた。

「いくぞ」

「「「「おう」」」」

ライオネルの号令に皆が答える。彼らの耳には本当の声こそ聞こえなかったが、アレンがライオネルと同時に「いくぞ」と心の中で発した声をたしかに聞いていた。